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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第一章「脚本書きのプロローグ」
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消失者ーーVanishingーー

 投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。少し忙しかったのです。

 これからは更新ペースを上げていきます。


 10月29日。午後4時13分。俺、神無月(かんなづき) 柊人(しゅうと)は帰路に着いていた。


 俺はどこの部活にも所属していない。放課後には図書室が解放されるが、放課後に行く奴は殆ど居ないし、俺もその一人だ。それに、テストの範囲が発表され、部活動が一時的に活動停止になるテスト期間が始まる。早めに帰って勉強をしなければいけない。


(しかし、今朝のアレ、何だったんだろうな?)


 ふと、「翼」がそう問いかけてきた。


「ナイフでの、お前も見えないくらいの狙撃...能力(Advance)使いであることは分かるけど、目的はいまいち分からないな」


 そう答えてから、俺は少し考えた。


 くどいようだが、俺は恨まれるようなことは何もしていない。この「却逆の翼」は能力(Advance)の中ではレア中のレアらしいが、それをひけらかしたりはしていない。だから、「翼」を持っているだけで俺を殺すようなアブナイ奴がこの「翼」に気付く筈はないのだが...。


(いや、分からんぞ。もしかしたら、お前ーーー)


 「翼」が何かを言いかけたその瞬間だった。


 俺は手に持っていた家の鍵をあろうことか落としてしまった。急いで身をかがめ、それを取る。


 その直後、俺の頭上を、鋭い空気が撫でた。


 何かが頭上を通過したのだ。俺はそれを理解すると背後を振り返る。そして、その奇っ怪な事象を目の当たりにしてしまう。


 背後では、ナイフが宙に浮いていた。その刃はあさっての方向を向いているが、それがたった今俺の命を刈り取ろうとしたことは間違いない。


 俺は無意識に大仰なモーションでバックステップし、そのナイフから距離をとった。


 ーーとその瞬間。俺の蹴った虚空から、ギャッ! という叫び声があがり、ナイフが取り落とされる。


「透明化の能力?」


(成る程。どうやらそれを使ってこっちを襲おうとしたが、とんでもない間抜けでヘマをやらかしたということだな)


 そこで、「翼」は言葉を切った。敵が能力(Advance)を切り、姿を現したためだ。


 敵の正体はやはりというべきか、二年生だった。恐らく俺を襲った血の能力(Advance)使いと同じく、不良なのだろう。しかし、彼は目に見えて不良というわけではない。髪は当然のように黒だし、服装以外はピアスなど、アクセサリーを付けているわけではない。


 唯一乱れているのは服装だった。身に付けているもの自体は乱れていない、普通のカッターシャツと学校指定のズボンだ。しかし、シャツ、ズボンともに、ぞんざいに扱ったのかところどころに醜いシワがある。更に、そのシャツはズボンに入っていない。普通なら、シャツはズボンの中に入れなければいけないのだが。


 相手は取り落としたナイフを拾おうと身を屈めた。だが、俺はそれを許さない。翼から三枚の羽を落とすと、それを射出。向かっていった羽(刃)は、奴の手に刺さった。


 奴はまたも悲鳴をあげ、ナイフから飛び退いた。何を思ったのか手から羽を抜くと、ダボダボと血を流しながらこちらへ向かってくる。


「お、オイ、やめろ! 死にたいのか!」


 傷は恐らく深くない。しかし、刃物を抜いてしまえば傷の深さなど関係なしに血が溢れる。あの行為はどこから何をどう考えても自殺行為だ。自分の余命を自分で縮めているようなものなのだ。


 それに、こんな愚直な突進、「却逆の翼」が無かったとしても、余裕で迎撃できる。


 ーーしかし、突進を俺が迎撃するよりも早く、奴は再び「消えた」


 俺は本能的に、体の正面を守った。手を交差させ、完全な防御体制をとる。


 しかし、やはりというべきか、そこに攻撃が叩き込まれることはなかった。当たり前だ。わざわざ防御しているところに、自信のないただの拳を叩き込むバカは居ない。


 俺は一瞬の逡巡の後、背後を振り返り、小さくバックステップして足元にさっき落とした二枚の羽を突き刺し、迎撃を図った。


(いや、それをする必要はない、逃げろ!)


