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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第三章「Fox Stories」
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リピート・アフター・ミー ーーDimensional Planeーー

 タイトルのセンスが前と比べて変化していることに気付きました。また読書傾向が変わった影響でしょうか。そのうち作風も変わりそうで怖いです。


「くそ......ッ!」


 走り、走り。3分ほど全力疾走した辺りで、俺は疲労から足を止めた。こんなことをしている場合ではない、とも思うが、走れなくなればどうしようもなくなるので仕方がない。


 僅か休憩し、息を整えたところで、ふと顔を上げる。


 ーーそして、気付いた。


 俺の眼前。5メートルほどの間合いに、狐面を付けた人間が立っている。


「ーーきょう、こ?」


 その名前を呼ぶと同時、そいつは上段に構えた手に、刀を顕現させた。


 ーーあれは、京子のAdvanceだ。


 次の瞬間、そいつはこちらへと駆けてくる。刀は上段に構えられており、俺と「やる」気でいることは最早明白であった。


黒銀の翼(クロムメタルウィング)ーー!」


 反射的に叫び、翼を背中に展開すると、俺は先ず、威嚇で10発ほど羽を射出した。


 「却逆の翼」を使えば、際限なく羽を射出できるが、相手は骨をも砕く「振動」の力を持っている。羽と再生以外に能力を持たない却逆の翼では、部が悪いのだ。


 その狐面は足を止めることなく、刀で器用に羽をいなすと、こちらとの間合いを完全に詰めた。


 轟速、という形容が相応しい速度で、刀が上段から振り下ろされる。


「くそッ!」


 悪態をつきつつ、俺は翼を繰って刀を防いだ。相手は、こちらの「崩壊」の能力が発動するよりも早く刀を引いたので、ダメージを受けずに済んだが、この場に於いて「刀を引く」というのは、相手に隙を見せることになる。


 その隙は逃さない。次の瞬間、俺はそいつを、遥か後方へと蹴り飛ばした。


 そして、糾弾でもするかのように叫ぶ。


「お前ーー誰なんだ!?」


 その言葉に。相手が、仮面の向こうで息を呑むのが分かった。


「京子じゃないだろ。そんな思わせ振りな仮面付けて、Advance使って......一体何が目的なんだ、お前!」


 その言葉に。そいつは、身をよじり、喉から声をもらした。


 笑っている。そいつは、正体が看破されたというのに、尚、世界全てを嘲るように哄笑しているのだった。


「いやあ、折角演出してあげたのに。こうも簡単に見破られるなんてねぇ?」


「何なんだ、お前......!」


 言いつつ、俺はさっき弾かれた羽を浮かせようとした。相手は見たところ隙だらけだ。今攻撃すれば無力化も殺傷も可能なのだ。


 しかし次の瞬間。地面に落ちていた羽が一様に崩壊したので、それは叶わなかった。


(な、なんなんだ、今の......)


 翼の言葉を皮切りにしたように。その狐面の人物は口を開いた。


「今のはAdvance現象さ。却逆の翼。おっと、君は翼じゃあなかったか、そうだね、君はーー」


「質問に答えろよ......!」


 我慢できなくなり、俺は低い声で叫んだ。


 飄々としたそいつの態度が、妙に気に障ったのである。


「ふぅん。気になるんだ? 私の事が、ねぇ......」


 そいつがそう言ったところで、俺は気がついた。


 ーーさっき。奴は翼の言葉に反応していた。


 翼の声は他の誰にも聞こえない筈だ。それは既に確かめてあるし、俺も納得していた。


 だが、これはどういうことだろう。眼前に立つ奴には、どうして翼の声が聞こえるのだ?


