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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第四章「翼たちのプロローグ━━
87/91

現人の果てーーOver Top Novaーー


 物語の主人公は、最後には必ず勝利する。


 この世には多くの物語があり、その中には当然「例外」と呼べるような筋のものも存在するがーーそれはただ単に、「受け手が主人公だと感じていた存在」が敗北しただけに過ぎない。


 ここで一つ、考えてみよう。


 主人公、とは。一体、どんな存在だろうか?


 ヒーローのことか、ヴィランのことか、あるいはヒロインのことか、それとも弱虫のことか、熱血漢か、厭世家か、ニヒリストか、独裁者なのかーー。


 ーー「その能力」の前では、どれも違う。


 その能力の前では、「勝利者」こそが、「主人公」となるーー。


(神かなんかか、こいつは………)


 心の中で、翼が呻く。


 神。その言葉は、奇妙なことに、残虐で冷酷な殺人者の暦有馬を、これ以上ないくらい的確に形容していた。


 相手にとって都合のいいことしか起こらない。それは、拳も、足も、羽さえも命中しないということだ。


 まさしく神。無敵で、この世の理から外れた、異端の力。


 ーーふと。俺の前で、暦有馬が姿を変える。


 その頭部には、黒色の兜が現れ、そして、次いで出現したボロボロのマントが、奴の全身を包んでいくーー。


 それは、先刻奴が言っていた最奥機関の刹那(オーバートップノヴァ)による現象らしかった。


 それによって変容した奴の姿は、まるで、黙示録の死神のようでーー。


 刹那、その姿が、俺の視界から消えた。


「これはーー」


(アウターノヴァだ!)


 アウターノヴァによる、高速移動。それにより、奴はこちらへと攻撃を仕掛けようとしているのだ。


 高速移動は強力な能力だが、敵を叩くためには必ず一度停止しなければいけない、という弱点をはらんでいる。


 俺はそこを突くべく、奴の攻撃の軌道を読もうとした。


 ーーとその瞬間、ふと、俺の頭の中に、覚えのない映像が浮かんできた。突如として頭上に現れた暦有馬に、槍で貫かれるという映像が。


「これってーー」


 未来の映像ではないのか。俺は、咄嗟にそう思考し、背の翼から、羽の大群を頭上へと飛ばした。


 その羽は『あまりのスピードで狙いが外れ、天井に突き刺さった』ものの、俺の頭上に、暦有馬の存在があることを示した。


「ーー何故今の攻撃が読めた、アウターノヴァ」


 俺の頭上一メートルほどにAdvanceで形成した足場に乗ったまま、暦有馬が問いかける。


 それは実際のところ、俺にも分からなかった。


 戦いの最中、時折脳内に現れる「未来の映像」。それは明らかに人智を超えた現象だが、しかし、その類のAdvanceには心当たりがないのだ。


「答える必要は……ないッ!」


 一先ず叫び、俺は、10枚ほど、羽を頭上へと放った。さっきの大群と比べると、些か攻撃力、制圧力に欠ける攻撃だ。


 だが、今はそれでいい。


 その攻撃を、今度の暦有馬は、園央の外殻(セントラル・ノヴァ)の槍で払った。静動刹那の外殻(フォワード・ノヴァ)の力が乗ったその一撃によって、俺の羽は粉々に砕かれる。


「ーーふむ。停止者ザ・ストッパーの制御とは、存外、難しいものだな。上手く槍に力が乗らない……」


 停止者能力が発動しなかったことは、今の俺にとっては僥倖だった。


 とにかく今は、回復手段が必要なのだ。亮と悠真。あの二人を回復させるための、「ノヴァ・シリーズの粉塵」が必要なのだ。


 そして、今、この空間には大量の粉塵がある。


 奴の能力によって、()()()()天井に衝突した羽は、その勢いによって自滅し、砕けた。


 羽が砕けたということは、つまり。


 その内部に溜まっている粉塵が、外界へ解放されたということである。


「行けッ!」


 叫び、俺は、粉塵を、亮と悠馬の元へと移動させた。それを暦有馬は防ごうとするが、しかし、いかに都合のいいことが起ころうと、粉塵の()()だけは止められない。存在そのものを否定する、というような無茶苦茶は、その能力には含まれていないのだ。


