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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第二章「霊岩郷のプロローグ」
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「狂気4ーーThe Bestierーー」


 俺は地面を蹴り、奴との間合いを詰めた。元々そこまでの距離はなかったが、近距離戦闘をするとなると、この距離は重要な意味を帯びてくる。


 俺は先手を取るべく奴より先に行動したのだ。


 俺は右拳を振りかぶり、奴へと叩きつける。鈍い音が響き、腕に鈍痛がはしったが、気にすることなく、翼から羽を二枚ほど射出する。羽は奴の体表に吸い込まれるように衝突し、そこで一瞬動きを止めた。


 しかし、それは一瞬だった。


 刹那、再び推進力が加えられた羽は、奴の体表を浅く抉る。鮮血が背中と同様に吹き出し、低く呻いた。


「こ、この野郎ッ!」


 奴は怒り、腕を突き出して岩柱を顕現させる。その速度は、どう考えても前回の戦闘より速い。進化しているのだ。やはり恐ろしいAdvanceである。これで解名詠唱を済ませていないのだから、身震いしそうになる。


 今、奴との間合いはゼロに等しい。岩柱を避ける術は、ない。


 俺はせめてダメージを減らそうと、必死で体を岩柱の横幅から外に出そうと画策した。しかし、間に合わなかったようで、俺は左半身を強打して背後へと吹っ飛ばされる。


 今の攻撃で肩がイカれた。治癒が済むまで左肩は使えないな。なんて俯瞰した思考を回していると、ふと、俺は自分の形をした人形を操って戦っている錯覚にとらわれた。度重なる戦闘の影響か、俺は痛みをあまり感じなくなっていたのだ。


(今は一旦退け。今突撃してもいいことはない)


 俺はそれを聞くや否や背後へと跳んだ。遅まきながら襲ってくる痛みから逃げるように、さらに2、3歩背後へ跳躍すると、退避に徹していることを包み隠そうともせずに、そのままの姿勢で逃げ続ける。


 奴はそこに岩柱を飛ばす。それを紙一重で回避すると、羽を射出させた。


 その羽は、岩石化していた奴の皮膚に衝突するや否やはたき落とされたが、構わず第二群を撃ち込む。それも弾かれたという事実に歯噛みしつつ、俺は逃げ続ける。


 ーー亮からできるだけ離れられるように。



 特殊元素(マナ)系統の、却逆の翼の次にレアなAdvanceを得た隣町の学生、永生(えいせい) 界斗(かいと)は、発現からずっと、喧嘩に明け暮れてきた。


 彼はこれまでも、中学生にしては大きなガタイと、持ち前の戦闘に於ける勘で、年上の不良すらも薙ぎ倒すことがあったが、Advanceを得てからは、近所の不良など道端の虫けら同様、取るに足らない存在となっていたのだった。


 そしてある日、彼は強いAdvanceを持つ、「真の敵」を渇望するようになった。本当に強い人間は、強いAdvanceを持っていると分かったからである。


 彼は解名取得を済ませていなかった。そのAdvanceのインパクトの強さから、常時解名を詠唱しているのではないか、と思われがちだが、彼は解名詠唱ができない身なのだ。


 しかし、それでも、特殊元素(マナ)Advanceの性能は、凡百のAdvanceを上回った。


 彼はそれなりに強いAdvance使いを数十人葬った後、自分が今まで戦ってきた敵は「真の敵」足り得なかったことを悟った。誰一人、彼を満足させることはできなかった。


 そして、そんなある日。却逆の翼保持者が、隣町に存在しているという情報を入手すると、彼は喧嘩を吹っ掛けに行こうとした。否。彼が求めていたのは「喧嘩」ではなく、魂を懸けた「殺し合い」であったので、実際、彼の行動は神無月 柊人を殺しに行っていたのと同義だったのだが。


 彼は柊人を殺しに行き、そして、柊人に失望した。


 彼が思っていたよりも、却逆の翼が弱かったためだ。


 彼は思ったものだ。「なんだ。却逆の翼もこんなものか」 と。


 しかし、一度死んだと思っていた却逆の翼は、蘇ってきた。それも、強くなって。どうやら、翼を呼び出すために使った演出が悪かったらしい。そいつは激昂して襲いかかってきた。


 彼は丁度その時、Advanceの「成長期間」に入っていたので、全力を出すことはできなかったのだが、それでも、後一手のところまで追い詰められたのは初のことであった。


 人間、見下していた相手にやられると気分が悪くなる。先人の全てがそうだったように、彼もそうであった。だからこそ、彼は焦燥を抱えたまま戦っているのだ。慣れない挑発も使いつつ、確実に却逆の翼を葬るために。


 しかし、彼は気付いていなかった。


 彼が、Advanceを単なる喧嘩のための道具と思っているのに対し、「却逆の翼」神無月柊人は、自分のAdvanceを相棒として、戦友として、親友として見ている。


 だから強いのだ。Advanceとは自分自身。それを信じられない戦士はいつまでも二流のままなのだ。


 しかし、彼は気付かない。


 彼は逃げる柊人に向かって駆ける。ここで亮を人質に取らなかったのは、彼自身の傲慢なプライドが許さなかったのか、それは分からないが。


 拳、胴、肩と岩石化を行い、簡易鎧のように岩を扱ってから、(つぶて)を柊人に向かって撃ち込む。


 それを柊人は殴打で砕くと、三度羽の郡を射出し、牽制を謀った。羽は難なく対処できたが、対処しているうちに、柊人は大通りへと出てしまった。彼は急いで柊人を追いかける。


 そして、道に出た瞬間、気付く。


 今の時刻は8時30分ほど。ーー通勤ラッシュが起こる時間帯である。


 柊人は、その通勤ラッシュの人混みに完全に紛れ込んでしまった。こんな人混みの中では特殊元素(マナ)能力は使えない。


 しかし、却逆の翼は違う。この人混みの中でも撃つことができる。


 彼は体の岩石化を解き、しばし辺りを見渡した後で、その場から走り去っていった。


「チッ...次合った時は殺すぜ、却逆の翼ーー」


 彼の呟きは、幸いにも、人混みの喧騒にかき消されたという。


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