ハンバーグ、食べよっか
[chapter⑩(最終巻)]
「ねぇっ、ヤバイよ!泣泣
お兄ちゃんこれヤバイよ!泣泣」
「ど、どうしたんだよ?汗
泣きすぎだろ」
「もぅ、いいからっ早く読んでってー!泣
これヤバイんだってマジでぇー泣」
「わーってる、わーってる汗
ちょっと、外で読んでくるよ」
「あの田園いくの?」
「おう」
「そっか、、いってらっしゃい、、泣」
「おう、いってきますっ」
俺は靴に強引に足をねじ込むと、鍵も閉めずに勢いよくドアをあけて走り出す。
目指すはあの子供の頃、お母さんによく連れてってもらった田園。
よぅっ。自己紹介がまだだったな、俺は宮代 駆!
今日で20歳になる大学2年生だ。
趣味はスポーツをやることっ、あとは〜映画を見ることかな!
え、知ってるだって?
んだよ、おまえ物知りだな笑
実は、今日という日はすっごく特別な日なんだ。
なんで特別だかわかるか?
今日は6/19 俺の誕生日ってわけだ。
あ、けど 勘違いしてもらっちゃ困るな。
別段、俺の誕生日だから特別ってわけじゃねぇぞ。
大事なのは俺が20歳になったってことだよ。
これに意味があるんだ。
20歳になったら何ができると思う?
タバコ、飲酒、運転〜はもうちと早くから出来るか。
けど、俺とゆずはにはそれよりも もっと価値のあるものが待ってるんだ。
俺が今手に持ってるこの手紙だよ。
ここには、見ての通り“20歳になったら開封して読むこと!それまでは見ちゃダメです!
お母さんより”って書かれてる。
そう、これはきっと死んだ母さんが生前に残した俺たちの成人を祝う手紙なんだと思う。
さっきゆずはが号泣してたのはこれを読んだからだ。
てか、あいつまだ18なんだけどな。それでもあいつなりに長い期間を踏ん張ったらしく、もう俺が20になったから大丈夫だなんていって開封してやがったな。
まぁ、気持ちはわからなくもねぇ。
親父は仕事が片付いたら丁寧に読むつもりとか言ってたから後できっと読むよ。
中身は気になるとこだけど、俺はとりあえず母さんとの思い出深い田園でこれを読もうと思ってる。
気が付けば俺は、河川敷に沿って歩を進めていた。
隣の小川は徐々に沈んでゆく太陽の光を浴びて橙色を帯び始めていた。
川を挟んだ向かい側では、黄色の帽子を被った小学生たちがなにやら楽しげに列を成して親の待つ家へと帰っている。
田園までまだ少し距離あるし、先に開けてみるか、、
そして、俺は丁寧に折り曲げられた手紙を封筒の中から取り出すとゆっくりとそれを広げた。
手紙は何枚にも渡って続いていた。
俺は上から読んでいく。
冒頭にはこう書かれていた。
〜私の大切な大切な 愛息子 宮代 駆君へ〜
秋の肌寒さはなくなり、春の暖かな日差しが差し込み始めたこの頃、駆君はいかがお過ごしでしょうか。
元気にしていますか?
お母さんは天国で元気にしています。
う〜ん、にしても いざ手紙ってなるとまず最初に何を書けばいいのか困っちゃうよね。
駆だったら、どんな書き出しにするんだろう?
作文とか論文は得意?
まぁ、そんなことはいっか。
にしても、駆がこの手紙を読んでくれてるってことは20才になったってことだよね。
もしかして、まだ20になってなってないのに開封したりしてないよね?!
