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国境

 龍炎の本姓は国名閃と同じ。

 それは皇族を意味する。そんな龍炎が国境ぎりぎりの辺境に隠れ住まなければならないのはこの国の皇帝に命を狙われているからに他ならない。

 龍炎は幼くして母を失った。母は取るに足らない下級貴族の娘だった。

 母を失った龍炎は母方の実家に身を寄せた。

 母方の実家は国の端のほうにささやかな領地を持つ下級貴族であり、その暮らしは裕福な商人とそれほど変わるものではなかった。

 近辺がきな臭くなってきたのは龍炎が十を超えたあたり。

 使用人がなぜか急死したり、建物が崩れてきたりと謎の事故が起きだした。

 世話役として、ついてきた側近の見立ては、龍炎は命を狙われているということになった。

  死んだ使用人は龍炎が食べるはずだったおやつをつまみ食いした。

 崩れた建物には、柱に切り込みを入れた跡があった。

 その時点で龍炎には状況がまるで読めなかった。

 龍炎は物心ついた時から、辺境で暮らしていた。王宮での暮らしはぼんやりとしか覚えていない。

 当然皇族であるという意識も薄かった。

 それでも周囲の大人たちがあれこれと何事か深刻に言い合っているのはわかった。

 そして唐突に龍炎の葬式が挙げられた。その葬式に龍炎は使用人の子供の服を着せられて隅っこで参列していた。

 翌日、龍炎は十人ほどの使用人とともに長い長い旅に出ることとなった。

 そして、流れ流れてついに国境付近まで来てしまった。

 目の前に広がるのは、荒れ果てた大地。

 この向こうは隣国まで続いている。

 国境警備隊に今は所属していた。

 本名ではもちろんダメなので、劉淵という響きのよく似た偽名を名乗っていた。

 何年か国中をさまよった。そして少しずつ分かっていった。

 自分は兄に憎まれているのだと。

 この国すべてを収める兄に憎まれているならばこの国のどこにも行く当てはない。

 名を変えて、国境を目指したのは当然の帰結だった。

 そして、国を出ていく踏ん切りがつかないまま国境警備隊に所属している。

 自分の素性を知っている人間はこの中にはいない。

 このまま逼塞して生きていくのかと思っていたが、こんな辺境にもきな臭いうわさは流れてくる。

 この国を、兄は食いつぶしているらしい。

 その噂は、国内のみならず、諸外国にまで流れている。

 国境の向こう側に少しずつ、敵が増えていく。

 そして、龍炎の周囲もまた、少しずつ変わりつつあった。

 兄の手から逃れた人間が、この地に集いつつあったのだ。

 それは、相当な地位についていた人間も数多くいた。まともな人間ほど、王宮に居場所がないのだという。

 少しずつ、状況は変わりつつある。そして、国境の向こうは荒れ果てて生産性が極めて少ない。

 そんな時、考えるのは生産性のある土地を手に入れられないかということ。

 刻々と時は迫っている。


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