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変わり果てた故郷

 久しぶりに歩く故郷の街は、見覚えのあるものとないものが混在していた。

「反乱軍が、王都まで攻め上ってきたのは聞いているか?」

 元が、固い表情で訊いた。

 噂くらいは聞いていたので、鈿花は頷く。

「結構な被害がってな、いっぱい死んだし、いっぱい壊されたよ」

 自分が、王都にいない間に起きたこと、鈿花にとっては現実感のない話だったが、元たちはその現場に直面していたのだ。

 たくさんのものが、破壊され再建された。その時間に眩暈がする。

「腹減ってないか、おごるぞ」

 飯店の看板を李恩が指さした。

「あ、この飯店」

 そう言えば、この店の娘と知り合いだった。

 店の扉をくぐったとき、挨拶してくれたのは、まさしく、その店の娘だった。

 今は経営に携わっているらしい。

 丸顔に小さな眼鼻のついたその顔は、にこやかな笑顔から一転してこわばった。

「嘘、柳」

 鈿花の顔を見て、その場で盆を取り落とす。

「おい、そんなに驚いてくれるなよ、かどわかされて、そこから逃げ出して、やっと帰って来たんだ」

 のろのろと、盆を拾うと、そのまま、娘は泣き出した。

「あの、何も泣かなくても」

「そうだよ、腹減ってるんだ、飯にしてくれ」

「あ、そう言えばあんた達も久しぶりじゃないの、今まで何してたのよ」

「俺らは、地方の部隊にいたんだよ、上司が配置転換で王宮勤めになったんで帰ってきたの」

「本当にあんたたち何があったの」

 元と李恩は笑って答えない。

 久しぶりの温かい料理、そして、小さな肉が入っていたので、それだけで鈿花は満足して食事を終えた。

 鈿花が食べ終えた後も、しばらく元と李恩は食べ続けていたが、ぼんやりと店の中を眺めながら鈿花はぼうっとしていた。

 こうしていると、今までのことが夢のようだと思った。


 食事を終えて、実家のある方向に向かう。

 歩いて行った方向に見覚えのない市場があった。

「このあたり一帯は反乱軍に火をかけられ、焼かれたんだ」

「住んでいた連中は皆殺しになった」

 そう教えてくれる二人の表情は苦い。そして鈿花は市場の位置と記憶の中の実家の位置を確認する。

「気が付いたか」

 元が、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「そうだよ、焼かれたのはお前の住んでいた区画全部だ」

 鈿花の足元が揺れている。いや、揺れているのは鈿花自身だ。膝ががくがくと震えている。

 さっき会った飯店の娘の愕きようは。

「私がかどわかしにあった日、御町内は焼かれたの?」

「遺体のほとんどは損傷が激しくてな、誰が誰だか、それで、みんなあそこにまとめて葬られた」

 市場の端っこに、大きな岩があった。

 それには清めの文様が彫り込まれている。

「私も、その日、死んだと思われたのね」

 岩の前にまでようやく進んだ、そのまま鈿花は膝をついた。

「怒られるもへったくれもない、もう会えないんだ」

 そのまま、鈿花の意識は真っ黒になった。


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