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死神の悪戯

[chapter②]


眼が覚めると、私は日差しに照らされた一室の柔らかなベットの上で横になっていた。


「え」


私の目線の先には見慣れない模様の天井。


高鳴る心臓の鼓動とは裏腹に、私の眼孔はゆったりと辺りを見回す。


うさちゃんマークの目覚まし時計。

幼い頃お母さんに買ってもらったぬいぐるみ。

高校生の頃気に入っていた制服とミニスカート。


「嘘、あり得ない、、」


目の前に広がる酷く懐かしい景色に私の心は激しく動揺する。


私は急いで上体を起こし、布団を退かしてベットから降りる。


部屋に並ぶもの全てを片っ端から手で触れてみる。


筆箱、学校の教科書、幾重にも並ぶ普段着、貯金箱、木製の本棚とその上の写真立て、、


一つ、また一つと次々に私の中の奥底で眠っていた懐かしい記憶が弾けるように蘇っていく。


そして、私は鏡を見つけると息を呑んでそれに近づく。


そして、映し出された少女の姿を目にした途端に胸の鼓動が勢いよく脈を打つ。


「本当に私。高校生になっちゃったんだ」


なんと鏡に映っていたのは、なんとも若々しく可愛らしい少女だったのだ。


今じゃもう自分のことを自分で可愛らしいと思うことに一切の後ろめたさも感じない。


子供を授かってから自身の美に対する関心を無くしてしまった身としては、目の前にいる少女はもはや自分とは違った、他人のように思えてきてしまうのだ。


ニッと笑ってみせると真っ白な歯が顔を覗かせる。


いつもより格段に軽い足腰と一段と低い目線。重みの感じない若々しい胸元に懐かしいロングの髪型に加えて衰えの感じない視力。


私は胸の舞い上がるがままに、手元にあった化粧水を顔と首元にペタペタ付けると、髪を一編みに結ぶ。


再び、笑顔で鏡を見上げるとそこにはいつしか私が失ったポニーテールの女子高生 宮代楓が立っていたのである。




ーーー




全ての始まりは、あの夜だった。




「君にならかけていいかもしれない、


僕の、魔法を」


死神は声を低くしてそう言った。


「魔法?」


「楓さん。君は過去に戻りたいと思ったことはないか?」


過去への羨望。それは誰しも一度は抱いたことのある感情だろう。


自らの行いに対する後悔や、楽しかった頃を惜しむ気持ち。


理由は様々だ。


「そんなの、みんなあるよ。けど本気で思ったことはないのかな、だって 現実的に考えても そんなこと不可能じゃない」


「その不可能を、僕なら可能にできると言ったら?」


表情一つ変えずに問いかけてきた死神に私は少し不意を突かれた。


「そんなことできるの?」


「うん。決してこの魔法のことを他言しないと約束出来るなら、君を最後死ぬ前に1週間だけ 過去への旅に連れていってあげられる」


「1週間、、それほんと?」


「けどね宮代楓さん。いくら僕でも過ぎた現実を戻すことはできない。


この世界の時間軸を操ることはできないのさ。


だから僕が変えるのは、君という名の時間軸。君自身なんだ」


「それって、私だけ若返るってこと?」


死神はニヤッと口元を緩ませる。


「勘がいいね、そういうことさ。けど、人間1人のタイムリープにはそれなりの代償が必要でね」


「代償?」


「それはね、世界全体のタイムリープさ」


「思ってたより大きな代償ね」


「そりゃそうさ、人間一人の時間軸を変えるのだって簡単じゃないんだよ?」


成る程、これは危険だ。


「とてもじゃないけれど、私1人なんかの贅沢のために払っていい犠牲じゃないね。つまり私が1年若返れば世界の人々が1年先へ飛ばされてしまうわけでしょ?」


「そうだけど、そうじゃない。正確に言うと、その魔法の1週間が終わると世界は元に戻るんだよ」


「え?」


駄目だ、また話がややこしくなってきた。


取り敢えず黙ってそのまま死神の話に耳を傾けていることにした。


「つまり、何日前に戻ろうが 現実世界の時間が失われる訳じゃない。


“君の過ごす魔法の1週間だけが、君が若返った分だけ世界が年を取るだけ”さ」


成る程、理解できた気がする。


つまり、私が若返った分だけ世界の時計の針は進む。そして、その1週間が終わると世界は再び元に戻る、そういうことね。


「ただし、その場合必ず守ってもらわなくちないけない3つの約束事がある」


「教えて」


「1つ、現実世界の未来に支障をきたすようなことは避けなければならない」


まず一つ目は、私の予測していた内容と被っていた。


それもそうだ、その世界には既に死んでいない筈の私という異端因子が発生しているわけだから。


いる筈のない者が、勝手に他人の未来に干渉すれば問題が起きても何もおかしくはない。


「二つ、自分の正体を他言しない。真名も言っちゃダメだ。偽名でも考えておいてよ」


「はいはい、そこは定番だね」


「そして最後 三つ、1週間の最終日。7日目の19:00分、日が落ちる時間と同じタイミングで君の姿は消失し魂が浄化される。その後同様に1週間限りの仮想世界も消える。その時、君の消失を他人に見られてはならない。


以上だよ」


「ふむふむ、それだけでいいの?」


「うん、これだけでいい。これだけ守ってくれれば、君に最後の1週間をプレゼントしよう」


「嬉しいわ死神さん。実は優しかったりする?」


私はわざわざ魔法とやらを使ってまでして私に贅沢な想いをさせてくれる死神にどこか温もりを感じていた。


「あっはは、僕ってやっぱり優しいのかな?


なんだか、君を見ていたらもっと生きているところを見たくなっちゃってね。


そしたら、ほら。最後の1週間を過ごしたい年齢を教えてごらん」


私は目を閉じて考えた。


頭の中で私の歩んできた物語のページをぺれぺらとめくってみる。


どのページも、色鮮やかだったが 私は中でも 最後に夢を見るならここしかないと確信する章があった。


「決めたよ、死神さん。


私を12年前に、



高校2年生、夢と希望のJKにしてちょうだい♪」



「了解、君を12年前に戻す。そして、この世界を12年間早めよう。


あ、そうそう もう一つ。君が12年前に戻るということは君が誕生する上での必須因子も12年前に戻ることになるよってことを伝えておこう。


それでは、いってらっしゃい。これから君がゆく旅はたった1週間の、君の




人生最後の旅だ」

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