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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第三章「Fox Stories」
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追憶ーーThe Hammerーー

 お久しぶりです。

 応募用作品を書き終えたので、こちらに戻ってきました。


 11月16日、土曜日。俺は亮からことの真意を聞き出すため、亮の家に向かっていた。


 こと、とは、昨日の夜送られてきたメールのことだ。あの下手なポエムのようなメールは結局、小一時間粘っても解読できなかった。なので、解きたがっていたノアは取り敢えず無視して、「解」を聞きに行くことにしたのだ。


(しかし、お前も物好きだよな。あんなメールのために、亮ん家行っちまうんだからよ)


「いやいや。親友ん家行くのは普通のことだろ。解読なんてそのついでだよ」


(しかし、お前ら仲いいよな。いつからの付き合いだったっけか?)


「小四の時からだったかな。あいつが俺の読んでた児童向け書籍を手に取って、ここの作り込みが甘いだの設定に矛盾が存在するだのボロクソに批判したのがきっかけだったかな。俺も同じこと思ってたから、気があって仲良くなったんだ」


 しみじみと語っていると、ふと、俺は携帯がメールの着信を告げたのを認識した。ポケットからスマートフォンを取り出す。素早くパスワードを入力し、そのメールの内容を確認しようとした。


 しかし、それはかなわなかった。スマートフォンの液晶にデカデカと文字が写っていたからだ。前方に気を付けろ、という文字が。


(何だこれ)


「もしかしたら、スマートフォンを乗っ取られたのかもな。ひょっとしたら、亮もこれにやられたのかも」


 言いつつ、何度か画面をタップしていたら、ふと、スマートフォンは元の画面に戻った。


(しかし、前方に気を付けろ、とはどういうことだろうな? 取り敢えず気を付けてみようぜ)


 他人事だと思って能天気な翼に苦笑しつつ、取り敢えず警戒をした俺は、ふと、「それ」を視認した。


 前方に、誰か立っている。それも、狐面を付け、無骨な鉄製のハンマーを下段に構えた何者かが。


 そいつはどうやら、15メートルは離れた地点に居るであろう俺を認識したようだ。まぁ、こちらがあちらを認識したのだ。逆もあり得る。


 刹那。そいつは猛然とこちらへダッシュ。そのまま、ハンマーでの、本来ならばあり得ない刺突攻撃を繰り出してきた。


 俺はそれを身を屈めることで回避。その体勢のまま、「黒銀の翼(クロムメタルウィング)」と静かに詠唱し、黒く輝く翼を顕現する。


 その翼から羽を15枚ほど独立させ、奴の仮面へと数枚を撃ち込む。他の弾は地面に落としておく。


 羽は糸を引くように仮面へと向かっていきーーそして、途中で止められた。なんということか。奴は、持っているハンマーから左手を離して、それを使って撃ち込まれた羽を止めたのだ。


 当然、切り裂かれた左手からは生暖かい鮮血が流れ出る。それがどれだけ痛いか、苦しいか、数々の戦いを切り抜けてきた俺には容易に創造できた。


 だからこそ、奴の異常性も理解できた。仮面を守る。そんな軽い理由で、大半の人間は、自ら痛みに飛び込むことはできない。


 そして、あの仮面の重要性も。


 「あれ」は、奴にとって、腕よりも遥かに大事な存在なのだろう。だから守った。顔面を保護する、という意もあったのかもしれないが、あの仮面は頑丈だ。そう易々と割れるものではない。


 にも関わらず、彼は仮面を守った。それは恐らく、「仮面が砕けるというシュチュエーションを恐れている」からだろう。


 ならば、その弱味を突いて戦えば勝てる。俺はそれを確信すると、背中の翼から羽を更に15枚射出し、奴の全身の皮膚を下段から上段にかけて這うような軌道で撃ち込む。


 奴はその羽をバックステップで避けようと画策する。しかし無駄だ。羽は見た目通り軽い。そう易々と避けられてたまるかーー。


 刹那、奴は中段を、ハンマーで一薙ぎした。別段特別な動作ではない。ただハンマーを構えて、水平に振っただけだ。しかし、それだけで。


 たったそれだけの動作で、奴を追随する筈の羽は全て無様に宙を舞ってしまう。ハンマーが直接叩いた3枚の羽は無惨にも砕け散り、残ったものは風圧で吹き飛ばされたのだ。証拠に、俺自身も風圧で仰け反ってしまった。


「う、嘘だろッ!」


 叫びつつ、俺は奴との間合いを詰めた。ああいう武器が真価を発揮するのは中距離(ミドルレンジ)での戦闘であると相場が決まっている。だから、こういう場合は間合いを詰めてやればいい。


 次の瞬間、奴は近付いてくる俺を捕捉すると、頭身から5ミリほどしか離れていない地点を持ち手としてハンマーを構えた。近接戦闘に特化した構えだ。


 まずい。このまま近付けば、格好の的だ。


 俺はそれを理解した瞬間、少し体を左側寄りに向け、背中の翼をハンマーの側面に添えた。そこから、全ての意思力と僅かな体の捻りを注ぎ込み、ハンマーを内側から外側に弾く。


 それで、奴の体勢は崩れた。ハンマーに握ったままの奴は、ハンマーの動きに引き付けられたのだ。


 と次の瞬間、俺は定位置に戻った翼を全力で震わせ、ロケットエンジンのごときパワーと速度で拳を奴に打ち込んだ。


 鈍い音が辺りに響き渡り、奴が数メートルにわたって吹き飛ばされる。


「くそ、なんなんだ、あいつ」


 毒づきつつも、俺は妙な感覚に苛まれていた。


 俺は今のハンマー使いを、どこかで見たような気がする。いや、戦ってすらいたようなーー。


 そうだ。戦っていた。七道先輩が送り出した刺客の中の一人にあんなハンマー使いが居た。鈍器を扱っているというのに、使うのは打撃や殴打ではなく刺突。そんな奇妙な奴が。


 しかし、そいつがどうしてまた俺を襲ったのだろうか。それも、変な仮面など付けて。


 俺が考えていると、ふと、背後から拍手の音が聞こえてきた。一定のリズムを刻んでいるが、1アクションと1アクションの間の間隔が長すぎる所為で不快な響きを帯びている拍手だ。


 俺は振り返る。今までそうしてきたように、これからも警戒すべき相手に対応できるように。


 そして、そこに存在する相手を見、俺の思考は驚愕で埋め尽くされたーーー。


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