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火蓋

殺された知人達、それはすでに人としての原型をとどめていない残骸となっていた。

 その遺体を葬る間もなく高らかに告げられた。

 三日後、もう一度同じことをすると。

 それは、月姫の住む区画だった。恐慌状態に陥り。逃げようとするも、その動きを察知し、逃亡する順路に兵が潜んでいた。

 一番大きな店の中で、どうすればいいと泣き喚く大人達を、月姫は冷めた目で見ていた。

 月姫は椅子を高々と持ち上げると食卓に叩きつけた。

「殺されたくないなら、殺せばいい、三日ある、何とかしよう」

 いきなりの破壊音に驚愕した大人たちは、とんでもないことを言い出した少女に呆れかえった。

「殺すっておまえ」

「どのみち殺されるなら、一人でも道連れにしてやるべきだと思わないの」

 少女はむしろ不思議そうな顔すらしていた。

「あのな、人を殺すってのはそんな軽いことじゃないんだ」

 年長者のまっとうな意見を少女は鼻で笑い飛ばした。

「そう、たった一晩であれだけ死んだのに?」

 言われて、かつての惨状を思い出し、大人たちは眉をひそめた。

「あのな、あいつらは正規の軍人なんだぞ、俺達に何ができるっていうんだ」

「とりあえず、屋根に上って何かぶつけたら?ちょっと重いものなら当たった拍子に死んじゃうんじゃないかな」

 そんなことを言い出したのは月姫の隣にいた陽輝だった。

 具体的、かつ安全そうな手口を指示されて大人は息をのんだ。

「あと、海水を汲んでくることができるよね、海水を使えば簡単な目つぶしぐらいできるんじゃない?」

 封鎖されているのは街から出ていく道に限られている。それ以外の港に向かう道は封鎖されていない。

 ただし、そこから匿ってくれる人間はいないが。

「三日あると考えよう」

 月姫はそう言った。その場にいた全員が月姫の一挙一動に目が離せなくなっていた。殺される前に殺す、言われるまで気が付かなかった観点。しかし、このままおとなしくしていたと手殺されることに変わりない。

 そして月姫は灯したのだ。万が一にも生き延びられるかもしれないという希望の灯を。

「女王様の仰せのままに」

 元はそう言って月姫の足元で膝をついた。

「ふざけてんじゃないわ」

 脳天にこぶしが見舞われたが、元としてはふざけているつもりはなかった。かなり本気だった。

「とりあえず、思いついたことを挙げてみればいい」

「板に釘を刺して踏むと怪我するようにしたらどうかな」

 さらに外道なことを陽輝が言い出した。

「そういうのを敷き詰めて、それで縄とか張って転ばすといいかもしれないよね」

 基本的に月姫が暴走した時、止めるのが仕事のような陽気だったが、しょせんは姉弟、暴走し始めたら姉とそう変わらないらしい。


 恵介達はひっそりと静まり返った街を表情のない目で見ていた。

 活気というものが全くない。それは介達たちが来たからそうなったのかもしれないし、最初からなかったのかもしれない。

「とりあえずは、見せしめだ、この街は罪を重ねすぎた。この国の民の生き血を吸い上げて繁栄した町は浄化されなければならない」

 まっすぐな目をして彼は至極真剣かつまじめにそんなことを言う。

 傍らの部下達もそのこと母を至極もっともだという顔をして頷いている。

「猶予を与えたのは、恐怖を与えるためだ。三日間恐怖に震えてから死ね」

 断罪者を気取る男はこれから焼き払う街をただ見つめていた。


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