危機意識
調理場にいきなり兵士たちが乱入してきた。
そして、鈿花の分けておいた野菜でない植物を押収していった。
その様子を鈿花と貴妃が不思議そうな顔をしてみている。
「なぜ言わなかった」
不機嫌そうな顔をした皇帝が、貴妃に詰め寄る。
「それ、言わなければいけなかったのですか?」
本気で疑問に思っている顔を見て一気に皇帝は脱力した。
「いつから毒が入っていたんだ?」
「初日からありましたよねえ」
そう言って鈿花を見た。
「ああ、見たら混ざってたんですよね。ちょっとびっくりしたけど、たぶん後宮ならよくあることなんだろうなと思いましたし、貴妃様に確認したら気にしないでいいと言われました」
「一応何があったかは確認しておきましたけれど、最初からですし、ああいうものは食べなければ安全ですしね」
ずきずきと痛み始めたこめかみを皇帝は抑えた。
「昔人形劇でよく見たしね、恋敵を思い切ってとか」
「ありましたよね、覚えてます」
とても幼かった頃の平和な時代、芝居や人形劇は庶民の娯楽だった。中には子供に見せていいのかという内容のもあった。中でも後宮の女の戦いはとても人気のある題材だった。
「子供の教育というのは大事だな」
とんでもない娯楽が子供に与える影響を考えて皇帝は思わず頭を抱えた。
「にしても王宮の食糧管理はいったいどうなっているんだ」
出来上がった料理は幾人もの人数を経て妃のもとに届けられる。そのため毒を混入されてもその経路をつかみにくいが、食材の状態なら異物混入はすぐに見つかるはずなのだが。
鈴蘭、夾竹桃の葉っぱ、水仙、鳥兜と蓬が混ぜてあった。
「これ、面倒なんですよね、匂いを嗅いで確認しないと、トリカブトが少し色が淡いので気が付きましたけど」
「全部捨てろ」
取り分けてあえ物に使ったと聞いて皇帝はその場でこの女を切り捨てようかと思った。
「食べ物を捨てるなんてもったいない」
その横で貴妃がうんうんとうなずいている。
この二人を一緒にしていいのだろうかと真剣に悩む。
「今後このようなことのないようにするが、再度の混入があったなら今度は正直に申し出るように」
貴妃と妓女は双方恭しく一礼する。果たしてこの二人はわかっているのだろうか。
そして一番の問題は。これから危なくて貴妃のところで食事ができないかもしれない。
「調べさせましたが、異物混入が認められたのは貴妃だけでした」
持ち帰った。毒草の葉を机の上に並べながら側近が言った。
「怪しいのは淑妃か?」
貴妃に一番反感を持っているのは淑妃だ。それを考えれば最有力容疑者だ。
「確かにあの女なら、自分の食事にも毒を混ぜて自分も被害者だと主張するような知恵もないだろうが」
「それだけの知恵があれば自分の立場ぐらいわかるでしょうね」
「しかしわかりませんね、初日から入っていたと言っているんでしょう?」
その時点で騒がず、毒物を除去して普通に食事の準備を始めた貴妃は何かがずれている気がした。
「その時点でお渡りもなかったはずですしね」
皇帝が貴妃のところに通うようになったのは入内してしばらくたったころだ。その前の時点で殺害をする必然性は全くない。
「その時点なら皇后を狙うでしょう」
淑妃は入内した時点では自分が一番有利な場所にいると信じ込んでいた。聖職者で男に興味のない徳妃、血筋はともかく後ろ盾となる身内が全滅している貴妃、容姿が一番落ちる賢妃と侮っていた。
「何があるか、食料を収めている連中を取り調べろ」
皇帝はそれだけを言って毒草を処分しろと命じた。