「あっはは、大丈夫だよ母さん。ゆずはしてたけど」
チリンチリーン。
「おーい、なんだ今日は由奈のやつとは一緒じゃねぇのか?」
この気怠そうに自転車を漕いでるのは高校も大学も俺と同じサッカー部のダチだ。
「バーカ、そんないつもどこでも一緒にいるわけねぇだろ」
「ハーイ、ソーデスカー。童貞にはカップルのことなんざわかりませんよーと」
「急に拗ねられても困るぜ笑
おまえこそこんな休日にどこいこうとしてんだ」
「オレァ単にTSUTAYAに期限切れすれすれのDVDを返しにいくとこだ」
「そか、それじゃ急がねーとな。
んじゃまたな」
「おうよ、じゃな。来週の飲み会ぜってーこいよ〜」
「お〜う、考えとく」
再び1人になる。
手紙に視線を戻す。
〜
かける、成人おめでとう。
お母さん、心より祝福申し上げます。
かけるもこれで大人の仲間入りだね。
いいですか、駆君。
この先 悲しいことも、辛いことも、苦しいことも、たーっくさんあると思います。
乗り越えなきゃいけない壁も試練も、駆が長く生きれば生きるほどほんとに数えきれないくらい多いと思う。
でもね、それと同じくらい楽しいことも嬉しいことも笑いあえることもたーーーっくさん、あるから。
正直、お母さんとしてはかけるやゆずと一緒にそれを乗り越えられないのがすごく惜しいし残念です。
かけるが、疲れて尻餅をついた時は力付くでも私がこの手で立たせてあげたかったし ゆずが泣き寝入りしちゃった日には大好物の唐揚げを作って慰めてあげたかったです。
でも、それは残念ながら叶いませんでした。
もっと、2人とずっと一緒にいたかったな。
2人が壁を乗り越えた先でみる景色には一体どんな光景が広がってるんだろう、私も一緒に眺めてあげたかったな。
だから、ごめんね。
おそらく、いや、絶対かけるたちには本当に寂しい想いをさせちゃってると思う。
周りの子供達が、家に帰って今日起きた嬉しいことや悲しかったことをお母さんに報告さる中でかけるにはそれが出来なかったんだもんね。
本当に辛いことだし、申し訳ない気持ちで胸が痛いです。
私も、かけるの嬉しかったことも悲しかったことも全部、毎日聞いてあげたかったんだよ。
けど、どうかお母さんを恨まないで下さい。
お母さんも自分を恨みたいところだけれど、そしたら今度は私のお母さん、かけるにとってはおばあちゃんだね、に失礼になっちゃうから。
「ったく、そんな恨むわけねーじゃん」
けど、そうだよね。かけるはすっごく優しい子だから。そんなことしないよね。うん。
かけるはまだサッカー続けてますか?サッカー、楽しいですか?それとも他に何か好きなスポーツを見つけたのかな?
こう見えても、私とお父さん学生時代はバリバリ運動部だったからかけるも運動には自信持ってくれてると嬉しいな〜。
あ、でも文化部とかでも全然いいと思う!
どんな道に進んでもお母さん心から応援するからね。
あとは、どんな音楽が好きですか?お母さんは若い頃はj-popよく聞いてたよ。
どんな動物が好きですか?今は、何か飼ってたりするのかな?
何色が好きですか?ちっちゃい頃は青い絵の具ばかり使ってたけれど。
勉強はしっかりできてますか?お母さん、天国いっちゃった今でも勉強だけは怠って欲しくありません!
勉強は進路を決める本当に重要な手段だから手を抜いちゃだめだよ。
身長はどれくらい伸びたかな?170は超えてくれたよね。
けど、父さんみたいに身長ばかり伸ばして体重が増えてないんじゃ身体に悪いよ!
男の子だったら好きな昆虫とかいるのかな、好きな漫画は?映画は?どんなゲームをしてるの?好きな食べ物は?麻婆豆腐は確実に今でも好きだよね。小さい頃は毎週のごとくねだってたもん。
好きな子はできた?お隣さんの神崎由奈ちゃんとは今もいい感じ?
「ブッ! ちょ、まじかよ、、なんで母さんが知ってるんだ、、」
なんで母さんが知ってるんだ、なんて思った?
