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陽輝

「あれ、お前何でここに」

 元が鈿花を見て怪訝そうな顔をする。

「たまには晩飯でも一緒にって誘いに来たんだけど」

 つい気まずい顔になる。

「だれ?」

 陽輝が、怪訝そうな顔をした。

「覚えてないのか、ほら、お前の姉ちゃんの友達の柳」

 ああ、と手を打った後、陽輝の顔から一気に血の気が引いた。

「確か、死んだって」

 口に当てた手がかすかにふるえている。

「いや、死んでなかったの、詳しい事情は後で話すから」

 これから先、知り合いに会うたびにお化け扱いされるんだろうかと、鈿花は悲しくなった。

「それとさっきのはいったい何だったの」

 いきなり武官と戦わされるなどただ事ではない。

「ああ、それ今話すの?」

 軽く頭を掻いて見せた。

「とりあえず、一緒に夕飯を食べよう」

 殿下はついでに陽輝も誘うことにした。


 歩いても歩いても王宮の外に出られない。

「普通馬車か馬で出るからな」

 先ほど合流した李恩が苦笑交じりにつぶやいた。日はすでに大きく傾いている。

 ちょっと場所が違うだけで、応急の門がこんなにも遠くなるなんて思わなかった。

「そうですねえ、毎日誰かしら迷子になりますからねえ」

 陽輝はどこか達観したような顔でいる。

 今陽輝は下級官吏の見習いをしているそうだ。

 王宮に努めるには上級試験をこなさなければならない。

 そういえば陽輝はわざわざ学問所に勉強に行っていた。そのため鈿花とそれほどかかわりがなかったのだが。

「よくわからないけど、いつの間にかはやし立てられて、知り合いの武官と戦う羽目になった」

 つらつらとさっき起こった出来事を陽輝が呟く。

「もしかして常習か、あいつ」

 元が苦々しげにつぶやいた。

「前にも、無理やり連れていかれたやつが怪我してたことがあったけどね」

「わかった、こっちでも対処しておく」

 その対処には、それなりの地位についていなければならないのでは、と鈿花は思いついた。鈿花がいなくなる前までは、軍部に伝手などなかったはずの元がどうしてこうなったのかわからないが、鈿花にいろいろあったように、元や李恩にもいろいろあったということか。

「ああ、そういえば月姫は元気?」

 そういった時、陽輝の顔が一気に曇った。

「お嫁に行ったよ、でも会わせてもらえないんだ」

 その暗い声音に、鈿花は慌てた。

「お父さんの知り合いの伝手で、便りがないのは元気な証拠っていうけどね」

 なんとなく慰めようのない気がして、鈿花は陽輝の肩を撫でた。


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