強襲ーーThe Fight !ーー
一日以内に更新できました! かなり嬉しいです。
(ん? 何やってるんだ?)
夕方、机に向かう俺に、「翼」が話しかけてきた。
「テストの予想問題作り。今日中になんとかするって言っちゃったし」
そう言い、俺は再び問題を書き始める。
(律儀だねぇ...)
「俺なんか全然だ。しかし、今年の委員長、熱心だよな。前任の人はあんなに熱心に声かけてきたりしなかったのに。やっぱり責任感とかちゃんと持ってるんだろうなぁ」
(ほほう)と思わせ振りに彼は唸った。
「あ、シャーペンの芯切れた。くそ、買いに行かなきゃ」
俺はテーブルライトを消すと、家を飛び出した。近くの文房具店には確か0.5ミリの芯が売っていた筈だ。
「こういう時に翼とか使えないのか?」
(無理。片方だけの翼じゃ飛べないだろう)
不便な能力だ、なんて言って全力疾走しているうちに、文房具点が見えてきた。あれは俺が小学生の時からある文房具点で、贔屓にさせてもらっている。今の筆箱の中身は全部あそこで取り揃えたのだ。
俺は駆け、文房具点まで後3メートルというところまで走った。そして、足を止めた。
「どうしたんだよ?」
「翼」が俺を制止させたためだ。何やら真剣な声色には、警戒の念が内包されている。
(背後。さっきまでは気付かなかったが、一定のペースでお前をつけてる奴が居る)
「翼」は徐にそう言った。「知り合いかなんかだろ?」 そう言い返すも、「翼」は (お前には2年の不良に知り合いが居るのか?)と切り返してきた。
(た、確かに、不良の知り合いなんて知らない)
俺は事態を察し、思考で「翼」と会話することに決めた。
(注意しとけよ。あれは中学生。能力者だぜ)
「翼」はそれだけ言うと黙りこんでしまった。何かを考えているのか。俺に読み取ることはできない。
俺は取り敢えず、振り返ってみることにした。すると、背後からは隠れようともせず、その「不良」が歩いてくる。相手は髪を金髪に染め上げ、片耳にピアスをしていた。これは不良だ。間違いない。
まさか表だって俺を攻撃する気か!? と身構えたところで俺は気づく。そうだ、今は夕方。中学生が道を歩くのはごくごく自然のことだ。
だが、警戒を解いてはいけない。相手は十中八九、俺を襲う気だ。
(なあ、「翼」)
俺は「翼」に話しかけた。
(何だ?)
(却逆の翼を、相手に気づかれず、何枚か取り出したいんだが、できるか?)
俺が問いかけたのは、武器の調達についてだ。この「却逆の翼」の羽根は自由に操作できる。だから、三枚ほど携帯しておくだけでも充分「武器」足り得る。
(上手く隠せばいけるかもな。お前のコントロール次第だけど)
それを聞いた瞬間、俺は背後を向いた。背後からは「不良」が歩いてくる。しかし、俺は迎撃する気はなかった。背後を向いた瞬間、素早く翼を展開し三枚ほど羽根を落とした。相手から死角になる位置で、手を切らないように翼を手に取る。そして、真横の地区会掲示板に目をやった。
これでカモフラージュできるだろう。多分。
(いやいや、気付くでしょ。いくらなんでも)
(大丈夫だって) とたしなめつつ、俺は再び歩き出した。
1メートルほど歩いた頃だろうか。翼が、(来るぞ!) と切迫した警告を出した。
俺は背後を振り返る。見ると、不良が拳を振り上げて肉迫してくる。
俺は振り上げている方の腕を羽根で照準して、射出することで斬りつけた。ギャッ、という悲痛の呻きが不良からもれ、ついでに鮮血も漏れる。
「だ、大丈夫ですか?」
背格好から年上だろうと判断した俺はそう問いかけつつ、手を差し伸べた。勿論、欠片も心配なんてしていない。どういう能力かは分からないが、このゼロ距離ならどんな攻撃だろうと対処できるだろうと思ったのだ。つまり、この行動は間合いを詰めるためのアクションというわけだ。
しかし、不良は俺の予想と反し、背後に後ずさって距離を取ろうとした。俺はそれに追撃するように、羽根で脇腹を掠める。
再び呻く不良には、最早戦う気力は残っていないように見えた。
しかし、不良は腕の傷を見るや口角を吊り上げて笑うと、地面に滴った血をーー
ナイフに変換した。
次の瞬間、ナイフが俺に向かって投擲される。俺はそれを回避できず、腕で受け止めてしまった。刹那、鋭い痛みが腕を伝って全身にはしった。
(血液をーーいや、血液内の鉄分を別の鉄物質に変換する能力か!?)
