見せしめ
三日の猶予それが吉と出るか凶と出るか。月姫は様々な武器類を屋根に上げるのを見ていた。
陣地はできるだけ上にあるのが望ましい。そう老師は言った。
モノは上から下に落ちる。矢などを上から下にいたほうが殺傷力は増すし、見晴らしもいい。
理屈としてはわかる。
だが、それを実感としてはわからない。自分はチンピラと小競り合いをしたことはあっても実戦など経験していいのだから。
普段着ていた着物から、他の少年達の小さくなった服を借りた。
灰色の男物の着物。長い髪だけはどうしようもないので、後ろでまとめて、乱れないように固く編んでおいた。
「ああ、元、何事」
ほかの場所で作業をしていたはずの元が慌ててこちらにやったきた。
「佶の家がなんか夜逃げしたみたいだ」
それはとっくにわかっていたはずだ。
「結構な数の使用人が置き去りにされたみたいで、右往左往してたぜ」
「ふうん、あんなふうに話してたから、それなりの数連れて行くと思ったけどねえ」
「あの馬鹿の勝手な行動ってやつじゃねえか?」
あの恩着せがましい顔が浮かんだ。
「まあ、結局あてにならないって最初からわかっていたからいいけど、それにいなくなってくれたほうがこちらとしては都合がいい」
指揮系統が複数になれば混乱する。これも老師の言葉だが、それに関しては痛いほどわかる。絶対あの老婆はいらない口出しをして、こちらを混乱させたに決まっている。
「あの連中、残らず取り残されたみたいだな」
佶家にやとわれていた自警団と称する破落戸のことだ。
「こちらに来られても、どうしようもないが、とりあえずできる限り排除でお願いしたいところね」
「まったくだ」
生き残るためには手段を選んでいられない。それは誰にとっても同じことだった。
破落戸たちが考えたのは現在、彼らに対抗する手段として、投入された愚連隊が反逆ののろしを上げつつあるということを密告することだった。
自分たちが生き残るためなら、自分たちの何十倍の数の人間が死のうと関係ない。
彼らを見捨てた主と同じ発想だ。
そして彼らのできる生き方はたった一つしかない。
強いものに媚びへつらい、それによって活路を開く。
媚びる材料はあった。あの腹立たしい愚連隊が、反乱軍相手に罠を仕掛けている。
愚連隊の頭を張っているいけ好かない少女が指揮を執っているらしい。
復讐にはちょうどいい。
手土産もあることだしと彼らは浮かれて反乱軍に近づいていった。
自分達だけが助かるなら、街の人間がどれほど殺されたってかまわない。そして常に自分の都合のいいように物事を考えてきたのだ。
そして反乱軍の姿が見えた時ふと胸に衝撃を受けた。
下を見ると胸に矢が刺さっている。
隣を歩いていた仲間の頭にも矢が刺さっている。
そしてバタバタと倒れていく。そして自分と仲間の血だまりに倒れ伏す彼らはただ空をつかんでいた。
虚ろな目を見下ろす誰かが適当にさらしておけと告げた。
烏が彼らに向かってゆったりと舞い降りていく。
それを追い払おうとする人間は誰もいなかった。




