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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第三章「Fox Stories」
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蹂躙ーーOver Top Novaーー

 お久しぶりです。更新が遅れて大変申し訳ないです。

 加えて。詳しくは後書きに書きますが、更新ペースが大幅に落ちることになると思われます。


 『誰かにつけられている。彼は行きつけの本屋から出たところで、それを確信した』


 今日、11月15日の金曜日は、好きな作家の新作が発売する日であった。彼はただ、それを買い出しに出ていたに過ぎない。


 そう、傍目からは。


 誰も気付かないだろうが、『彼は家から本屋まで、敢えて遠回りをしていた』その遠回りは数分ほど到着時間を遅らせるためのもので、彼のことを良く知った人間でなければ、その遠回りに違和感を感じないようなルートでもあった。


 それをする理由は、その外見からはとても推し量れない。そして、驚くべきことに彼もまた、そのような行為の真の理由を意識していない。


 これは彼のAdvanceの影響だ。そのAdvanceは自動で発動し、自動で解除される。否。その表現は間違っているかもしれない。彼のAdvanceが解除されたことは一度もないのだから。


 『ふと、足を止め、後方を振り返ってみる』


 そこには、顔の反面に祭りの屋台などで良く売っている狐面を付けた女性が存在していた。ここは古豪の商店街であり、不思議と人通りは多い。この商店街の中で彼女は完全に浮いてしまっている。しかし、彼以外の人間は、別段特別なリアクションを示さずに彼女の横をせわしなく通り過ぎていく。


 Advanceか、と彼は直感した。


 彼が振り向いたのは、彼女に、自分が相手を知覚していることを示すためだ。ここから先は、踏み込んだら最後、二度と戻ることはできない死の領域だーー


 できれば、ここいらで彼女には退いて欲しかった。しかし、そう上手くはいかない。彼女はこちらが尾行に気付いていることを認識して尚、取り繕うことをせず、真っ直ぐこちらへ向かってくる。


 ーー逃げることはできない。そんな思考が頭を(よぎ)った。


「ーー何か用でもあるのか」


 彼は特に物怖じせずそう問いかけた。その声色は高圧的だ。


「ーーそうね、あると言えばあるし...無いとも言えるのよねぇ...」


 彼女は甘ったるくそう言った。気付けば、周囲に人は殆ど居なくなっていた。これもAdvanceの効果なのだろう。と彼は洞察する。


 そして、次の瞬間。


 『彼は彼女との間合いを一歩だけ取った』そう、たった一歩だけ。彼の足は大きい方であったが、それでも、後退距離は30センチにも満たないものだった筈だ。


 しかし。1拍と置かず飛来した弾丸は、彼の鼻先3センチをかすめて地面に突き刺さった。


 これは「狙撃」だ。どこか遠方から、彼は攻撃を受けたのだ。


 そして、それを回避した。


「ーー気が変わったわ。貴方は本気で始末する」


 刹那。彼は彼女の纏う空気が変容するのを感じた。さっきまでのふざけた態度ではない、まるで、ガゼルの群れを捕捉した空腹のライオンのような、鋭い殺気ーー。彼女からはそれが滲んでいた。


存外日記(アウター・トゥルー)


 彼女はそう詠唱すると、一瞬瞑目する。1拍置き、辺りに拡散するような風が吹いた。これはAdvanceの解名詠唱特有の波動だ。特殊元素などの解放は激甚な作用が起こるので、それと比較すれば、彼女のそれは(いささ)か迫力に欠けたが、それでも、解名詠唱が驚異であることには変わりない。


 名前から彼女の能力を推察することはできない。しかし、今のところ、彼女の体に変化は起きていないので、少なくとも、肉体を変容させて身体能力を引き上げるようなAdvanceではないことが分かる。


