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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第二章「霊岩郷のプロローグ」
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「霊岩郷7ーーThe Bestierーー」


俺が突撃した瞬間、奴はこちらへと岩柱を顕現させる。その岩は赤黒く、否応なく、俺は地獄を連想させられた。


 刹那。俺はその岩柱を翼を震わせ、推力を発生させたうえで殴り壊す。今の一連の動作で、俺の腕にはダメージが残った。僅かな倦怠感と痺れ、強い痛みがあるのだ。それでも、岩柱を殴り壊せたのだからまだいいが、しかし、今の奴は一発岩柱を叩き折ってやったところで、直ぐに第二弾を射出できる。


 俺はそれよりも早く、羽を奴へ撃ち込む。その数は20。回避はできない。


 しかし、回避ができないからと言ってその攻撃が有効だとは限らない。実際、今度も、俺の射出した羽は奴の体表に衝突した瞬間、その運動量を皮膚にぶつけて落ちた。当然のように、奴には傷一つついていない。


 俺のその行動から一拍と置かず、奴は俺の正面に岩柱を顕現させた。俺と柱の距離は30センチほど。回避は不可能だ。


 ーーと次の瞬間、俺は目の前に現れた岩柱に向けて掌打(ジャブ)を撃ち込む。俺の拳では木材すら砕けないが、今、俺の皮膚はAdvanceによって万物を切り裂く能力を得ている。目の前の岩柱を切り裂くことなど容易だ。


 奴は今、妙だと思っているだろう。さっき迎撃をはかった時には一撃で岩柱を叩き壊せなかったのに、今度は叩き壊せていることが。


 ーーそのカラクリは単純だ。


 俺はそれを言葉にせず、あくまで寡黙に奴へ突撃したこれは、奴に拳を命中させる、最初で最後のチャンスだろう。奴は恐らく、「気付く」


 右拳を振りかぶり、翼を震わせて奴へ轟速の右ストレートを叩き込む。俺の拳は奴の鳩尾を殴り上げるようにヒットーーする筈だった。


 俺の拳は空を切った。そして、俺の左足は業火のごとき熱で焦がされている。これは痛みの熱だ。ダメージを受けた部分が熱を帯びているのだ。炎などどこにも発生していない。


 しかし、その熱さは、まるで灼熱であった。


 その熱感の正体は単純明快。奴の岩柱だ。奴は後方へ逃げるために岩柱を右手の末端部から顕現させ、俺の左足に撃ち込んだのだ。それは、恐らく、攻撃と逃避を一度に行うため。


 実際、奴の行動は得策であったといえる。奴は見事、後方へ逃げることに成功したし、俺は岩柱を回避できずにダメージを被っているのだから。


 俺は素早く足の岩柱へと手刀を打ち込み、それを破壊すると、足元に落ちている40の羽群を上空、奴の滞空空間へ向けて巻き上げた。


 俺は、敢えて羽の再出力という裏技を使わなかったのだ。全ては、今この瞬間、奴へ羽の大群を撃ち込むため。


 羽群は奴の正面から、多重の層を作り追随していく。


 奴は再び、地面に岩柱を打って、西へと逃げていく。俺はそれを見逃さなかった。すかさず岩柱の根本へと走り込み、傾斜になっている柱を駆け上がる。


 柱の頂点は流石に傾斜の傾き加減が極端であったので跳躍し、俺は奴と同程度まで高度を上げた。


 刹那。俺と奴は永遠にも思われた時間、その信念に燃える双眸を交錯させた。片や幼馴染みの力になりたいという、人間味溢れる信念。片や、血を求める獣のような信念。


 信念が、交錯される。


 二人の乖離は深い。それはさながら、海溝のようで、底無し沼のようで。


 されどそれでも、邂逅は起きる。


 刹那。奴は正面から向かってくる羽群を、その側面から顕現させた岩柱二つで迎撃し、辺りに赤黒い煙を巻き起こした。それは間違いなく、奴の岩柱が砕けたことが原因の事象である。


 刹那。俺は正面に佇む奴を、その双眸で真っ直ぐに見据え、自分の足元に顕現させた羽を蹴って推力を発生させることで、数メートルあった間合いをゼロまで詰めた。その瞬間、俺が蹴りつけた羽を奴へと撃ち込む。


 この手は、さっきも使ったのだ。二度通用すれば、苦はない。


 次の瞬間、奴はこちらを真っ直ぐに見据え、正面から岩柱を打ち込んできた。俺はそれを打ち砕こうと腕を振りかぶったところでーー


 さっき奴が砕きもらした羽6枚ほどを足元に配置し、飛び上がった。刹那。俺がさっきまで存在していた空間に、()()の岩柱が出現した。その柱は互いに、互いの運動力で運動力を相殺し、粉々に砕けて地面へと落ちる。


 危なかった。さっき、何気なしに奴へと羽を撃ち込まなければ。その羽に写っている背後を確認しなければ、俺は今頃やられていた。


 俺はその位置から、さらに足元へ羽を10枚顕現させて、それを蹴りつける。奴との間合いは1メートルとない。奴が反応するより速く奴へと拳を叩き込む。


 次の瞬間、轟速、としか形容のしようのない速度で、俺は奴へと接近。拳を打ち込んだ。


 拳は奴の体表を浅く撫でーーそこで、拳は急激に奴から離れていく。否。拳だけではない。体全体が、雷のごとき速度で後退してゆく。


 なんということか。俺が奴を殴りきるより速く、奴は眼前の空間に岩柱を顕現させたのだ。奴はそれを出力、俺を()ね飛ばしたというわけだ。


 俺は遥か後方のビルへと突き刺さった。僥倖であったのは、それが廃ビルであったということだ。開発途中で投げ出されてからそのままになっている、都市部に不釣り合いなビルである。


 俺はそのビルの三階部分ーーそれでも屋上ではなかったーーに突き刺さり、貫通して奥まで抜けた。俺はどうやら、背中を打ち付け、地面との摩擦で擦ったようだ。背中だけがひどく痛むので、分かる。


 他の部分には痛みがないので、傷を負っていないことも分かる。それは第二の僥倖であった。今日は以外とツキが回ってきているかもしれない。


(今接近されたら終わりだ! なんとかしてこのビルから脱出しろ!)


 分かった、と小さく答えてから、俺は律儀に階段から降りようとする。しかし、そこに、奴が現れる。


 奴は俺が衝突の衝撃で造った穴から、岩柱によってこちらへと接近してきた。


 まずい。この状況。俗に言う袋小路だ。逃げ場がない。後ろの階段から逃げようとすれば、背中を撃たれ、奴へ突撃すれば、360度から岩で攻撃される。かと言って防御を固めても、岩柱は防御など簡単に貫通することができる。


 ーーどうする、どうする。


 俺は考えつつ、奴を見据えた。そして、気付いた。


 奴は圧倒的な実力でこちらを追い込んでいる筈なのに、何故か、苦虫を噛み潰したような、苦悶の表情を浮かべている。


 俺が状況を整理できずに困っていると、理解よりも早く「現実」がやってきた。


 奴が、「倒れたのだ」


「な...ッ!?」


 俺は驚愕に目を見開く。どういうことだろうか。俺の脳は立て続けに、目まぐるしい現実という名の粒子の羅列を見せられ、処理ができなくなってしまったようだ。理解が追い付かないとは、このような心理状態をいうのだろう。考えようとすれば考えようとするほど、何も思い浮かばなくなる。


(これはーー)


 翼が何かを口走ろうとした時だった。


許容上限(キャパ)オーバーだな」


 声が、響いた。

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