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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第二章「霊岩郷のプロローグ」
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基却色8ーーUnder Novaーー

 この章が「霊岩郷のプロローグ」なのか、自信がなくなってきました。これじゃ却逆のプロローグじゃないか...


許容上限(キャパ)...?」


 俺は思わず呟いた。ここにどうして人が居るのかとか、お前は誰だとかいう疑問は放り出して。


「一々説明するのは面倒くさい。オレはそいつの「出来」を見に来ただけなんだからな」


「出来...?」


 まるで、こいつが道具のような物言いだ。


「そう。ーー全ては、お前を誘いだすため」


 刹那。俺の目の前に現れた金髪気味の男は、右足で床を踏みつけた。そのアクションから一拍と置かず、足が、黒銀の鎧へと変容した。


 その容貌は、まるでーー


「却逆の翼ーー」


 却逆の翼も、黒銀のようなもので構成されていた。今は黒銀の翼(クロムメタルウィング)であるため、目の前に顕現された鎧よりも「金属らしさ」が増し、色合いも深い黒へと変容しているが。


「ーーハハハ。「却逆の翼」ねぇ。違うな。これは、基却色の外殻(アンダーノヴァ)だ」


 その名を聞いた瞬間、記憶の奥まった部分がちくりと刺激され痛んだが、気にせず、奴の饒舌な便宜が紡がれるのを待つ。


「お前と同じ、「ノヴァ」シリーズのAdvanceだ」


 次の瞬間、奴はこちらへと羽を撃ち込んだ。俺は咄嗟に、右手を殻だの正面に突き出して攻撃から身を守る。羽は俺の右腕に衝突し、そして、切断されて地面に落ちる。


「おっと。アウターノヴァ...ノヴァの翼にこんな能力があったとは」


 奴は俺以上にこの黒銀の翼に感嘆すると、足元の、何分割もされた羽に内包されていた粉塵を巻き上げ、それをそこに居た霊岩郷(Bestier)のAdvance使いに撃ち込んだ。


 衝突から一拍とおかず、奴の傷は塞がっていく。


 ーー却逆の翼と同じ効果を持っている。


「どうしてこんなことをするか、って聞きたげだな? 一応、こいつをコントロールしていた者だからな。処置くらいして当然だろう」


 奴がそう呟き、俺から目を逸らした瞬間。俺は、唐突に全てを悟った。


 どうして、あの単純な性格をしている霊岩郷が、雄徒先輩を嵌めたのか。どうして、相山さんの傷と、雄徒さんの傷が、他の被害者と異なる、「切り傷」だったのか。


 少し考えれば分かった筈なのだ。俺は物事を都合よく結びつけることで、その破壊的な衝動を一個人にぶつけたかっただけなのだ。


 ーーそれらの襲撃は、あいつの仕業ではないという事実から、目を背けたかっただけなんだ。


 全てを仕組んだのは。俺と霊岩郷をぶつけ合わせ、雄徒先輩と無益な争いをさせたのはーー


 全部、全部。眼前のこの男だったのだ。


「ーーなあ。どんな気分なんだ?」


 ふと。俺は自分でも気付かないうちにそう呟いていた。


「目的のために自分の手は汚さず、目的の舞台には全てが終結しかけた瞬間に闖入し。ーーそして、狡猾に他人の心を(もてあそ)ぶ」


 その声は自分でも驚くほど冷ややかであったが、そんなことはもうどうでもよかった。


「ーー気付いたか」


「どんな気分か、って聞いてんだ」


 次の瞬間、奴はこちらとの間合いを一瞬で詰めた。そこから、右足で下段から中段へと水平に、俺の脇腹を薙ぐような軌道の蹴りを打ち込んでくる。


 俺はそれに対し、肘を足へと打ち込むことで対抗した。金属特有の鋭い音が廃ビルの壁に当たって木霊し、それに伴うようにして衝撃が辺りを震わせる。


 奴の足は止まった。しかし、切り裂かれる筈の奴の足はそのままの状態で残り続けている。


「正直震えているよ。目的達成まで後一歩だからな」


「そうかよ」


 次の瞬間、奴は足を定位置に戻し、右手をこちらへと打ち込んできた。俺は翼から習った武術でそれをいなし、アッパーカットでカウンターを(はか)る。


 しかし、それは当然のごとくに回避された。


 俺は奴との、僅かに開いた間合いを詰め、今度は翼アシストの入った拳を叩き込もうとする。


(隙を見せるな! 愚策だぞッ!)