 だからこそ奴は、自分へと殺到する攻撃を、時折別のAdvanceで防いだのだろう。


 粉塵は二人の体に突き刺さり、みるみるうちに回復させていくーー。


 ズタズタになっていた悠馬の全身の骨は完治し、また、同じく傷だらけだった亮も、通常の状態と何ら変わらないところまで回復した。


「サンキュー、柊人!」


 亮が言う。しかし、悠馬は感謝の言葉も忘れ、無言で、暦有馬を攻撃した。ーー鎧のパーツが奴の元に殺到する。


 その攻撃は『怒りによって照準が鈍り、近くに居た俺へと命中してしまう』。


(まじいッ!)


 気付いた時にはもう遅かった。既に現実は、暦有馬にとって都合がいいように改変されており、それを回避する術は、どこにも残されていなかったのだ。


 俺は、その全身に、悠馬の攻撃を受けた。


 それは実に容赦のない攻撃だった。本来ならば、この攻撃を暦有馬が受けていたのだと思うと、恐ろしくなる。


 憎しみ。この攻撃には、それだけしか乗っていなかった。奴のAdvanceによって照準が逸れているため、攻撃はてんでばらばらな部位に炸裂しているがーー実際は、全て急所に命中するように計算されていたのだろう。


 ーー以前に俺と戦った時とは、全く、強さの次元が違う。


 俺は、痛みと大量失血による意識の混濁から、地面へとくずおれた。


「やれやれだ。もう半分を切った(・・・・・・)とはな。思ったより手こずらせてくれる。だが、これでアウターノヴァも終わりだろう」


 朧げな意識の中、奴の声だけが脳に響いてくる。


 ーーそんな中。虚ろな目で見たのは、悠馬の方向。その顔には、俺を攻撃してしまったことへの罪悪感が乗った表情が張り付いていたがーー直ぐに、その表情は、何かを伝えよう、と言う、確固たる意思の乗ったものへと変わる。


「あ……?」


 地面に倒れ込みながら、俺はかろうじて生きていた声帯を震わせて発声する。


 最初、俺は、彼が何を伝えたいのか分からなかった。


 しかし、意識が鮮明になってくるにつれて、それが理解できるようになった。


 ここ数日の間で、俺は彼を信頼できるようになっていた。彼の苦悩と逼迫した状況に触れ、理解し合えていた。


 だからこそ、そのメッセージが伝わったのかもしれない。


 「体に刺さった鎧を、お前の能力で砕け」。俺は、悠馬がそう伝えたがっていることを察したーー。


「……黒銀の翼(クロムメタルウィング)!」


 低く、素早く叫び、俺は、アウターノヴァの顕現によって、体の奥底に隠れていたその力を、今再び呼び戻した。


 それにより、俺の全身に突き刺さっていたアンダーノヴァのパーツ達は崩壊し、その内部から、「回復の粉塵」を噴出させ。


 ーー俺の肉体を、完全に回復させた。


「終わりだ、暦有馬ァァッ!」


 回復と同時、俺は手を地面につき、転倒のエネルギーを完全に消すと、その身を無理矢理に起こし、暦有馬の正面へと移動した。


 暦有馬は地面にーー俺の背後に降り立っていたのだ。移動するのは容易い。


 態勢を瞬時に整えると、俺は背の翼を震わせ、全力の殴打を繰り出した。


「無駄だ」


 しかし、その殴打は『運よく横にズレていた暦有馬の三センチ横で炸裂する』。


 攻撃が、外れた。その事実に俺は落胆せず、直ぐに、翼によって生まれた、人体を浮かせるほどの莫大なエネルギーを利用し、右足で、飛びすさりつつある暦有馬へと攻撃を繰り出した。いつもなら打撃の後に、強い力を足に込めて踏み止まるところを、今回は踏み留まらなかったのだ。


