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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第三章「Fox Stories」
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目覚めーーOver The Extraーー


 基却色の外殻(アンダーノヴァ)の、複製コピー


 その言葉は、嘘であって欲しかった。あのAdvanceとは以前に一度戦っているが、こちらの攻撃を完全に反射してしまうあの能力は、正直なところ厄介極まりない。


 あの時は、激戦の果てに勝利できたがーー次はどうなるかわからないのだ。


 いや、言葉を濁すのは止そう。不確定要素であった七道先輩のアシストも、戦場を変えることも容易ではないこの状況・場所で戦えば、十中八九敗北する。あの勝利は偶然の賜物、いわば奇跡だ。奇跡は二度と続かない。


(く、くそ、やるしかないのかッ!)


 翼のその言葉が響くと同時。俺は地面を蹴って、前方に飛び出した。


 ーースライム後方、ノアが立っている場所へと。


 この場に於ける勝利条件は、ノアと悠真を救出することだ。敵を殲滅することではない。


 悠真のコピーも、この行動には反応できなかった。このまま、ノアを連れ去って逃げることができれば、それで事は済む。


 後数歩で届く。それを確信した俺は、一層強く、地面につけた足に力を込めーー


 そして、突如として身を襲った揺れのために、足を止めた。折角発生させた力は、俺を転倒させるためのエネルギーとなって大気に消える。


(う、嘘だろ………)


 何が起こったのか、一瞬では理解できなかった。それはあまりにも人智を超えた事だったので、矮小な自分の認識力は、しばしそれに対応できなかったのだ。


 廃ビル。建設途中で投げ出されたそれは、真っ二つに切断されていた。境目は、丁度、俺とノアの間。


 切り裂かれたうちの片方、あの狐面とノアが載っている方は、真後ろへと、自重で「落ちて」行く。


「アドバンスコール、理逆の世界(エクストラワールド)


 そんな中、ふと、あの狐面の声が聞こえた。


 それは、通常の解名詠唱とは少し毛色が違った。なんというか、魂がこもってない、と言ったらいいだろうか? まるで、解名なのに解名ではないようなーー。


 と次の瞬間、狐面と、そいつに触れられていたノアの姿が、俺の視界から搔き消える。


「の、ノアーーーーッ!」


 叫ぶも、彼女は現れない。


 その代わりに、俺の言葉に答えたのは悠真のコピーだった。背後に居た奴は、足のAdvanceをくるぶし辺りまで解体し、それをこちらへ射出してきた。


 逃げ場がない。俺は一瞬、そう思考してしまったが、直ぐに冷静な思考を取り戻す。冷静でいるという事は重要だ。精神を乱されていれば、勝てる戦いにも勝てない。


「却逆の翼」


 素早く詠唱してから、俺は翼を中ほどまで解体し、それを連ねて盾を形成した。


 その盾に、悠真の攻撃は全て命中し、ガラスが砕け散るような轟音が、部屋中に響きわたった。


 羽が砕けたのだ。その事は、装着者である俺が一番よくわかっていた。


 しかし、悠真の攻撃は、こちらへは向かってこない。羽を二重構造にして盾を作っていたためだ。奴が砕いたのは、二重構造のうちの一層目に過ぎない。


「食らえッ!」


 俺はその羽を、お返しだ、と言わんばかりに奴へ向けて全弾射出した。そして、その隙に、戦線から離脱する。


 さっきので吹き抜けになったビルから飛び降り、そのまま、足の痛みも気にせず走り出す。


 奴は危険だ。それを野放しにしておく気は無い。


 だが、今の俺では奴に勝てない。舞台も悪いので、本当にどうしようもないのだ。


 だから場所を変える。一時的に撤退して、最後には勝利する。


(な、なぁ。奴は解名詠唱とか、できるのかな?)


 ふと。ちらりと背後を見遣った直後、翼が俺に話しかけてきた。


「そりゃ、できるに決まってーー」


 たしなめるように答えようとしたところで、俺の言葉は止まった。


 そう言えば、今までに遭遇した奴らは、解名を使ってこなかった。ずっと前に邂逅した時には、解名を使っていたにも関わらず。


 ーー命を賭けるには、あまりにも希薄な材料の仮定だ、それは。


 ーーそれを信じて死んでしまえば、元も子もない。ただの間抜けだ。


 だが、それでも。


 いや、だからこそ、命を危険に晒してきたのが、神無月柊人だ。


黒銀の翼(クロムメタルウィング)!」


 謳うように解名を呼ぶと、俺は足を止めて背後を向いた。


 後ろからは、狐面を装着した悠真が走ってくる。数秒とかからないうちに、間合いはゼロになるだろう。


(狙えよーー。絶対に寄せ付けさせるな……!)


 脳内で声が響くと同時、俺は黒くなった背の翼を20枚ほど一気に解体し、それを、奴の方向へ向けて射出した。


 しかし、その羽は、倍以上の数の「基却色の外殻(アンダーノヴァ)」構成パーツに弾かれる。


 黒銀の翼(クロムメタルウィング)の硬度は、通常のノヴァ・シリーズのそれを凌ぐ。しかし、それでも、破壊できない訳ではない。今のように、二つ以上のパーツで迎撃されればやられてしまうのだ。


 そうこうしているうちにも、どんどん間合いは詰められていく。


 それでも、俺は逃げようとしない。間合いを広げようとしない。


(柊人………?)


 翼が心配そうに声をあげる。


 だが、何も心配はいらない。そんなものは必要ないのだ。


 奴が迫ってくる。俺はそれを見やり、再び、羽を射出した。しかし、その羽はまたも、足のパーツに弾かれる。


 そこで、遂に間合いがゼロになった。奴の足は、後一回解体させれば、もう歩けなくなるほどにパーツが減っていたが、この距離では、羽による迎撃ができないので、あまり関係がない。


 しかも、それにより、奴の足は尖った、鋭い刃物へと変容していた。あれで切り裂かれれば、一溜まりもない。


 それでも、俺の心に恐れはなかった。


 次の瞬間。間合いがゼロになった瞬間、奴から繰り出された渾身のトーキックを、俺は僅かに体の軸をズラすことで回避した。


 下段から上段へ振り切られた脚が、引き伸ばされたまま宙に固定されるーー。


 その隙に。俺は、奴の鳩尾へと、全力の右ストレートを打ち込んだ。


 中距離から飛び道具で撃ち合う戦い方を選べば、確かに死傷率は低下しただろう。ーーしかし、それでは決定打に欠けるのだ。


 だから、俺は「これ」を選んだ。接近戦に持ち込み、そこで、得意技である右ストレートを打ち込む、という戦略を。


 これで、一発消滅とはいかなくとも、大きなダメージを負う事は確実だ。


 奴は俺の拳を受け、大きく吹っ飛ぶかと思いきやーー有り得ないくらいあっさりと、その場で消滅した。


 ーー霧散、していない。

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