そりゃあ〜、母ですから♪
なんて言いたいけれど、本当のところはお母さんかけるのことわかってあげられてるところなんてほんの少しなのかもしれないね。
お母さん、かけるのことで知りたいことがいっぱいです。
あげたらもう、きりがないや 〜
何やら、ガヤガヤと騒がしい音が聞こえたので顔を上げて川を隔てた向こう側に顔を向けてみると大学のオーラン、俗にいう飲みサーである、が水遊びをしていた。
中には、佐藤翔太郎や江頭亜紀も混ざっていた。
「ほらほら亜紀〜、やり返してみろって〜」
「もー笑 意地悪しないでよ〜」
にしても江頭は大学に入ってから特に丸くなったものだ。
高校の頃はまるでクラスのギャルを束ねるギャングのような存在感だったというのに。
そんな風に思いながら苦笑していると、
「オーーイかける〜、おまえも混ざろうぜー!」
「いやぁ、さすがに遠慮しとくわ〜(そのメンツは汗)」
と駆け足でその場から離れると、俺は気が付けばあの頃 何度も訪れていた田園に到着していた。
抑えていた記憶が一度に溢れ出てくる。
ここでカブトムシを捕まえて母さんに自慢したあの時、母さんは笑顔で褒めてくれた。
それと同時に、昆虫も私たちと同じ生き物だから大切にしないとダメだよって優しく教えてくれた母さん。
帰りにはそのままハンバーグ専門店に連れてってくれたっけ。
いつしか、俺の目の前にはカブトムシを手にとって走り回る幼い青い服を着た少年とそれを笑顔で見守る母親の残像が見えるようになっていた。
再び、手紙に視線を落とす。
〜
もっと、もっと、かけるのこと知りたいし 理解してあげたい。もっともっと、私の息子を甘やかしてあげたい。
けど、お母さんにはそれも叶いませんでした。
けどね、かける。
他のお母さんたちと比べたら、決して長い期間ではなかったのかもしれないけれど 私がかけるとゆずに貰った時間は私にとって一生の宝物なんだよ。
かけるは6年間、ゆずはは4年間 あなた達が私に与えてくれた時間はかけがえのないものなんだよ。
かけるを生んだ時は、本当に不思議な感覚でさ。
あ 自分の命よりも大切ってこういうことなんだ、って思ったんだよ。
初めてかけるが私のことママって呼んでくれた時はすっごい嬉しかった。
かけるに私のことママって認めてもらえたんだなぁって。
もう泣いちゃったんだよお母さん。
初めて両足で立つことができた日も、お母さん感動しちゃったな。
息子の成長をこの目で間近で感じることができてさ。
初めて保育園に預けた時は、かけるったらお母さんいなくなったらすぐ泣いちゃうんだもん。おかげで全然離れられなかったよねぇ。
自転車、1人で漕げるようになった時は本当に頑張ったね。
何度転んでも転んでも諦めない姿にお母さんも胸をうたれました。
あとは、喧嘩した日の夜 私がしょんぼりしてたら そのことでかけるったら寝れなくなっちゃったのかな。わざわざ真夜中に謝りにきてくれたの覚えてる?
もう、あまりに可愛くてころっと許しちゃうよね〜。
お母さんは2人と過ごした時間を決して忘れません。
かけるはどうですか?
まだお母さんのこと、少しでも覚えていてくれますか。
忘れないでいてくれるとお母さんすっごく嬉しいな。
「忘れるかよ、、忘れられるかよっ、、泣」
もし、この先辛いことがあったら、というかあるから、
そしたら、無理なんてしなくていいんだよ。
立ち止まってもいいの。
心が辛い時寂しい時、よければこの手紙を開いて私に甘えに来てね。
男の子でも泣いたっていいの。
思う存分泣いちゃえ。
存分に泣いたらあとはまたゆっくり顔を上げて、歩き出せばいいから。
この先かけるが、成長して大きくなって
かけがえのない仲間たちと笑い合って、
可愛い恋人さんと手を繋いで、
スーツに袖を通し男の子らしい立派な社会人になって困ってる人に声をかけて、
華々しい結婚式を上げて、愛しのお嫁さんを抱っこして、
最愛の子供たちと一緒に遊園地に出かけてと、
そんな幾重にも連なる未来をお母さんはすぐ側で見届けることは、残念ながら叶いませんでした。
叶わなかったけど、でもお母さん遠くからでも見守ってるからね。どんな時でもかけるのこと、応援してるからね
頑張れ駆!
負けるな駆!
最後になったけど
人って成長する度に少しずつ好みも性格も変わってゆくものです。
けど、その根底にあるものはどうやったって変わらないんだよ。
かけるの根底にあるものは、優しさと勇気です!
