内乱
「劉淵、お前何してんの?」
龍炎より、頭半分大きいいかつい顔をした男が尋ねてきた。
いかついが、目元は柔らかい。年下の同僚である龍炎によく話しかけてくる男だった。
目の前の男は同僚に当たる。龍炎の素性は知らないはずだ。
いつの間にか、龍炎の周りは、皇帝に不満を抱く不平分子の集合場所となっていた。
最初は偶然だった。一人の、左遷されてきた文官が、龍炎の母の顔を知っていた。
そこからずるずると蔓のように、龍炎の周りに人が集まってきていた。
今は龍炎の周りにいるのは、知っているものと知らないものが半々というところか。
流れてくる人間は途切れない。
それだけ、王宮は荒れているということだろうか。
「あちらを見ていた」
隣国の方向を指さす。
「最近襲撃が増えてきているからなあ」
中央のまともな人材は地方に散り散りになり、国民は重税にあえぎ、最近は土地を捨てて逃げる者もいるようだ。
国境の向こうに逃げようとした連中もいた。
取り押さえられて強制送還されたが、そのあとはろくな末路をたどっておるまい。
「悪いことには、悪いことが重なるなあ、そういえば、反乱軍が組織されたらしい」
「反乱軍?」
「ああ、西のほうだ」
西の国境寄りだが、西の国境は、きわめて険しい山岳で区切られており、隣国からやってくることはほとんどない。
そこの領主一族が、反乱軍を組織したらしいのだ。
「なんでも嫡男というのが、なかなかの切れ者だそうで、王朝交代だとか言って息巻いているらしい」
「前にも似たようなのがいなかったか?」
「どうも、今の皇帝陛下で、皇族には断絶していただきたい連中が多いようだな、皇帝陛下恩水から、親戚の皇族を処刑して歩いているって話も聞くし」
どんどん、状況は悪くなる、内憂外患すべてが一時に起こっている。
「これからどうなるんだろうな」
目の前の大男朱雷は、やれやれと肩をすくめる。
筋骨隆々とした大男だが、その割に、見かけによらず頭はそう悪くないことを龍炎は知っていた。
「そろそろ危ないだろうなあ」
内乱が起きれば、それに乗じて、他国も攻めてくるだろう。おそらく、あちら側が真っ先に。
「どうすりゃいいんだか」
「そうだな、まず、反乱軍を片っ端から制圧して、軍をまとめて、そのあと、他国からの侵略に迎え撃つぐらいかね」
「無茶苦茶言ってんなあ」
朱雷が力なく笑う。
「その無茶苦茶をやらないとどうしようもないところまで来てるってこった」
龍炎は軽く舌打ちする。
斥候を出して、あちらの状況は探っている。だが、今のままでは手詰まりになるのはわかりきっている。
「皇帝か」
絶対なる権力をもってすれば、できないことのほうが少ないだろう。その権力をそぎ落としているのが、今の皇帝の所業だ。
そして、ここに集った者たちが龍炎にいずれ、要求することもうすうすわかっていた。




