旅支度
元と李恩が離宮行きになるか確認する。
この二人がいるといないでは状況が大いに違う。
二人ともに、お供をするらしいが、つくば署は賢妃側だそうだ。しかし妃達は後宮より狭い範囲にまとめておかれるようなので、それほど問題視することではないだろう。
狭い範囲。そう考えてちょっと落ち込む。
どう考えても共食いさせるつもりとしか思えない。
貴妃は王宮からつけてもらった侍女二人しか連れて行かない、というよりほかにいない。
ほかの妃は実家から十人ほどの侍女を連れてきているらしいが、崔の家に侍女なんて気の利いたものは一人もいなかった。
おそらく鈿花がその侍女役をやることになるだろう。
鈿花は舞姫としていくので、相応の衣装を着ているが、仕事は舞踊よりも雑用だろう。
そのまま貴妃の部屋に何度も往復することになる。
何より呆れたのが食事。
体調を考えて、依然していた自炊を禁じられていた。そのため王宮から食事が運ばれてくる。
冷めきったそれはそれは豪華なお食事は、豪華ゆえにまずそうだった。
脂身のたっぷりついたお肉は冷めると脂身が固まって蝋燭のようになっている。そんなものでも以前は食べていたそうだが悪阻のせいでほとんど手を付けられず。汁物と御飯だけで生き延びていたようだ。
鶏と根菜の煮物を冷めないうちに供したところ大変喜ばれた。
王宮の暮らしもいろいろと過酷なものだと鈿花は思わず同情した。
なんでも貴妃の自炊する食事目当てに皇帝は足しげく通っていたのだそうだ。意外に悲しい皇帝の食事情に改善点を考えないのだろうとあきれた。
それから、貴妃の荷物をまとめるのはもともといた侍女たちのなので、鈿花は自分の荷物だけをまとめていた。
といっても当座の着替えと下着類だけだが。
そして、数々の装身具。舞姫の衣装に付随するものだが、いろいろ紛れ込ませそうだと算段をつける。
最低限の身を守れるものは必須だ。
それと医者も同行するらしいが。どう考えても貴妃の動向を止めないのがおかしい。
馬車の揺れから身を守るために大量の綿入れ布団でくるんで運ばれるらしいが、その場合窒息の危険を考えないのかと。
それに季節柄少々暑すぎるだろうといろいろ気を回す。
「柑橘類を多めに用意してもらって」
悪阻対策のほかに、疲労回復にも効く。
舞姫としてやってきた鈿花がいろいろ仕切っているのを侍女たちは不思議そうに見ていた。
妃はそんな鈿花をただ見ているだけだ。
着物を羽織り、髪をくくったままの貴妃はかつての姿を思い出させた。
装飾品など買う余裕もないほど貧乏で、それでも弟の学問には金を惜しまなかったかつての姿を。
「それでも最低限は必要だからね」
そう言って何本かの笄を用意させる。
鈿花はその笄を手に取った。そして重さをはかる。
「そうね、最低限、必要ね」
そう言って軽くふいてから荷物に入れた。