 ーー刹那。その攻撃が命中する瞬間。


 奴はあろうことか、『転倒した。それにより、蹴りは奴の胸を掠め、横の空間へと抜ける』。


 二度目の攻撃が、外れた。その事実に悲嘆する間も無く、俺は、翼のエネルギーを殺しきれず、一回転したのち、奴に後頭部を向けたまま、地面へと、したたかに左脇腹を打ち付けた。


 そこを、奴は攻撃しようとするだろう。奴の方に視線を向けられないので分からないが、あれほどの男が、それをしないとは思えない。


 ーーと次の瞬間。俺は視界の端に、今まで見たことがないほどの、アンダーノヴァのパーツの大群を認めた。


「悠馬……!」


 言い、俺は痛みをこらえてなんとか立ち上がる。


 それは全力の攻撃に違いなかった。見ると、俺の視線の先の悠馬は、Advanceで変質した足が全てなくなっていた。


 その攻撃は、奴の槍によって砕かれるが、しかし、なにぶん数が多すぎるため、槍だけでは捌き切れない。


 ーー『と、ふと。悠馬のパーツ操作ミスか、パーツ同士が衝突し、共に砕け散った』。


 しかし、時間差で衝突するように取り計らわれたパーツは違った。それらは、共に砕け散るほど密集していないため、都合のいい崩壊現象から逃れることができたのだ。


 その、50個ほどのパーツは、轟速、という形容がふさわしいような勢いで、暦有馬へと殺到する。


 しかし、『それらの軌道は、暦有馬に完全に読まれ、奇跡的に、全て捌かれてしまった』。


 ーー二度の奇跡。「都合のいい展開」の発動。


 崩壊したAdvanceも、時間経過と体力回復によって再生できるため、彼の足が永久に消滅する、ということはないだろうが、それでもあれが、命がけの攻撃であることに変わりはない。


 それが今、暦有馬による、たった二度の攻撃で砕け散った。


 しかし、それによって、確かに隙はできた筈だ。


 ーーそれを、無駄にしてはいけない。


(やれ、柊人!)


 攻撃を捌ききり、最も安心する瞬間。そこに、全力全開の拳を叩き込む。


 その決意と共に、俺は、槍を振り終わった暦有馬へと肉薄し、拳を振り上げようとしーー。


 ふと、激痛と共に、腕が上がらなくなったのに気付いた。


 疲労か。一瞬そんな考えが頭をよぎった。


 しかし、直ぐに、その思考は、暦有馬の言葉によって打ち消される。


「ーーこの手はできるだけ使いたくなかったんだがね。ダメだろう、人から出されたものを、何の用心もせずに食べるのは」


 その言葉で、俺は気付いた。


 あの日。霊岩郷(ベスティア)に呼び出され、廃病院に行った時。俺は、暦有馬からもらったリカヴァー・アドバンスを飲み込んだ。


 奴はあの中に、ノヴァ・シリーズの微細な刃を忍ばせておいたのだろう。そして、それを今炸裂させ、腕の主要な神経を切断したーー。


 絶好の機会を。完全な暦有馬の、おそらく最初で最期であろう唯一の隙を、俺は逃してしまったーー。


(に、逃げろ、柊人!)


 翼の言葉で、俺は絶望の海から抜け出す。


 そうだ。とにかく今は、この場から逃げなければならない。そうしなければ、殺されてしまう。


 そう思考し、俺は大きく後ろへ飛び退ろうとした。回復のために羽を砕きすぎた。それでガードをすることはもはや不可能だ。逃げるしかない。ーーだが、それはできなかった。


 次の瞬間。奴が顕現したままにしていた、大きく、恐ろしく、鋭利で、厭らしい、黒色の槍が、




 後ろへ跳躍した俺の心臓を、貫いたのだからーーーー。




 視界が、暗転した。

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