 しかし、「翼」は逃避を薦めた。俺は翼を一度消し、奴に背中を向けて逃げ出す。


「どうしてだ! 何で逃げなきゃいけない!?」


 俺は走りつつ、「翼」に語りかけた。


(相手の能力はまだ不透明な部分が多いが、透明化であることは理解できる。で、相手に透明化されたらアスファルト上で探知は不可。だから、山に逃げろ。落ち葉が大量にある山へ)


 俺はそれを聞き、脳内で肯定してから振り返った。


 背後では、奴が能力を切り、再び姿を現していた。あれは普通に考えて愚作だ。ずっと透明化していれば、俺は奴がどこに居るか分からず、疑心暗鬼になっていただろうに。


 いや。もしかしたら。もしかしたら、透明化には、効果時間があるのか。ずっと透明化してはいられないということか?


(そうかもな。取り敢えず、オレが時間を測る。その間にお前は逃げろ)


 俺はそれを聞くや否やペース配分など考えずに走り出した。


 しかし。奴は俺がナイフを拾おうとしたのを阻止したように、逃げるのを許さなかった。


 次の瞬間、俺の立っていた筈の地面もろとも、向こうの曲がり角まで、この道路にかかるもの全てが「消えた」


(消すってそういうことかよッ!)


「冗談じゃない!」


 「翼」とほぼ同時に叫びつつ、俺は前方を注視した。しかし、そこには譬喩ではなく本当に何も見えない。


 次の瞬間、ナイフでの攻撃が脇腹へ叩き込まれた。斬りつけられた瞬間にどことも知れぬ方向へ飛び退いたので致命傷にはならなかったが、それでも、これは傷であり、痛みを与えるためのものであるのだ。


「く...くそ」


「さあ、死ねッ!」


 ここにきて、奴は初めて喋った。それは勝利を確信したためか、狂気と狂喜を内包した金切り声にも似た叫びでーー


 次の瞬間、消えていたものが全て元に戻った。


 見ると、俺の真横に、ナイフを上段に構える奴が立っている。その顔はやはり狂喜に満ちており、クスリでもキメているかの如く歪んでいた。


 俺はそれを見るやーー


 右肩の翼を震わせ、翼で発生させた推力の全てを乗せた右ストレートを叩き込んだ。


 拳は吸い込まれるように奴の鳩尾へと入り、奴を向こうの電柱まで吹き飛ばした。


(相手がバカで助かったな。効果時間も考えられんとは。狂気って怖いなぁ)


 まるで戦いが終わったかのようなセリフを言う「翼」を尻目に、俺は奴に近づいていった。奴は平気そうにしていたが、手から流れ出た血は大量だ。奴は気絶しているだろうから、止血だけは気絶中にしておかなければ。


 俺はそう思い、奴に近付いきーーそして、気付いた。


 奴は、手に何か持っている。


「な、何をーー!」


 俺が叫び、それを止めようとした瞬間、奴は「それ」を喉の奥に放り込んだ。少し離れたこの位置からもゴクン、という音が聞こえた。奴は、間違いなく手に持っていた「何か」を飲み込んだのだ。


(あれはーー?)


 「翼」も、あれは見たことがないもののようだった。疑問を内包したような声色で呟く。


 かくいう俺も、「あれ」が何かは分からないのだ。カプセルの薬に似ているが、あれは紺色の欠片だった。その造型はまるでクリスタルーー


 まさか、回復アイテムかーー!?


 そんな現実味の無い思考が閃くと同時に、奴は立ち上がった。俺の全力のストレートと大量失血で立っていられない筈の、奴が。


 見ると、腕の傷は完全に塞がっているようだった。それに、心なしか、さっきまで顔に浮かんでいた狂気の色が消えているような気がする。


(オイオイオイ! ホントに回復アイテムじゃねーかッ!)


 「翼」の、その言葉が消えるとともに、奴は姿を消した。勿論、比喩ではない。能力(Advance)によるものだ。


 もう、ここからはさっきのままごとのような戦いではないだろう。


 本当の、喧嘩(殺し合い)が、始まったのだ。


 アドバンスーAdvanceー初の、二話連続戦闘となります。

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