「そろそろ頃合いなのかしら、ん?」


 言いつつ、そいつは仮面を取った。


 その仮面の下には、女性の顔があった。20代前半くらいだろうか。和顔で、その双眸には、吸い込まれそうな魔性の魅力がある。


(お、おい、どうしたんだ、お前)


 ふと。翼に声をかけられて、俺は我にかえった。それまで、自分は息1つ、まばたきすらしていなかったのだ。


 俺は眼前の女性にーーこう言い表すのも奇妙かもしれないがーー郷愁を感じていた。


 どこか懐かしいような、妙な感慨を。俺と彼女は、初対面の筈なのに。


「ああ、そうそう。ねぇ、柊人君ーー。このAdvance、何だと思う?」


 我にかえったタイミングを見かねて、そいつは手に持った刀を見せつけるように突き出した。


 それは京子のAdvanceである筈だがーー京子でもない人物が、それを持つことは不可能なのだ。


 ーーでは、それは何なのか?


「これはね、君が考えてる通り、京子ちゃんのもの」


 その言葉に、俺はどきりとした。


 京子のもの? ーーそんなことがある筈がない。Advanceは一人一つ。そして、京子のそれはついさっき消滅したのだ。


「Advanceを見た時は驚いたわぁ......こんな強力な力があるものか、って」


「だからコピーしちゃった。「計画」に必要だから、しょうがなかったのよ」


 つまり。


 眼前の「これ」は、正真正銘、京子のAdvanceということなのか。


空間王政ディメンショナル・プレーン特殊元素(マナ)なんて比にならない、殺傷能力の塊」


 彼女の行ったそれは、解名詠唱だった。


 京子はそれを習得していなかった筈だ。窮地に陥っても、その力を使わなかったのだから。


「どうしてだ、何であんたが、それを使えるんだ......?」


「さて、何故でしょうか?」


 ーーと、次の瞬間。俺は嫌な予感がしたので、直感的に真横へ跳んだ。


 それが命運を分けた。その1拍後、さっきまで俺が立っていた地点のアスファルトが何やら、強い力で揺さぶられたかのように砕けていたからだ。


 恐らくだが、自分はたった今攻撃されたのだろう。奴は全く動かず、こちらへと攻撃を放った。


 それは恐ろしく微細な攻撃だった。俺は目を凝らさなければ、アスファルトが砕けたことに気付けなかった。


 ーー奴が放ったAdvanceの、「横」に於ける攻撃範囲は恐ろしく狭い。地を這うアリの横幅ほどだ。


 しかし、射程距離ーー「縦」に於ける攻撃範囲ーーは違った。Advanceは向こうの大通りの方にまで効果を及ぼしており、そこを通っていた車が一台、真っ二つに斬れてしまっていた。


(あれを受けたらーー死ぬ)


 翼の言葉は全くその通りだった。あの細かな攻撃は奴の言葉通り、殺傷能力の塊だ。一発でも人体の急所へ受ければ終わり。その場に転がされ、後は死を待つのみだ。


 攻撃を受けるわけにはいかない、と。俺は取り敢えず、相手がこちらを照準できないように、やたらめったらにステップを踏みつつ間合いを詰めようとした。


 しかし。俺が4回目のステップに移ろうとした時。


 ふと、ボンッ、という、何かが爆発するような音が響いたかと思うと、俺は地面に転がっていた。


 最初は、何が起きたのか分からなかった。まさかそれが、自分への攻撃だとは思わなかった。


 しかし。脳まで昇ってきた痛みが、「それ」の正体が何であるかを俺へと知らしめてしまう。


 攻撃。さっきと同じAdvanceでの、激烈な一撃。


「ああ”ッ......ぐゥッ......」


 熱い。


 熱い、熱い、熱い、あつい、あつい、アツイ。


 想像を絶する痛みに、まるで釜茹でにされたかのような熱さに、意識が薄れてゆく。


 ーー「熱」とは分子の振動のこと。


 今、俺のこの足に伝わる業火のごとき痛みは、奴のAdvanceが、「振動」に関するものだった京子のAdvanceと同一のものだと告げている。


 奴は空間を、何の予備動作もなしに振動させることができるのだろう。


 絶望と痛みで薄れゆく意識の中。俺は、そいつの最後の言葉を聞いた。


「さて、私はノアを奪いに行くわ。それじゃあね」


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