表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第二章「霊岩郷のプロローグ」
35/91

「救援ーーOver Top Novaーー」


「生徒...会長...」


 俺は自分でも、無意識のうちにそう呟いていた。


 俺の眼前に立つ人物は間違いなく生徒会長だ。その高身長と、透き通るような美声、そして、中学生にしては整いすぎている顔。


 彼は10月初めの生徒会役員選挙で、数人居たライバルを蹴落とし、圧倒的なリードで生徒会長に就任した。俺は別の立候補者の奇をてらったスピーチが気に止まり、彼に票を入れなかったのだが、結果として、彼は生徒会長の座を手にいれた。


「これを使え」


 彼は手首のスナップを効かせ、俺に何かを投げた。それをキャッチすると、それは「リカヴァー・アドバンス」と相山先輩に呼ばれていたクリスタルを思わせるデザインの錠剤であることが分かった。


 俺は永戸の口を開けさせ、それを放り込む。


 すると、たちどころに彼の体の傷は回復し、阿鼻叫喚、といったような苦悶の表情は、穏やかな表情へと移り変わった。


「じき意識を取り戻すだろう。災難だったな」


「あ、ありがとうございます」


 生徒会長、暦有馬(れきありま) (おさむ)はそれを言うと、その場から去ろうと、俺に背を向けた。


(何かいけすかない野郎だな...オレ、こういう奴肌に合わねーぜ)


 オイオイ、と俺は翼をたしなめつつ、ふと、どうしてここに生徒会長が居るのか疑問に思った。


「あ、あの」


 彼は少し驚いたような表情をして振り返った。しかし、その表情を見せたのは一瞬だった。直ぐに、厳格かつ穏やかないつもの表情に戻る。


「どうして、ここに?」


「ーーそうだな。自分でも良く分からないが、こういう場所が好きだから、だろうな。多分」


 俺には、意味が良く分からなかった。どうも抽象的で、頭に入ってこない。まるで小説の主要人物のような言葉選びである。


「そういう君はどうして?」


 俺はその問いに一瞬、どう答えていいか決めあぐね、逡巡した。彼はたった今、リカヴァー・アドバンスを俺に寄越した。つまり、Advanceのことについては人一倍詳しい筈だ。ここで、Advance狩りのことを話すのはどうかと思ったのだ。


(教えない方がいいな。ーーこいつ、絶対一枚岩じゃないぞ)


 翼はさっきから彼を否定している。俺はどうも合わないタイプだ、くらいにしか認識していなかったが、翼は明らかに、敵意むき出し、という感じである。


「ーーそう、ですね。僕も、先輩のような理由ですかね。何か、儚いような、感傷的な...そんな気分になれるんですよ。こういう場所」


 取り敢えず、真実を混ぜた嘘でこの場を取り繕ってから、俺は翼が彼に敵意を向ける理由について考えた。


 しかし、答えは出ない。今の一連の会話で他人を嫌いになる理由など、声が嫌だ、顔が嫌い、など、人柄に関するものしか挙がらない。しかも、翼は、そんな理由で他人を嫌うような奴ではない。


(信頼されてるなぁ。オレ。まあ、そうなんだけどさ。外見や声なんてチャチな理由じゃない。オレの本能が、こいつに向かって警告を出しているからーー)


 前々から詩的なことを言ってきた翼だが、今回ばかりは真面目らしかった。


 これは言わば、虫の知らせのような、非科学的とされる第六感のようなものだろう。


「まあ、俺が言えたことじゃないけど、ここは危ない。早めに帰った方がいいぞ」


 会長は最後にそれだけ言うと、この場を去ってしまった。


(行ったか)


 俺は翼のその声が響くと同時に、詰まっていた息を吐き出した。さっきまで限界まで肉体を追い込む危険な戦闘をしていたのだ。疲れが出るのは当たり前だろう。むしろ、今まで、疲れが出なかったのがおかしい。


(で、どうだった? 戦ってみた感想は?)


 徐に、翼が聞いてきた。


()ず、攻撃が通った、っていうのが大きかったように感じたな」


 俺はそう言うと、埃まみれのソファに座り込んだ。


「今回は逃げられたが、次は勝てる。攻撃が通ることは今回で証明されたんだ」


 そこで、俺は血が出んばかりに、強く拳を握りしめていることに気付いた。ゆっくりと力を抜くと、再び、誓うように呟く。


「永戸をあんなに傷付けたあいつを、このまま許しておけるか」


(はは。初め、京子を守るためにあいつが躍り出てきた時は、お前、射殺してやる、って物語る目で睨まれてたけどな)


 む、昔の話だろ。と返した瞬間、俺の視界の端で何かが動いた。見ると、それは永戸であった。大きなダメージで半気絶状態になっていたので、あの錠剤を飲んでもしばらく意識が戻らなかったのだろう。


「か、神無月さん?」


「な、永戸! 起きたのか...」


 永戸の傷は完全に塞がっているし、あの錠剤は精神を落ち着ける作用もあった筈だ。それは、実際に飲んだので分かる。


 しかし、永戸はまだぼうっとした顔をしている。


「ーー僕、どうしたのかな」


「何もなかったよ。悪い夢がそこにあっただけだ。もう覚めた」


 俺はそう言うと、ソファから体を起こした。


「こんな所に居たら病気になるよ」


「そ、そうですね」


 俺はそれだけ言うと、廃病院から出た。


「次...か」


(ん?)


「次は、あの翼使いも倒さなきゃいけないのかな」


(ーー分からないな)


 俺は空を振り仰いだ。


 運命は、動き出している。


 ーー彼に(Prologue)於ける(To)世界(Destiny)が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