復讐
鈿花は経過報告を貴妃に伝えた。
「どうだろうねえ、もちろん淑妃は最有力候補だろうけど、自分の娘を後宮に上げて置きたい家もあるし、それなら今孕んでるのは邪魔なんじゃないかな」
そう言いながらチクチクと刺繍をしている。
後宮入りしてから、暇つぶしといえばこれなので、ずいぶん上達していた。
でかでかと牡丹の花を正面に、背後に蝶が飛んでいる。
鈿花はすぐに出せるように色とりどりの糸を針に通している。
「薄紅、ああ、もっと薄いの」
鈿花の差し出した糸を手にして、再びチクチク塗っている。
「産着は、縫わないの?」
赤ん坊が生まれるなら、裁縫は産着とオムツが最優先だ。
「ん、あっちこっちから届くようだし、それ専用の職人もいるらしいわ」
そういう口調は少し寂しそうだ。
「それはそうと、陽輝大丈夫かな、あの子結構手加減を知らないから」
以前はむしろ暴走する姉の抑え役をやっていたような気がする。
姉が暴走不可能になったら弟の暴走が心配されるということだろうか。
「その男が、貴女に何をさせようとしたか、それ次第よね、もし、うまく目立たないところにだけ傷をつけるやり方をしていたなら、解放したほうがいいと思うわ、だって、そいつの家は貴女が知っているのでしょう」
「それはもちろん」
「もし、こちらに逆らえば、家に火でもつけてやると脅せばいいわ、それくらいやりそうなのはいくらでも知っているから」
「なるほど」
陽輝が顔面を叩き潰すようなことをしないよう鈿花は祈ることにした。
「後で、聞きに行ってきます」
鈿花の質問に答えてくれたのは李恩だった。
陽輝は幸い、関節固めで相手を尋問したらしい。特に痛い技を厳選したと言っていた。
それならばそれでいいので、取り急ぎどういう要求をするつもりだったのか聞いてみる。
「どっかに月姫をおびき寄せろって言ってたな、離宮の地図が手元にないのでどのあたりかわからん。環玉館ってどのあたりにあるんだ?」
「状況を考えれば、あんまり人気のない、寂れた場所でしょうね。警備担当のあんたたちがよくわからないのなら、あんまり使われていないのは明白じゃない」
「景勝地だが、宴なんかで使われるけど普段はあまり人がいないって感じの名前だよな、たぶん人もいない」
「やっぱり離宮行きに絡めた計画だろうって気がするけど、後宮はもっと厳重な警備がされているよね」
「まあそうだろうな」
「ああ、それと、月姫に伝えてくれ、どうやら燕州がらみだ」
燕州という地名に鈿花は覚えがない。
「月姫ならわかる」
李恩は眉根に皺を寄せていた。
「そう、なの?」
「多分、潰れた反乱軍の本拠地」
「まさか陛下の怨恨でお気に入りの妃を?」
ありそうな話を鈿花は思いついた。
「それもありかな」
「うかつなことを言ったら家を焼くぞと脅して開放しろと月姫が言っていたわ」
鈿花がそういうと李恩は黙ってうなずいた。




