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淑妃

 ぎしぎしと痛む身体を引きずって、鈿花は芸妓たちに与えられている練習場を後にした。

 ここでは、一人舞ができるのは、それなりに地位の高い芸妓のみと決まっている。

 鈿花の様にぽっと入ったばかりの芸妓にそれを許すはずもなく、五人以上で舞う群舞に回されたが、鈿花のいた妓館は人数が少なく、多数で舞う群舞などなかった。

 ほとんどやったことのない群舞がそうそうこなせるはずもなく、数倍の修練を積む羽目になった。

 腰の位置や、伸ばす手の位置など、いちいち停止して直された。その結果身体がギシギシ言っている。

 足を引っ張る身となった以上、同じ群舞を舞う芸妓たちとも微妙に話し辛い。

 それに、入ってきた経緯が経緯なので、腫れ物に触れるような扱いはある意味しょうがないと思っている。

 鈿花の前に唐突に、同じ色の着物を着た女達が立ちふさがった。

 色はくすんだ赤。

 王宮の女官達は制服として、浅葱色の着物を着ている。それ以外の着物を着ているのは上級の妃達のお付きと言いうことだ。

 一応、妃達関係のことは頭に叩き込まれている。

 皇后付きが、鳥の子色。貴妃付きが紺色。徳妃付きが乳色。賢妃付きが灰色。淑妃付きと考えるべきだろう。

 妃関係のことでかろうじて覚えているのはそれだけだが。

「淑妃様のお召しである」

 声をそろえてそう言った。

 尊い方の使者である、鈿花の身分ならば、恭しくひざまずかなければならない。

 慌てて、鈿花は床に膝をつき、両手をそろえて袖で顔を隠すようにする。

「承りました」

 この場合、鈿花に拒否権はない。


 後宮は五つの区画に分かれている。

 東西南北と中心。

 中心に皇后。東西南北それぞれに、貴妃、徳妃、淑妃、賢妃が配置されている。

 そして、それぞれの周囲に中級妃や下級妃が住む区画があるのは、妃の実家の派閥の下級妃や中級妃が住まうことになるからだ。

 後宮に妃を送り込むことも政治活動の一環であるから、貴妃の下に、貴妃の親戚の娘が中級妃、貴妃の元侍女が下級妃にということがよくあった。

 しかし、今は中級妃、下級妃ともに無人だ。

 工程が即位して間もないということもあるし、先代の工程が身を持ち崩したのは多数の妃達のいがみ合いというのも一因として挙げられているので、基本の五人を押さえたら、あとは数を増やすのを押さえているらしい。

 淑妃の住まう宮殿は赤を基調としていた。

 巨大な椅子の上で、中肉中背ほどの女が座っていた。

 背後には揃いの赤いお仕着せを着た女多胎がぞろりと並んでいる。

 鈿花は部屋に入ると同時に膝をつき両手を顔の前でそろえた。

「顔をあげなさい」

 いかにも尊大そうな顔をした美女が鈿花を見下ろしている。

 淑妃珊瑚、その名の通り、淡い物から深紅まで様々な色合いの珊瑚の簪をたっぷりとさしている。

 重くないのかなあと心配するぐらいたっぷりた。

「褒美はいくらでもとらせよう、その知識を私に披露してくれたならね」

 いったい何を知りたいのか、そう質問することは鈿花にはできない。聞かれたことだけ答えればいいのだ。

「お前、貴妃翡翠の弱みを握っているわね」

「知りません」

 鈿花は即答した。

「とぼけるな、あの女はお前の顔を見て卒倒したのよ、よほどの弱みを握っているのでしょう」

 そんな強烈な弱みを誰であっても握った心当たりなどない。

「妊娠からくる貧血で倒れられたと聞きましたが」

 貴妃の懐妊は既に王宮中で評判となっている。

「あくまで白を切るの」

 本当に知らないのだが、相手は何か勘違いしているのか追及の手を緩めるつもりはないようだ。

「では、なぜ王宮内にお前をとどめようとするの」

「本当に弱みを握っているなら、王宮内にとどめないと思われますが」

 鈿花の身分ならば、王宮から出入りする手段を断てば、それで二度と貴妃に近づくことはできない。

「偽りがばれた時は、どういう目に合うかわかっているでしょうね、そうなる前に話したほうが身のためとだけ言っておくわ」

 そう言って淑妃は犬でも追い払うように鈿花に足し出て行けと怒鳴った。


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