小さい頃からそれはよくお母さんにも伝わってきました❤︎
だから、かける。
どうか、そのままの君で成長していって下さい。
締めになりましたが、最後にお母さんがどーうしてもかけるに伝えたかった感謝を述べてこの手紙を結びにしたいと思います。
かける
星の数ほどいる母親の中から、私 宮代 楓のお腹を選んでくれてありがとう。
私の元に生まれてきてくれて
本当にありがとう。
私の子供でいてくれて
ありがとう。
宮代 駆の母 宮代 楓より〜
手紙はそこで結びとなっていた。
目を閉じた暗闇のスクリーン、いくつもの母の顔が浮かび上がってくる。
お風呂で笑う俺をみて笑うお母さん。
俺がフライパンに手を近付けて泣きながら怒るお母さん。
絵本を読ませながら子守唄を歌うお母さん。
運動会で拳を突き上げて応援するお母さん。
幼い頃お母さんが1番好きって言った時に私もって言って抱き締めてくれたお母さん。
気が付けば、俺の目から零れ落ちる大きな雫が手紙を濡らせていた。
俺はその5枚に渡って綴られていた手紙を胸元で抱き締めた。
「参っちゃうなぁ、、泣
ありがとうを伝えたいのは、俺の方だってのに、、泣」
俺はふと、夕焼け空を見上げる。
「母さん、そこで見てくれてんのかな。
俺、頑張るよ。
家族のために仕事も一生懸命頑張る、ゆ 由奈も絶対幸せにするし、子供ができたら精一杯その子を幸せにしてみせる、
母さんが、俺にしてくれたようにさ、、」
ーーー
俺はしばらく放心状態でその田圃の大きな木の下で夜空を眺めていた。
気が付けばあたりはすっかり真っ暗になり、そろそろ帰るかと重い腰をあげる。
すると、耳によく聴きなれた声が入ってきた。
「かける。おめぇ、やっぱここにいたか」
「ほらね、お父さん。私の言った通りでしょ」
「そうだな、おーいかける〜。帰るぞ〜、ハンバーグでも食いにいこーか」
「父さん、、ゆず、、」
俺はそそくさに目に溜まっていたものを拭き取ると2人の元に歩み寄った。
「ここで母さんの手紙読んでたのか」
「うん。父さんは読んだの?」
「あぁ、読んだとも」
「お父さんめちゃんこ号泣してたんだよ〜笑 ま、私もだけど」
「そりゃなぁ〜あんな文体で書かれちゃそりゃ涙溢れますわぁ。
無理せず再婚も視野に入れていいんだよ〜、なんて慰められたら、もう俺 この歳じゃ身体の中の水分絞り尽くされちまうっての」
「あっはは笑 それキツイね笑」
すると、ゆずはがちょっぴり俯いて寂しげな声で呟いた。
「にいちゃん、父ちゃん、、私お母さんに会いたいよっ、、、泣」
「あぁっ、、、会いたい、なぁっっ」
「、、、そうだな、ゆず」
「うえーーんんん泣泣」
「うぇーん、父ちゃんも寂しいよー泣
よーっし!泣
我が子たちよ!今日は思う存分喰え!学費なんざ気にするな!泣
腹に押し込めっ!!泣泣泣」
泣きながら親父にしがみつくゆずと泣いてるのか笑ってるのかの区別もつかない父に同情し微笑みつつも、月の出てきた夜空を見上げた。
そして、満点な星空に感銘を受けつつも この無数の星たちの内のどれかにまるで母さんがいるような気がしたのであった。
ーーー
どうも、みなさんお久しぶりです。
私です、死神でございます。
皆さん、あれから死についてなにかお考えになりましたでしょうか?
死。それは生命の終わり、意識の断絶、感覚の終焉。
けど、そんなのありきたりな言葉ですよね。
私も、もう聞き飽きました。
しかしね、今日は非常に面白みのある方の魂を浄化させて頂いたんですけれどもね。
彼女にちょっとした魔法をかけたんだすけどね、おかげで一つ新しい発見ができました。
どうやら、人間というものは自らの生を絆という形で次世代に繋げるんですって。
クックッ、つくづく底の知れない種族ですよね、人間とは。
おっと、新しい浄化命令が入って参りました。
それでは、またいつの日か。
次に死神の魔法をかけられるのは、
あなたかもしれませんねぇ。
ーfinー
➡︎エンディング曲挿入【僕らの手には何もないけど】