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賢妃

 芸妓を黒曜はつけていた。

 皇帝には五人の妻がいる。皇后と正一品の四人。

 しかし皇后は、元々後続の生まれではあったが、幼くして病にかかり、おそらく子をなすことができないと言われたので、そのまま随分な年になるまで飼い殺しになっていた女性。

 そして、徳妃の真珠はこの国の最大宗教を束ねる。統理天孫の巫女となるはずだった女性だ。

 出自は名門貴族であるが、それ以上に教団の力のほうが強い。

 真珠を後宮に入れているのは人質という意味合いのほうが強い。

 本人も巫女としての自分を強く意識しているので、皇帝自身の手も拒む。

 皇帝としても身柄さえ押さえればいいので、あえて手を出すこともなかった。

 哀れを極めるのが淑妃の珊瑚だ。

 珊瑚は、この国の後続に次ぐ重要な貴族の娘であるが、それゆえ皇帝に最も警戒されている。

 彼女は幼い頃から、皇帝の寵愛を受けそれを一族に還元するようにという教育を受けていた。そしてそれこそ皇帝が最も忌むべきことなのだ。

 皇帝は先代の皇帝を心から嫌っていた。その皇帝と同じ愚を犯させようとする女性に対し好意的になることはなかった。

 せっかくの美貌も持ち腐れて、ただ後宮に幽閉されるだけの立場だ。

 残る二人、賢妃の黒曜と、貴妃の翡翠。

 貴妃、翡翠は没落貴族の娘だ。しかし、没落原因が、上層部の腐敗を暴こうとしたからという評判なので、国民の人気は高い。

 そして黒曜、皇帝直属の将軍の娘としてそれなりの信頼を勝ち得ている。

 実際はこの二人が、皇帝の事実上の妻だった。

 そして黒曜はため息をつく。

 五人の中で最も容姿がパッとしないのが、黒曜だった。

 手を出すのなら、やはり美しいほうがいいに決まっている。

 翡翠は五人の中で最も美しいと黒曜は思っていた。

 かつては、父もいずれ皇帝も翡翠に飽きると言っていたが、それで黒曜に手を出す可能性は限りなく低い。

 最近は現実的になってきたのか、器量自慢の侍女をよこそうとする。

 皇帝に愛されないときは、一族の女性を引き立てて、一族に尽くすのが使命だと言われた。

 元々黒曜は妃になどなりたくなかったしなるはずもなかった。

 ただ、ため息だけが漏れるだけだ。

 見た目が悪いのは仕方がない、実際今も浅葱色のお仕着せを着ただけで目立たない侍女になり果てている。

 不意に芸妓が足を止めた。

 ぴったりと距離を置いてついていた黒曜はいまさらどうしていいのかわからずあたふたとその場で立ち尽くす。

「何の御用です?」

 芸妓はにっこりと笑う、しかしその眼は笑っていなかった。


 可愛らしいが、少々あか抜けない少女。それが自分をつけてきた相手に埵する鈿花の第一印象だった。

「あの、貴女は下級妃になるの?」

 言われた意味が分からずしばらく鈿花は停止する。

「貴妃が貴女をそばに置くことにしたのは、自分の代わりに陛下の相手をさせるためだって」

 懐妊が分かった妃は出産するまで皇帝のおとないを禁じられる。子供の安全を最優先だから仕方がない。そしてその間に別の妃に寵愛が映るという伊野もよくある話だ。

 それを避けるため適当な女を下級妃に滑り込ませ、皇帝をつなぎとめようというのもよくある話だという。

 すでに鈿花の常識からずれすぎて、事態が理解しがたいが。

「私は、貴妃様と一度も話したこともありませんよ」

 なんだかすごく追い詰められた顔をしている少女に鈿花は同情しつつ、自分でもわからない身の振り方を説明などできない。

「たぶんならないと思いますから、どちらの方です?」

 フルフルと震えながら少女はそのまま走り去ってしまう。

 追いかけることも考えたが、やめた、鈿花が何をできるというわけでもないのだ。


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