邂逅ーーExtra Worldーー
最近、この章が土特殊元素使いのためのものだと思い出しました。
今までもかなり多くのシーンで出ているような気がしますが、多分土特殊元素使いの出番が増えると思います。
11月6日。人混みに紛れたことで、標的を見失ったのは俺も同じだった。奴はどうやら岩石化を解いたようで、完全に人混みの中に紛れてしまった。
「愚策だったか...?」
(いや、そこまで悪くない判断だろう。奴のことを再分析できるいいチャンスができたんだからな)
俺はやりきれない、というように頭を掻くと、家に向かって歩き出した。
家の前に着くと、亮が唖然とした目で見つめてくるので、「ああいうのがわんさか居るんだぞ、中学生って怖いよなぁ...」 と茶化してみた。
「そ、そうだな」
反応が悪い。予想以上に彼は驚いている。
(ーーしかし、だ。あの特殊元素使いは何がしたかったんだ? 却逆の翼を狙っているのか? それとも、お前を殺したいのか? どれも違うようで合っているような気がする)
確かにそうだ。あいつの目的がなんなのか、俺は未だ分かっていない。
(何にせよ。次、あいつと戦ったときには、ちゃんと倒さなきゃな。あいつ、まだ解名詠唱を済ませていない。恐らく修得していないのだろうが、あのAdvanceの使い方、いずれ辿り着くぞ。解名に)
俺はその言葉に身震いした。ただでさえ強いあのAdvanceがさらに強化されるなど考えたくもない。ーー早めに仕留めなければ。
ーー実際、特殊元素Advanceがさらに強化されるなどということを考えたくもなかったのは、保持者である永生 界斗も同じだった。
いや、正確には、「考えたくもなかった」ではなく、「考えられなかった」だが。
彼は解名という存在を知らなかった。いや、そもそも、Advance使いは、調べなければ解名の情報は得られないのだ。Advanceを取得したからといって、解名の情報や却逆の翼の情報まで知ることができるわけではない。
だから、彼は気付かない。
自分のAdvanceに強化の余地が介在していることを。
そして、彼は気付かない。
彼自身が誰よりも、傲慢になっていることに。力におぼれ、学校にも行かず、他人を虐げる。その様はさながら、群れから独立した一匹狼のようであった。
「ーーっ痛ェな」
ふと、そんな声が聞こえて彼は振り返った。
見ると、さっき、彼に肩をぶつけてきた相手が、こちらを睨み付けている。
これがこいつの喧嘩の手口か、と彼は思った。また、もう少し自然にやれねェものか、とも。
「何だよ」
彼は無愛想にそう返した。どうやら、その態度が気に食わなかったらしい。瞳孔をはちきれんばかりに開かせたその相手は、懐からナイフを取り出した。ここは町中であるが、人通りは少ない。だから、相手の奇行を咎める者は誰も居なかった。
彼は面倒くさくなった。どんな奴かと一瞬でも期待した自分を呪った。どんなAdvanceで攻撃してくるのかと思ったら、なんと原始的な短剣術で喧嘩をするらしい。
彼は8時30分頃に柊人にしたように、体の随所随所を岩石化させ、相手へと飛びかかった。ナイフが振りかぶられ、胸に向かって襲いかかるが、その動きは酷く緩慢であった。彼はナイフを相手の手からもぎ取り、向こうに投げ捨てると、相手の顔を何の躊躇もなく殴り飛ばした。
2、3メートルほど相手は吹き飛び、そこにあった電柱にしたたかに背骨を打ち付けて止まる。
「なんなんだテメェ! 弱すぎるぞォ! こんなんじゃ話ににならねェ!」
彼は意識を失いかけているであろう相手に近付いていった。そして、もう一発殴りを入れようとする。
腕を振りかぶり、奴の頭部を直撃するような軌道で。
しかし、その拳は途中で止められた。
何ということか。彼と相手の間に、大きな盾が屹立しているのである。その盾は一発、本気で拳を打ち込んでもびくともしなかった。
「へへへ...誰が弱すぎる、ってーー?」
次の瞬間、奴は立ち上がり、盾を体の前に構えて突進してきた。彼はそれに対し、岩柱を顕現させることで対抗するが、岩柱でも相手の守りを切り崩すことはできない。取り敢えず、岩柱の衝突エネルギーを使って後退してから、彼は思考を回し始める。
あれはどういうAdvanceだ、と。
盾を出すAdvanceだろうか。しかし、それだけだったら、簡単に盾は砕けてしまう筈だ。絶対に砕けない盾を出すのか。それとも、俺に砕けない盾を作るのか。
どちらにせよ歯応えがありそうな相手だと彼は思った。もう、さっきまでのような見下した思考は消えていた。
彼は礫を20個ほど一気に顕現させると、それをカーブする軌道で撃ち込んだ。つまり、盾を避ける軌道である。
相手は当然のように攻撃を回避する。バックステップしたのだ。
それを岩柱で追撃するが、盾に防がれる。
それを見や否や、彼は相手に向かって走り込んだ。体を岩石化させ、肩をいからせての突進である。
奴の盾に、彼はタックルした。それで盾が破れると信じて。しかし、盾は砕けるどころか、動きもしなかった。表面で衝撃を吸収しているのだ。
彼は飛び退く。カウンターを恐れてである。
そこから再び礫での攻撃を試みるが、さっきの二の舞を演じる結果となる。奴は再び回避した。
ーーそうだ。地上での攻撃が当たらないなら、地中から攻撃を当てればいいのではないか。
不意に彼はそう思った。そして、実行に移した。地面へと拳を打ち付け、一拍とおかず、岩柱を顕現させる。ーーそれも、奴の足元から。
刹那。ガードをすり抜けて飛んできた攻撃を、相手は回避することができなかった。足を強打し、骨折し、岩柱屹立に伴う上向きのエネルギーによって打ち上げられたので、地面に突き刺さって背骨を強打する。恐らく、ヒビくらいは入っているだろう。
彼はそれに口角を顔の半分だけ吊り上げたニヒルな笑みを浮かべてから、立ち去ろうとした。
しかし、できなかった。
「やー、ひどいねぇ! これが特殊元素系統。興味深いよ」
彼の目の前に、奇妙な狐面の女性が立ちはだかったからである。
一体いつここに現れたのか。そもそも、お前は誰だ。色々疑問はあったのだろう。
しかし、彼は、女性が手にしている刀を見、一目で気づいたのだった。
戦う気なのだと。
次の瞬間、彼はハイエナの如く女性に襲いかかった。
途中に出てきた不良のAdvanceの解説でも。
反射盾ーーThe Fogーー。自分を攻撃した相手(Advanceで対象にしたものも含む)が破壊することのできない盾を顕現させることができるというもの。相手が何らかの攻撃を加えると、盾の表面でそれが吸収され、何事もなかったかのように元に戻る。




