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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第三章「Fox Stories」
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暦有馬という人間ーーOver Lierーー


 ーーこれは、進み続ける物語の、間隙に潜む陰謀の一端である。


 ーーその図書館に、その男は居た。生徒会長、暦有馬れきありま おさむ


「ーーふむ」


 彼が手に持っているのは、「二代理論」という、あまり知られていない小説であった。それにも関わらず、貸出数が異常に多いのは、この本が、小説ではない、別の要素を含んでいるからだろう。


 この本の別の名は「Advance歴史書」ーー。異能力、Advanceの歴史を記したものである。


 そんな本の、ある1ページに。暦有馬は目を奪われていた。


(興味深いな。ーーなんてことだ)


 普段、彼は決して動揺しない。


 臨時休校開けスピーチの場で、少女「ノア」を見てしまった時も、他のAdvance使いと交戦した時も、彼の中に動揺は生まれなかった。それは無意識のうちに、「主人公」と胸中で揶揄する、自分のAdvanceへと、絶対的な信頼を寄せているからであった。


 そんな彼は、彼にしては珍しく、一瞬、ほんの刹那の一瞬だけ、心の中で動揺した。


(まさか、ね)


 彼はAdvanceに精通している。だから、当然、「その情報」も聞いたことがあったがーー。


(まさか、「却逆の翼」というAdvanceが、この世のどこにも存在(、、、、、、、、、、)しないなんて(、、、、、、)ーー)


 それは、とんでもない事実であった。


 却逆の翼。翼の形をとるAdvanceで、その装着者はやがて世界を得る。有名な話だ。


 あまり知られていないことだが、16歳に成った瞬間、人間の体内に存在するAdvanceというのは消えて無くなってしまう。それ以上の年齢になると、Advanceは体にとって「毒」になり下がってしまうので、人間の肉体は自動的にその「毒」を排除してしまうのだ。


 しかし、その「翼」は消滅しない。却逆の翼というのは特別な存在であるからだ。


 ーーこの世界には、これだけ「却逆の翼」というAdvanceの情報が蔓延している。


 それが「存在しない」と。空想の産物だ、と。このAdvance歴史書は、終章に記しているのだった。


(終章の解読方法は私以外、誰も見つけていない。そうだ。この解読方法は特別なのだ。『偶々それを発見』したから良かったもののーー)


 この情報は、多くの人間にとって毒にしかならない。


 暦有馬は僅か興奮しつつ、ページをめくった。


 確かにそれは興味深い情報であった。しかし、彼が求めているものは、そこにはない。


 2、3ページほど進んだだろうか? ふと、暦有馬は手を止めた。


 そして、どこか大人の余裕が感じられる、悠然とした笑みがその顔に浮かべられる。


「あった………!」


 それは、「停止者(ザ・ストッパー)」に関する記述であった。


 停止者。却逆の翼を含む「ノヴァ」シリーズに、唯一対抗する手段だーーと、そのような文章から、記述は始まっている。


 まさかその記述を、ノヴァの「頭脳」を持つ自分が読むとは、この著者も思わなかったろうな、と、そのようなことを考え、暦有馬は再び口元に笑みを浮かべた。


(停止者はAdvanceを停止させることができる。停止した後に前進することは叶わず、これを受けたものは二度とAdvanceを復活させられないーー)


 前進(アドバンス)に対する停止ストップとは。単純ながら、中々計算された名前である。


(そんな停止者ザ・ストッパーは、時代に一人しか存在しないと思われがちだが、実は違う。ーーこの力は二つで一つなのだ。二つ揃って、初めて完成するのだ)


 その記述に、暦有馬は歓喜の叫びをあげそうになった。


 これこそが、彼の求めていた情報であった。


 停止者ザ・ストッパーの不確定要素を知ること。それが、暦有馬がわざわざこの本を開いた目的だったのだ。


停止者ザ・ストッパーの資格者は、各時代に二人だ。その二人が揃い、そのどちらかがどちらかを殺害することで、能力は完全なものとなる)


 それは、暦有馬の目には、神が設定した皮肉のように見えた。


 なるほどそれは残酷なルールだ。まさか、「ノヴァ・シリーズ」の対抗策の奥の手が、ノヴァと同じ受け渡し方で成立するものだとは。これを皮肉と言わずしてなんというのだろう。


 両者は、根本的な部分で同じなのだ。誰かを犠牲になければ力を得られないーー。


(完全となった能力は、全世界のAdvanceを同時に消し去る程の性能を秘めている。これを使えば、完全と成ったノヴァーー神の戦士すらも停滞させることが可能なのだ)


 全世界のAdvacneを、同時に。


 その記述に、暦有馬はさっきまでの悠然としたものとは異なった、虚無的な笑みを浮かべた。


 彼には壮大な野望があった。それは副生徒会長にしか話したことはなかったが、彼はその野望を語るとき、今と同じような、虚無的ニヒルな笑みを浮かべるのだった。


(もしかしたらーー。野望の、更にその「先」へ。神の領分に立ち入るどころか、聖域を作ることができるかもしれない)


 暦有馬には野望がある。


 ーーそれは、全ての「ノヴァ」シリーズを手に入れ、事象のはてまで到達する能力を我がものとすること。


 その力を以って、統制された、完全な世界を作ることーー。

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