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 コンコンコンと金槌が鳴っている。

 薄い木の板にくぎを打ち込んでいるのだ。薄い木の板から釘が飛び出したそれを相手が通るだろう場所に撒いておく。

 月姫達はそうした小道具づくりを横目に攻撃の手順に関するが意義の真っ最中だった。

「建物が密集している、この状況は以前山岳地帯での戦いに似ている」

 老子と呼ぶ老人。大昔の戦場でそれなりに武勲を立てたという過去を持つ老人は周辺地図を筆の尻で叩いた。

「つまり、隠れる場所が多数あるということだ、あちらは正規軍、まともな戦いは難しい、ならばまともじゃない戦いをすればいい」

 月姫達は神妙に聞いている。

「罠をあらかじめ仕掛けておく。これは大変よろしい。一度罠にかかった仲間を見れば、警戒して動きが鈍る」

 老人はかつての自分の経験をきっちりと少年少女に叩きこもうとしている。

「隠れた場所からの攻撃、つまり不意打ちこそ、勝機と考える。敵の姿が見えないのに、攻撃だけは食らう。これは平氏にとってかなり精神的負担となる。とにかく隠れながら的確に攻撃を。そして、罠に誘い込むための手筈も大切だ」

「それは私達に任せてもらえるかしら」

 声は月姫の後頭部から聞こえた。

 振り返れば十人ほどの若い娘達がいた。

「女の悲鳴を聞いたら、若い男なんか簡単に釣れるんじゃないかしら」

 中心に立つ娘は月姫よりわずかばかり年長だ。そして、端正な顔立ちをしていた。

「香樹」

 香樹はにっこりと笑った。

「どうせ殺されるなら一矢報いてからのほうがいいわ、そうでしょう」

 香樹の背後に立つ娘達は強張った顔をしていたが一応に頷いた。

「危険だよ」

「それは何もしなくても同じことだわ、大体、あたしより年下のあんたが打って出ようってのに、私が何もしないわけにいかないでしょう」

 そして、老師のほうを見た。

「どうかしら、私達では餌にならない?」

「寄ってくるなら十分だろう」

「じゃあ決まり、私達がうまく罠に誘導してあげる」

 香樹を月姫はどこか悲しげに見た。

戸惑い顔で見た。

「街の皆に火を点けておいて、何でそんな顔をしているの」

「皆が戦わなきゃ、生き残れる人はいないと思う」

 背後の強張った顔をした娘がそう言った。

「ああ、そうだ、あの空き地に鈴蘭の群生があるでしょう」

 食べられる草はほとんど食べきられている。あるのは危険すぎて、誰も食べない毒草だ、そうしたものは無駄に茂っている。

「あれを罠に応用できないかな」

「食べたら死ぬけど、傷口に入っても死ぬかな」

 その場にいた全員が顔を見合わせる。

「一か八かだな」

 元がそう呟いた。



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