「翼」がそう叫ぶ。叫んだ瞬間、不良はさらにナイフを生成する。
俺はそれを見や否や、背中に翼を展開し、羽根を3枚ほど落とす。俺はその翼を不良が手に取ったナイフに命中させ、ナイフを弾いた。
ーーとその瞬間、不良は更に溢れだしてきた血液を一本の曲刀へと変換し、それを片腕で不格好に構えると、俺に向かって垂直斬りを繰り出した。
それをバックステップで回避してから、俺は重要なことに気付く。
この刀、攻略する方法がない。
翼を不良の頸動脈にあてがえば、簡単に勝負はつく。この翼の射出速度は人間の視覚では捉えられても反応できないほどだ。
しかし、それをすれば、俺は人殺しへと成り下がってしまう。それだけはいけない。それに、相手はこちらに殴りかかろうとしただけだ。殴りかかるのも問題だが、それだけで殺すなんて真似、出来ようもない。
だが、殺さずに、奴をどうやって攻略する?
(殺さずに攻略、だろ? だったら簡単だ)
奴は再び剣を振るう。今度の水平斬りを今度は飛び上がって避け、上空で右足での蹴りを繰り出してから俺は地面に降りたって距離をとった。
(あの剣を折ればいいだろう)
それだ! 俺は思わず心の中で叫ぶと、俺は地面に落ちた羽根4枚ほどを曲刀の横腹にあてがい、左右に動かして強い摩擦を発生させ、曲刀を折ろうと画策した。
実際、曲刀は至極簡単に半ばから折れた。
俺はその事実を、しばしぽかんとした顔で眺めていたが、直ぐに、刀が再生しないことを理解し、相手が攻撃の手段を失ったことを直感し。
左拳を素早く振り、不良の鳩尾に叩き込んだ。
俺はさっき、殺さない、と決意を新たにした。
だが、痛め付けないか、と聞かれれば、それは違う。こいつは俺を殴ろうとしただけでなく、明らかに命を刈り取ろうとした。それも、意味もなく。
だから、今から打ち込む技は、残虐非道でも何でもない。唯の、不遜の代償だ。
思ったことがある。この翼は、飛行用のものではない。しかし、震わせれば推力は発生するのだ。つまり、この翼を殴る直前に震わせればーー? 答えは1つ。殴打の威力は、何倍にも膨れ上がる。
俺は左拳を引き戻すと、右拳を構え、振りかぶった。その態勢から、俺は展開させた翼を震わせる。震わせたことないが、感覚でやってのけるしかない。
ーーと次の瞬間、世界が震えた。
まるでジェットエンジンを全力で噴射させたかのような圧倒的な速度と、ボクサーのような圧倒的威力のストレート。この二つの要因が合わさった殴打は、不良の鳩尾へと吸い込まれるように打ち込まれ。
不良を6メートルほど背後へ吹っ飛ばした。
それよりも後ろへ行かなかったのは文房具屋の向こうにある電柱に衝突させたからだ。本来なら、もっと距離が稼げていただろう。
(驚いたな! こんな翼の使い方をしたのは、お前が初めてだよ!)
「ん? お前が初めてってことはーー」
言葉は最後まで続かなかった。鋭い痛みがーーそれこそ、腕の傷より鋭い痛みがーー俺の足から全身へと迸ったからである。
「痛っ!」
どうやら、今の攻撃でかなり足に負担がかかったらしい。足は捻った時のように痛む。
それに、足の底は焼けるように痛い。恐らく、翼の衝撃を抑えようと踏ん張ったからだ。
恐ろしい力だろう、これは。俺は勝利の美酒に酔いつつも、この力の恐ろしさに身震いした。
完全に自分の趣味の領域になりますが、銃とか出したいです。
...中学生は銃とか持ってないか。




