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夜の先触れ

 柳は袋の中に押し込められていた。袋の中でただもがくしかできない。息が苦しくなって喉からひゅうひゅうと北風のような息が漏れた。

 やっともがき続けた柳の手が、袋の外に出た。ようやくはい出した柳の目の前にあったのは同じように袋からはい出した見知らぬ少女と、薄暗い木の壁だった。

 もがくのに必死で気が付かなかったが、ガタゴトと床がきしみながら揺れていた。

 窓もない、外から閂がかかった荷馬車の荷台にいつの間にか連れてこられていた。

 そして唐突に目が覚めた。


 鈿花はぐちゃぐちゃになった布団からはい出した。

 寝ぼけて藻がいていたらしい。

 ずっと馬車に揺られていたせいで、昔の嫌な夢を見てしまった。

 寝乱れた髪を手櫛で整えて、手早く身支度を整える。そして、次に使う人のために寝台を整えた。

 ギリギリで交代する女官がやってきた。

「ご苦労様です」

 交代で、貴妃の寝台そばにつく仕事だ。

 寝台の中では貴妃は身じろぎもせずぐっすりと眠っている。

 鈿花は寝台近くの椅子に腰かけた。夢見が悪かったせいかずいぶんと目がさえている。

 ガタンと何かが倒れるような音がした。

 慌てて貴妃を起こす。

 眠りが浅いようであっさりと目を覚ました。

「ごめん、外で何か音がした」

「かまわない、馬車の中でも少し眠った」

 鳥や猫の立てる軽い音ではなく、ずいぶんと重い音だったからと鈿花が言うと、妃も頷く。

 妃は髪を手早くくくると寝台から出ようとする。それを鈿花が押しとどめた。

「まず私が見てくる。それまでじっとしてて」

 天蓋付きの寝台なので、帳を下した。

 貴妃が再び横たわった気配を感じた。むしろ身を伏せたと考えるべきか。

 鈿花は扉を薄く開けて、気配を探る。

 そして扉を閉めると、だれも出入りできないように卓を持ってきて扉をふさぐ。

 そして次に窓によった。

 窓には玻璃が入っており、外の様子をうかがうことができた。

 外には、鈿花と同じくや関係後の兵士たちの姿が見えた。

 だがおかしい、数が足りない。

 この部屋から見える兵士の数は五人だ、しかし、今は三人しかいない。いや果たして見えている三人は本当に警護の兵士なのか。

 こちら側から見える五人は貴妃付きの兵士だ。反対側のほうにいるのは賢妃付き。あちらはどうなっているのか。

 その賢妃付きの中に元もいる。彼は無事なのだろうか。

 鈿花はそれを考え帝に重いものが詰まったような気分になった。

 しかし、それを抑えて、鈿花は腰に引っ掛けた袋にある笄をなでる。

 あからさまに武器となるものを持ち込むわけにはいかなかった。そのため武器と代用できそうな装身具を大量に用意してきていた。

 貴妃も寝台にそれを持ち込んでいる。

 刀子投げの腕前は今も衰えていないなら、あがくことぐらいはできるはずだ。

 かつてのコツは来る前に何度も練習した。

 そして、鈿花は椅子に手をかけた。

 扉がだめなら窓から来るはずだ。いつでもこれをたたきつけられるように。


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