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救いの手

「あのな、俺が身元引受人になってやろうか?」

 元が、そう言ってきた。

「あの、店の人は?」

 鈿花を買った芸妓屋の女将はどうしているのかと訊ねれば、鈿花が牢に叩き込まれたと聞いたとたん、事情も聞かずに鈿花の身柄を捨てたという。

「まあ、金で買われた関係だし」

 買い取った金額分稼ぐまでは自由にしないと言い張っていたが、その金額がいくらなのかはどれだけ聞いても教えてくれなかった。

 以前は、王都の隣の地方に在った芸妓屋だが、内乱が終わり、国政も安定してきた去年、王都に新しく移ってきたのだ。

 王都に戻ってきたといっても鈿花は仕事以外の外出は全く許されず軟禁状態で、実家のある区画には近寄ったこともない。

「でも、良いの?あの始末はついたの?」

 鈿花の目の前でぶっ倒れたお妃様。鈿花は目の前に立った以上のことは絶対していないと断言できるが。そのことはいったいどうなったのか。

「ああ、先日倒れた理由が分かったんだ。ご懐妊だとさ」

 妊娠による立ちくらみだった、そう言われて鈿花は安堵する。

「そりゃおめでたいねえ、つまり私は恩赦を賜ったというわけ?」

「いや、いざという時は、責任をかぶせるために牢につながれていただけだ。ご懐妊なら責任は皇帝陛下にあるからな、誰もせ金を取らなくていいってこと」

 かなり危ない状況だったと知って鈿花の背筋が凍った。

「それって人身御供って言わない?」

「言うかもしれんな」

「まあ、その辺の事情を貴妃様もご理解くださって、お前に対しては便宜を図ってくれるとよ」

 その有り難い申し出に鈿花は小躍りして喜んだ。

 もしかしたら、これは幸運というものなのではないだろうか。

 これであの横暴な店とも縁が切れて自分は自由。そのうえ、お妃様、それももしかしたら王太子を産むかもしれないお方が便宜を図ってくださる。

 今までの不運を帳消しにできるかもしれないくらいの幸運だ。

「とりあえず、風呂に入って着替えろ」

 王宮の使用人の使う風呂を使わせてもらえるらしい。


 風呂に入って、小ざっぱりした鈿花は、ごく普通の普段着姿になった。

 地味な色合いの木綿の着物に髪は木製の笄でまとめている。

 化粧気のない素顔でいるのも久しぶりだ。

「うわ、本当に柳だ」

 もう一人の幼なじみ、李恩が現れた。

「俺もびっくりしたわ、冗談みたいな話だろ」

 元がしみじめという。

「あの、実家はどうなったの」

 鈿花は恐る恐る聞いた。李恩と元の眉が少しだけ寄ったのが見えた。

 猫家はまっとうな商売人の家だというのが、父親の主張だった。

 その父親にとって娘が芸妓というのはちょっと認められない話だろう。

 やむを得ない事情があったとしても。

 鈿花は少しだけ憂鬱になった。

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