革新ーーNoaーー
お久し振りです。更新が遅れてしまい、本当に申し訳御座いません。
信じがたいことだが。その銃はモデルガンやら模造品やらではなく、本物の銃のようだった。高速で射出された弾丸は、ノアの腕に命中して胎動する。
それに呻きつつ、ノアは再び空間に消えた。超高速移動だ。恐らく、目標は佳苗さんである。
逃げてくれ、というよりも早く、佳苗さんの30センチほど右方に、一度消えたノアの姿が現れた。原理は不明だが、彼女は攻撃する時、移動を止めて静止しなければいけないのだった。
次の瞬間、ノアは手に持った槍で佳苗さんへと攻撃を繰り出した。水平に振り抜かれた槍は、真っ直ぐに彼女の脇腹を裂くーー。
しかし、佳苗さんはそれに怯まず、こちらへと駆けてきた。とんでもない精神力だ、と一瞬感嘆したが、違和感に気付いた俺のその思考はかき消えてしまう。
違和感の正体は「出血」だった。あの攻撃を受けた佳苗さんの脇腹から、血が流れ出ていない。
ーー否。それどころではない。血が出ていないどころか、既に傷口が塞がっている。傷なんて最初からなかったかのように、綺麗に治っているのだ。
そこまで認識したところで、俺は佳苗さんに背中の槍を抜かれた。刹那に大量出血し、意識が遠退くが、その感覚も直ぐになくなる。
ーー気付けば、俺の全身の傷は、佳苗さんと同じように塞がっていた。
「こ、これは.....?」
「私のAdvanceです。さあ、逃げてください!」
逃げてください。佳苗さんはそう言った。
でも、それを受け入れることはできない。
「できません、俺も戦わなきゃいけない」
言いつつ、地面に散らばっていた羽を巻き上げる。それは1つの竜巻のように渦を巻き、一枚一枚が銃弾かのような速さでノアの六枚羽へ向かっていく。
それらは槍で捌かれているが、それにも限界というものがある。22撃目が槍に衝突した時、遂に、その槍は破壊されてしまう。
隙ができた。俺は歓喜しつつ、23撃目を叩き込みーーそして、絶句した。
なんということか、ノアの翼に衝突した羽は、粉々に砕け散ってしまったのだった。それは「黒銀の翼」のような作用で、俺は刹那に、彼女の力は却逆の翼と同じものなのではないか、と推察した。
あの力が黒銀の翼と同じならば。「崩壊」させられる量にも限界がある筈だ。そこが恐らく弱味になる。
「佳苗さん、そこに転がってる悠真の治療をお願いします。俺がノアーー彼女を惹き付けますんで」
言いつつ、俺は24撃目を射出した。それも崩壊させられてしまうが、それでもいい。重要なのは、羽を全部射出し終えた後で、彼女の翼が崩壊しているかどうか、だ。
25、26、27。羽は止まらない。
(行けーーッ!)
そんな翼の絶叫に応えるように、俺は射出ペースを上げた。攻撃は次第に翼へと傷を付けていきーー最終的に、攻撃数が50を越えたところで、ノアの翼が2枚、砕けた。
それで、彼女は限界を迎えたようだった。その虚脱しきったような表情が苦悶に歪むと同時、ノアは前のめりに地面へと倒れ込む。
「や、やった......?」
問いかけるように呟くも、俺は実際のところ、勝利を確信していた。あれで倒れないようなら、もう打つ手はない。
見ていると、ノアの翼はみるみるうちに全て崩壊してしまった。どうやら、これで完全に終わったようだ。
「おい、あいつはどうした、柊人」
ふと。声をかけられたので、俺は振り返った。
「悠真......」
背後には、さっきまで全身に深い傷を負っていた悠真が立っている。
しかし、その体には1つとて傷が見えない。なんということか、完全に治癒しているのだった。
「あいつはどうしたか、って訊いてんだ」
「逃げた。胸に攻撃を受けてーー相当な痛手を負った筈だが......」
そこまで言ったところで、俺はあいつが瞬間移動をしていたのを思い出した。
あれも能力の一環なのだろうか。見たところ、奴が使っていたのは「空間」をどうにかするAdvaceのようだった。
空間と空間を繋げ、「瞬間移動」を再現したのだろうか。
「くそ。全然攻撃が見えなかった......何だ、あいつは」
そう言って、悠真は苦い表情をした。
あいつは強敵だった。もう一度、ノアの「助け」なしで会敵した時、俺は間違いなく敗走してしまうだろう。それほどに、俺と、あいつには力の差があった。
「まあ、何はともあれ、生き残ったから良かったんじゃないですか?」
それを言ったのは佳苗さんだった。
「確かにそうですけど......」
生き残った。その事実は何物にも代えがたいが、しかし、この戦いで、俺は何も得られなかった。ノアが暴走した原因も。あの狐面をつけた男の正体も。
そのために、手放しで喜ぶことはできなかった。
ーーとそんな中。ふと、俺のポケットから携帯の着信音が鳴り響いた。
(あの激戦の中でも壊れなかったんだな......)
そう苦笑する翼を尻目に、俺は携帯を取り出す。画面には、メールの受信を示す表示が現れていた。
俺にメールを寄越したのは京子だった。京子がメールをくれるなんて珍しいーーなんて思考しつつメールを開いた俺は、文面に目を通し、そして、固まった。
「う、嘘だ......」
目が驚愕のために見開かれる。体が小刻みに震えを起こし、恐怖がふつふつと沸き上がってくる。
「そこ」に書いてあった内容はーー。
(亮が......天駆の夢にやられた......!?)