 ーーと次の瞬間。存外日記の能力者は刮目した。


 それで、能力の全貌はわれたようなものだった。彼女の右目は緑色に輝いており、その目は真っ直ぐにこちらを見据えている。


 眼球を媒体とするAdvanceは、全てが、視界内に写るものを追加するという能力だ。つまり、その相手のAdvanceは、こちらを計るためのものだということ。


「さぁて...ゆっくりと日記(トゥルー)に迫っちゃいましょうか...」


 この局面に来て、彼は動いていなかった。拳を握ることも、足を構えることもしない。ただ悠然と「見据える」ーー彼がやっていることはたったそれだけだった。


 しかし、これは決して、彼女を軽視しての行動ではない。逆だ。彼女を敬愛しているが故の行動だ。


 否。その表現は間違っているか。彼が敬愛しているのは彼女ではない。彼女自信(Advance)だ。


 次の瞬間、彼女は顔いっぱい(彼が窺えるのは顔の半分のみだが)に苦悶の表情を浮かべてくずおれた。


「そ...そんな、嘘でしょ...こんなAdvanceが。こんなものが...ッッ!」


 彼女の声は震えていた。彼からは、彼女が何を見たのか分からない。しかし、彼女からさっきまでの好戦的な殺気が剥落してしまっていることだけは分かった。


「こ、ここ、これじゃまるで...主人公、じゃない...」


「ーーーーー!」


 彼はそこで気付いた。どうやら、彼女は自分のAdvanceを見たのだと。ーー最大の禁忌を犯したのだ、と。


 主人公、とは彼が勝手に名付けて呼んでいるAdvanceの名前であった。解名は他に存在するのだが、その解名は既に意味を成さないうえ、気安く呼ぶにはあまりにも高尚過ぎる名前なので、仕方なく不遜な呼称を付けている。


 ーー既に意味を成さない解名。つまり、詠唱すればずっと発動したままとなってしまうのだ。


 ーーあまりにも高尚過ぎる。つまり、このAdvanceは。


 正体が露呈してしまっては意味を成さない、否、それどころか不幸を生んでしまうものだ。


 そんなAdvanceは日本に数個しか存在しない。ーーそう、却逆の翼をはじめとする独立意識を持つAdvanceたちだ。


「ーー君は生かしておけないな。危険なAdvanceを持っている」


「ヒ...ッ!」


 金切り声が耳をつんざくのにも構わず、彼はゆっくりと歩き出した。彼の最も嫌悪する事象ーー自分のAdvanceが露呈してしまうことーーが目の前で起こっているのに、いやに緩慢な全身であった。


 その前進は、彼女の恐怖心を煽るには十分過ぎた。


「ああああ、アドバンスコール! え、えくっ、理逆の世界(エクストラワールド)ッ!」


 震える声でどうにかそれだけ発音し切ると、彼女はかき消えた。瞬間移動のAdvanceを使ったためだ。


 しかし。彼女が移動できたのはせいぜい3メートルほど。『冷静さを欠いた脳では、それだけの距離しか移動できなかった』のだ。


「瞬間移動のAdvanceか。興味深いな。ーーそれに、個人が二つのAdvanceを所持しているという点もーー」


 そこまで呟くと、彼はまた緩慢な前進を開始した。その間、彼女は『恐怖でAdvanceを発動することも、這って逃げることもできなかった』


「君のそのAdvanceは、何だ?」


 彼は30センチほどの間合いまで接近し、彼女にそう問いかけた。本来、答える必要はない質問。しかし、彼が彼女の頬を指でなぞった瞬間、『恐怖していた彼女は、気が動転してAdvanceの全容を話してしまった』


「狐ーー狐化かし(フォックスメイデン)の能力で授けられたAdvanceーー瞬間移動の他に、任意の位置に斬撃を打ち込むものも有してるーー」


「ありがとう。快く話してくれて」


 その言葉が発声されてから1拍置いて、また狙撃が行われる。今度飛来したその弾丸の照準は正確だった、しかし、着弾は『正確ではなかった』


 刹那。生々しい肉の破裂音と骨が砕ける音を伴い、彼女の頭部が砕け散った。血飛沫が舞い、残った体が音もなく背後へと倒れ、そして、現象の全てが終わった。


「やれやれ。ーーこれも運命か。哀しいものだな、運命に翻弄される人間というものは」


 そう言うと、『血飛沫の1つも付いていない』彼は亡骸に背を向けて歩き出した。


 運命からの逸脱者であり、最強のAdvance使い。それが彼。そんなAdvanceの名前は「(Over)(Top )(Nova)ーーオーバー・トップ・ノヴァーー」


 世界の支配者となる運命を約束された力であった。


 率直に言うと、しばらく更新ができなくなります。大まかな理由としては、現実が色々と忙しい時期に入ったのと、スターツ文庫の作品募集が始まったという二つが挙げられます。

 スターツ文庫の募集。僕はこのために新作を執筆します。そのため、アドバンスーAdvanceーの更新は完全な休止、休止とまではいかずとも、更新が捗捗しくなくなるかと思われます。

 しかし、僕は必ず戻ってきます。必ず、この作品を完結させたい所存で御座います。

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