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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第二章「霊岩郷のプロローグ」
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却逆の帰還ーーThe Outer Novaーー


「なぁ」


 静寂が続いたのは実際2秒ほどであった。俺が口を開いたからだ。奴の体からは痛いくらいの殺気ーー強い意思力ーーが感じられるが、不思議と、俺は落ち着いていた。


 最初に邂逅を果たした時に無様にも露呈させた、あの不安定さや動揺、恐怖はもうなくなっていた。


「どうして、あいつに従ってたんだ?」


「......」


 奴は答えない。


「この博矢町のAdvance使いを襲ってたのも、あいつの命令だったんだろ? 俺の情報だって...」


 そこで、奴は口を挟んだ。あいつの命令だったんだろ、そこが気にくわなかったかのように。


「俺は俺の意思でのみ動いてきた。ーーただそれだけだ。誰かに従っていたわけじゃない...」


 そこで、奴は意外極まる表情をした。なんと、その顔には寂寥のようなものが滲んでいたのだ。その表情は、どこまでも人間臭かった。


「俺は(てい)よく利用されていただけだ。だから利用し返そうと必死になり、そして、こうなった」


 俺はその言葉に黙っていた。ーー奴も奴なりに考えていたのだと、少し奴を見直しもした。


 しかし、それがどうした、という思いも沸き立っている。奴が命令されるがままにこの町の人間を襲っていたのだとしたら、奴は底抜けの間抜けで屑ということになる。そして、それは、「襲撃」を実行した時点で確定する。


 奴は命令に従っていなかった。だが、それがどうした。あいつは罪のないこのの人たち町を汚した。


「最後に、一回だけ」


 奴はAdvanceの反動があるのか、全身から軋むような音を発生させている。もう、このまま解名詠唱の状態を維持させることは難しいのだろう。それを体が告げているのだった。


「お前を、殴る」


 俺はそう冷ややかに宣言した。


 俺が今からしようとしていることは、エゴ以外の何でもなかった。それに、さっきまでは、それを実行しようとしても叶わなかったのだ。だからこうして、ここに立っている。


 しかし、それでも、俺の中には、「それ」をしなければいけない、という、確固足る意思があった。


 この「拳」は、俺のものだ。この「翼」はあいつのものだ。


(オレに異存はない。ぶちかませ)


 翼が、そう宣言すると同時にーー


 俺は奴との間合いを詰めた。残り4メートル、2メートルと、着々と距離は詰められていく。


「却逆の翼ッ!」


 宣言する。残り1メートル。


「おおおおおッ!」


 咆哮する。奴は回避の気配を見せない。


 残り、30センチーー


 刹那、黒い翼の推力に後押しされて放たれた拳は、真っ直ぐに、しっかりと奴の頬へ叩き込まれた。


 結局、最後の瞬間まで奴は回避しなかった。何故かは分からない。不遜な性能の能力が奴にもたらした代償の影響か、はたまた、何らかの思念があったのか、それは永遠に、謎のままなのかもしれない。


 奴が遥か後方へと吹き飛ぶ。と次の瞬間、俺の腕に激甚な痛みがはしる。


(完全に回復しきっていないんだから、そんな無理しちゃダメだろ。お前の中にあった黒銀の翼(クロムメタルウィング)が消滅した瞬間からの治癒で、完全には治りきってなかったんだ)


 どうやら、最後に奴を殴った時、微かに拳が動いたのはそのためだったらしい。あの時はただ必死だったので、腕の痛みにも疎く、骨折していることすら忘れていたので、刹那の瞬間には気づけなかったのだが。


「ーーなあ、却逆の翼」


「ーー何だ」


 奴の顔からはもう、さっきの寂寥など窺えなかった。そこにあるのは、純粋な不敵さで浮かべられた笑みのみ。


「次は、勝つからな」


「ふざけんな。ーー次なんてあるもんかよ」


 それを聞いて、奴は満足したようだった。次の瞬間、俺に背を向けた奴から30センチほど離れた地点から、岩の柱が顕現される。俺は何の脈略もなく放たれたその攻撃を対処することができず、右肩に大きな衝撃を受けて背後へと吹き飛んだ。


 どこかで、俺は警戒を怠っていたのだ。


 吹き飛ばされ、地面を転がって、一息ついたところで、前方を見据える。


 奴はもうそこには居なかった。去っていったのだ。追おうかと一瞬だけ考えたが、右肩がひどく痛む。今はこれの回復に徹したほうがいいだろう。


 俺はのそりのそりと這い、電柱に体を預け、肩を左腕で押さえた。俺の元には今、却逆の翼が戻ってきている。黒銀の翼はどうやら、時間切れを起こしたようだ。


 ーーだから、傷の治癒ができる。


 しかし、それに時間がかかることに変わりはない。翼は言っていたではないか。この「再生」は所詮、自然治癒の延長でしかない、と。


「ーーなあ、翼」


(何だよ)


「終わったんだろうか」


 それは素朴な疑問というにはあまりにも漠然としていた。直ぐに答えられるものでもないということは、誰でもない俺が一番良く理解していた。


(いいや。終わってないさ。まだまだこれからだろ。お前のプロローグも、あいつのプロローグも)


「そう、か」


 今はそんな詩的な答えでも十分であった。俺は静かに瞑目し、そしてゆっくりと再び目を開けて空を仰いだ。


 空は相変わらず(あお)い。奴を取り逃がし、悔しさを感じている俺の気持ちなどないがしろ、だ。


「大丈夫か」


 ふと、声をかけられ、俺は視線を定位置に戻した。見ると、そこには、七道先輩が佇んでいた。


「大丈夫です。ーーああ、それよりも。ありがとうございました。アシスト」


 そう言うと、七道先輩は合点したような顔をして。


「ああ、そう言えば、そんなことしたんだったな」


 そう。戦闘も終局しようとしていた頃。俺に電話をかけてきたのは七道先輩であったのだ。脚本書き(Rewriter)は、相手に声を聞かせることでも発動させられる。


「柊人君の、「身体機能」と「Advance」を引き上げる。俺、そんなこと考え付かなかったな。このAdvanceは、人を操ることにしか使えないと思ってた」


 そんなことはない、と答えようとした瞬間、俺は意識を持ってかれそうになって、慌てて体を起こす。頭を2、3回ほど振ると、僅かな痛みとともに、現実の感覚が戻ってくるような気がした。


「でも、どうして、俺がピンチだって分かったんですか? ーー俺、連絡したかなぁ」


「亮君だな。俺の所に彼から連絡が来た。今すぐ君を助けてやってほしい、って連絡が」


 成る程、と俺は翼と合点する。あいつの、他人のために尽力する性格は健在のようだ。


 しかし、それでも、どうしてあんなピンポイントで救援ができたのだろうか、と俺は少し思った。だが、生憎(あいにく)のところ、俺はひどく慢性的な疲労感に悩まされていたので、その疑問は心の奥へと押しやり、ゆっくり立ち上がった。


 もう腕の怪我は、歩けるほどには良くなっている。


 俺は「それじゃ」と言い残すと、ゆっくりとその場を去った。


「雄徒先輩。約束、守りましたからね」


 宣言するような、或いは謳うかのような、宣言を世界に響かせて。


 約12万文字。一般的な文庫小説に直すと、約2巻分。

 長く一つもものを書き続けると、綻びが出るものなのだと、改めて思い知らされるこの頃です。僕はいつも、アドバンスーAdvanceーを感覚で書き綴っているので(キーボードに向かう前に構想を練ったりしない)、テンプレだけを並べたものでもない限り、それは当たり前なのですが。

 これからは精進していきたいです。

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