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 鈿花は黒い衣装を渡された。

 何とか群舞を覚えた鈿花に渡されたその黒い衣装は、先代の皇帝の慰霊の儀式のためだという。

 慰霊ね、と鈿花は皮肉に思う。

 鈿花が幼いころからすでに先代の皇帝の無能は知られていた。

 街の片隅の小売商の娘が知っているくらいだから、先帝の、無能は全国民の常識というものだった。

 その挙句が鈿花の家族が巻き込まれた内乱だ。

 もう少し治安がしっかりしていれば鈿花もかどわかされることもなかったろう。

 神殿に移動し、そこで儀式を行うらしい。

 皇帝と、五人のお妃も参列するらしい。

 つまり再び貴妃と再会するわけだ。

 とはいえ、単独で会うわけではなく、鈿花はその他大勢に紛れてしまう。特別な接触などあるわけもなかった。


 代々の皇帝の納められる廟。それはちょっとした宮殿ほどもあった。

 この国はそれなりに長い歴史を誇っている。そのため、定員いっぱいになれば、新しい廟に亡き皇帝は収められる。

 そのためそんな廟が後五つぐらいあるらしい。

 今は定員の半分くらいか。いずれ新しい廟が建つとしたら、あと数百年ぐらい。

 廟の前のとても広い広場。それは三十人の舞姫が群舞を行ってまだ余るほど広い。

 白と黒の衣装をまとった舞姫たちは入り乱れて踊る。

 遠くから見れば、複雑な白黒の模様が様々な形に変化するように見えるだろう。

 鈿花は演目が終わるまでは無心に踊っていた。

 曲が止まり、舞姫たちはその場で跪く格好になる。

 そして朗々と響き渡る神官たちの唱和、これが終わるまで、その姿勢でいなければならない。

 鈿花は、視線だけを動かして、周囲を眺めていた。

 廟の真ん前に立っているのはひときわ背の高い男が皇帝だろう。そして、その傍らにいるのは皇后。その周りにいる白い衣装をまとった女達。

そして少し離れた場所それぞれ四塊になっているのが他の妃達だろう。

 白い衣装に白い被り物をしているが、帯だけが、その妃を象徴する。青、赤、白、黒に染められている。

 皇帝が、粛々と廟に続く階段を歩き始める。

 舞姫たちは立ち上がり、廟の前の階段の脇に整列する。

 階段には女官と思われる女たちが、等間隔で跪いていた。白い衣装を着た舞姫は右に、黒い衣装を着た舞姫は左に。

 周りの官吏達の様子を見ると、皇帝のの周囲の女達は女官ではないらしい。

 おそらく前皇帝の後宮に侍った女たちのようだ。

 全員緑の枝を手にしている。それを奉納するのだろう。

 その奉納が終われば、次は正一品の妃達の番なのだろう。

 侍女たちをその場に残し、妃達だけで歩いてくる。

 妃達もやはり、緑の枝を手にしていた。


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