 翼に制され、俺は翼を定位置に戻して、振りかぶりかけていた右拳を空中に固定させたまま、左手での打撃を放った。鈍い音がして、奴の頬に拳がめり込む。


 その体勢から、奴は羽をこちらの胸辺りへと撃ち込んだ。俺はそれを羽のガードで打ち落とすが、次の瞬間、背中に強い痛みを感じて呻き、羽のコントロールが乱れたので、ガードをすり抜けて羽がこちらへと打ち出される。


 それを転がってなんとか回避すると、俺はAdvanceを発動させた。対象は背中の異物感に、である。


 やはりというべきか、背中には羽が一枚打ち込まれていたようだ。背中の傷が塞がっていく感触があるのだ。


「俺を誘い出す、とか言ってたな。それに、目的まで後一歩とも。お前の目的は何だ?」


 俺が習得しかけている体術はあくまで防御を主体としたものだ。だからこそ、悠長に話していられる。


「お前の抹殺だ」


 しかし、それに反して奴は好戦的。次の瞬間には、奴と俺との間合いはゼロになっていた。奴がこちらへと走り込んできたからだ。


 俺はそれを右ストレートで迎撃する。その攻撃は姿勢をかがめてかわされたが、まだ余裕はある。刹那、下段から攻撃を仕掛けてくる奴の胸辺りを、俺は躊躇なく蹴り上げた。


 奴はその衝撃で()ね飛ばされる。しかし、奴はただ吹っ飛ばされたわけではなかった。さっき、突撃の瞬間に、俺の足元に羽を仕込んでおいたらしい。足元から、轟速という形容が相応しい速度で羽が舞い上がってくる。


 それによって左腕から肩にかけてが浅く裂かれる。僅かに体の中心線をずらしたので重症にはならなかったが、それでも、傷を負ったことには変わりない。


 俺は鮮血滴る左腕を何とか上段に構えると、五指を揃えて手招きした。奴に挑発が通じるかどうかは不明だし、そもそも、こんな古典的な挑発が通じるかどうかすら危うかったが、奴はそれに乗ってきた。こちらへと再び走り込み、膝を鳩尾へと打ち込んでくる。


 俺はそれをバックステップして回避するが、膝蹴りは重心の移動が少ない。直ぐに第二撃を打ち込んでくる。今度は、左足で脇腹を照準して水平に足を打ち込んできた。


 俺はその足の軌道に黒銀の翼(クロムメタルウィング)を添え、攻撃を受け止めた。そこから、左手で掌打を打ち込む。腰が入ってないのでそれほど威力はでなかったが、それでも、奴の重心を崩すことには成功した。俺は奴の重心が崩れた隙に、すかさず、翼のアシストを入れた全力の右ストレートを放つ。


 それを、奴は、受け止めた。


 俺は全力で拳を撃ち込んだのだ。この拳はプロボクサーを悠に凌ぐ、轟速の打撃だ。それを受け止めるなど。俺は驚愕と寂寥に顔を歪める。


 刹那。掴まれている俺の拳から腕、肩にかけて、強い、さながら対物狙撃銃の弾のごとき衝撃がはしった。


 俺は右腕を力なく、だらりと垂らした状態で、奴の呟きを聞いた。


「解名詠唱は日常的な会話の中に、その名称が混じっていても発動するんだ。知らなかったか?」


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