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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第三章「Fox Stories」
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警告ーーUnder Novaーー


「お、お前は...」


 背後に佇んでいたのは、金髪気味の男ーー基却色の外殻(アンダーノヴァ)を所有する者ーーだった。


「元気そうだな。却逆の翼」


神無月(かんなづき) 柊人(しゅうと)だ。Advanceの名前で呼ぶんじゃない」


「失敬失敬。済まんね。癖なんだ」


 言いつつ、彼はこちらへと一歩歩み寄ってきた。基却色の外殻(アンダーノヴァ)は防御用の能力だった筈だが、彼の言う、「ノヴァ」シリーズは体の一部を大量の刃物に変換できる。この間合いでも十分危険だ。俺は身構え、背中の翼を2、3回震わせる。


「まぁまぁ、そんな怒らずとも良いじゃないか。オレはただ、警告に来ただけなんだからな」


 その言葉に一番戸惑ったのは俺だった。警告? この間本気で殺しあった相手が、俺に警告だと?


 罠だ、と刹那的に思った。しかし、心の奥に鎮座する直感は、その思考を否定する。これは罠じゃない、信用していいのだと叫ぶ心が認識できる。


「ーー警告って何だ」


 聞くだけ聞いてみてもいいだろう。そう思い、取り敢えずぶっきらぼうに質問を投げ掛ける。


停止者(ザ・ストッパー)についてだ」


 その言葉を聞いた瞬間、翼が低く呻いた。苦々しい記憶でもあるかのように。


「何だ、そいつは?」


「知らないのか。まぁいい。ーー停止者っていうのは、全Advance使いの敵だ。能力(前進)を、無かったことにする能力のことを指すんだからな」


 その言葉に、俺は息を呑んだ。


「そのくせ、能力が完全に活性化されるまで、所有者ですらもその能力に気付かないのだから不思議だよなぁ。噂では、停止者の力がAdvanceの力に類似するものを授けるからだ、とか言われてるがーー」


 能力を消す能力があり、その能力者は自覚をしない。恐ろしい性能だ。


「まぁとにかく、気を付けとくに越したことはねぇぜ。そいつに会ったが最後。二度と翼を使えなくなるからな」


 その言葉には、純真な畏怖が内包されていた。


「ーー翼が、使えなくなる。確かに、翼と別れるのは悲しいが、力が無くなって、ただの若者になることは別に悪いことじゃないと思うな」


 気付けば、俺はそんなことを言っていた。


 これは七道先輩の一件があったからだ。彼は自分のAdvanceの解名を制御できず、暴走させてしまっていた。力には暴走のリスクも介在しているのだ。


 ならば。そんな力、無い方がいいのではないか。


「フン。ノヴァを所持しているくせに、よくそんなことが言える」


「何だと?」


 含みを持たせたその言い方に、俺は敏感に食いついた。


「知らないのか? なら教えてやるよ。ノヴァっていうのはな、所有者を殺すことで入手できるAdvanceだ。そして、そのノヴァ・シリーズ全てを手に入れた時ーー世界の全てを得る、らしいぜ」


 俺もこれを知った時は驚いたぜーー。彼は尚も語り続ける。


 しかし、もうそんな言葉など耳に入ってこなかった。俺はあの言葉の、たった一文だけを反芻し続けていたからだ。


 「所有者を殺すことで」という、一文を。


 俺は誰かを殺したことなんてない。少なくとも、自分の目の前で誰かが死んだことはなかった。


 しかし、間接的に殺していたとしたら? 俺の軽率な行動が、誰かを不運にも殺してしまい、それの影響で俺の背に翼が顕現されたとしたらーー?


 話は違ってくる。俺は人殺しだという何よりの証明なのだ、この翼は。


(そんなことはないッ! お前が今考えているのはあくまでも可能性だ! 何故そうまでして自分を責めたがる!)


 翼が叫んだ。


 実際、その言葉は合っているのだろう。しかし、それでも、俺の背に翼が存在するという事実は揺るぎない。


「まぁいい。オレは積極的に人殺しがしたいわけじゃないし、お前の考えには賛同するよ」


「え?」


 思わず間抜けな声をもらしてしまった。俺はてっきり彼が、その「ノヴァ・シリーズ」の力を使い、世界を我が物にしようとたくらんでいるのだと思い込んでいたのだ。


「こんな力消してしまいたいーー。そんなことを思ったものさ。あの「二人」の存在を知るまではな」


 あいつらは本物の悪魔だーー。そう付け加えてから、彼はまた言葉を紡ぎ出す。


「一人は狐だ。却逆の翼を左と右に持つ奴らしい。なんでも、世界をには混沌も前進も必要ないとかいう信条を掲げるカルト教の教祖で、野望のために何人もの人間を手にかけているらしい。オレがお前を襲った理由もそこにある」


「どういうことだ?」


「オレはお前が、「そいつ」なんじゃないかと思ったんだよ。翼を持っているのはそいつだけだ。却逆の翼は二対一体。他に翼は存在しないからな」


 そう言うと、彼はふと、空を振り仰いだ。


 まさか、そんな思惑があったとは。俺は絶句していた。しかし同時に、畏怖もしていた。平気で人を手にかけるカルト教の教祖に、それを始末しようとしている中学生。どれも神憑りな妄想にしか聞こえない事実だ。


「そして、もう一人だ。そいつの情報は少ないが、二つ、確かなことがある」


 そう言う彼の体は心なしか震えているように見えた。畏怖しているのか、はたまたーー


「1つは、「そいつ」が野望のために二人の人間を手にかけたということ。そして、もう1つはーー」


 そこから先の言葉は、いつまでも、どれだけ時が経とうが覚えている。


「ーーそいつが、特に目立たねぇ、ただの中学生だってことだ」


 その、事実はーーー。

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