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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第二章「霊岩郷のプロローグ」
28/91

「過去ーーNot Outer Novaーー」

 能力バトルを書いててずっと書きたかったシチュエーション、修行編です。

 気合いを入れて書きましたので、ご覧あれ!


「で、第二段階、ってのは一体何なんだ?」


 11月4日は清々しい快晴が特徴的な日であった。温度は天気に反することなく、まるで真夏日のような暑さであった。正直、運動するにはもってこいの環境である。


(そうだな。じゃ、それを説明する前に、先ずは精神統一からしようか。昨日の記憶を活性化させよう。ささ、座れよ)


 俺は促されるままにあぐらを組み、翼の言葉に耳を傾けた。昨日、武術修練と称して精神云々の理論は大方叩き込まれた。そのこともあってか、精神統一に対する抵抗はなかった。


 5分くらいした時だろうか。ふと、俺は目の前に、コートを羽織った男性が立っていることに気付いた。


 男性、という形容の通り、彼の顔からは少年然とした雰囲気は感じられず、代わりに、どこか逞しい、成長を終えた大人のような雰囲気を、その容貌から感じ取ることができた。


 しかし、俺の第一印象を裏切るように、男性は中学生のようなニヒルな笑みを作ると、その背中に黒銀の翼を顕現させた。


 刹那。俺は顕現された「それ」を見、息が止まった。動悸が荒くなる。体に力が入らない。全身を、冷ややかな感覚が突き抜ける。


「却逆のーー翼...ッ!」


 そう。「それ」は間違いなく却逆の翼だった。俺はつい最近まで、こいつと死闘を共にしてきたのだ。見紛えようもない。


(第二段階は単純明快な内容だ。ーーこいつを、倒せ)


 翼の声が響くと同時に。


 彼の背中の翼から5枚ほど、羽が射出された。俺が一度に射出できたのは3枚。彼は、俺よりも却逆の翼を使いこなしている。


 俺は身を屈めてそれを回避。重心の据わっていないそのままの体勢から、(ほとん)咆哮(ほうこう)のような声でその名前を呼ぶ。


「却逆の翼ッッ!」


 しかし、俺の背に翼は現れない。


(どうやらまだ却逆の翼を顕現させることはできないようだな。ーーさあ、どうする?)


 ーーと次の瞬間。地面に落ち、機能停止していた筈の羽が牙を剥いた。まるでブーメランのような軌道で、こちらの背中へと突き刺さる。


「かはっ...」


 業火のごとき痛みに耐えかねたようで、肺から不自然に空気が漏れるが、構わず俺は逃げ出す。開けていた休憩場のようなこの場所から、山道を外れた森へと飛び込む。


 止血は後でする。今は止血よりも逃避を優先しなければならない。


(あ、そうそう。今回、オレは一切の助言をしない。だから、自分の力で頑張れよな!)


 そんなコメントも取り敢えず尻目に、俺は不安定な足場を必死に駆ける。


 刹那の一瞬、背中にあった異物感が消え、血が溢れたが、気に留めていられない。


 一先ずそこにあった(こずえ)の影に身を隠すと、俺は背後へと僅かに首だけ突きだし、状況確認を試みた。


 相手は山道から、悠然とこちらを見据えている。この距離では表情すら窺うことはできない。


 傷の治癒を待ちつつ、俺は思考を回し始める。


 奴はさっき、却逆の翼から5枚の羽を射出して見せた。恐らく、翼の使い方に関しては俺よりも上手いのだろう。それは紛れもない事実だ。しかし、奴が使っているのは却逆の翼であるというのも、また事実である。


 つまり、奴のAdvanceに関しては、この地球上で誰よりも詳しい。


 あのAdvanceに出来ることは、少し粗暴な言い回しになるが、羽を射出することと、治癒くらいだ。それも、両方を一度に行うことはできない。


 加えて、一度羽を射出した後、続けて羽を射出するには、一拍ほど時間を置かなければならない。


 翼は相当前に、却逆の翼によって発生する推力を殴打の威力補正に使った俺の行動に対し、「そんな使い方をしたのはお前が初めてだ」 と評価した。


 これは不遜な言い回しになるかもしれないが、彼に俺と同じことができるとは思えない。


 つまり、だ。中距離(ミドルレンジ)での戦闘を得意とする却逆の翼保持者の弱点は、近距離戦闘ということになる。


 彼に接近することさえできれば、勝機は見出だせるのだ。


 今、俺は却逆の翼にも、翼にも頼れない。


 だが、勝機はある。動く腕がある。地を蹴る足がある。そして、世界を捉える(まなこ)もある。


 俺は梢の影から出た。今の思索に要した時間で、大体傷は塞がっていた。相変わらず凄い再生能力だ。そう言えば、俺にはこの再生能力もあった。だが、これからの戦闘で使われることはないだろう。


 ーー俺は、一撃で決めるのだから。


 彼を見据え、徒競走を走っているかのようなスピードで疾駆する。それを見据えると、彼は羽を5枚、こちらへと射出した。それは俺の前方180度を囲むように飛んできている。


 隙は、ない。


 刹那ーー俺は、手を前に突きだし、指と指の間で5枚の羽を受け止めた。


「よ...よっしゃああああっ!」


 俺は自分でしたことに一番歓喜していたかもしれない。歓喜の叫びをあげ、そこから、精神を一度リラックスさせーーそれに要した時間は1秒以下だったーー羽を彼へと投擲(とうてき)した。


 羽は見えない壁に阻まれるように、男の眼前で運動を止めた。このまま俺が何もしなければ、それは再び、俺に牙を剥くだろう。


 そうは、させるか。


 俺は駆け出した。場所が悪いとは言え、彼との距離は5メートルほど。羽が射出されるより早く奴を叩ける距離だ。


「おおおおおおおおおおおッッ!」


 咆哮し、最後の2メートルを跳躍で詰める。


 俺の拳は、奴へと吸い込まれるように叩き込まれーーなかった。


 確かに、拳は彼の皮膚に触れた。しかし、それは「殴打」とは程遠いものだった。そう、言うなら、「愛撫」か。


 俺は打撃が外れ、自分の体を動かしている推力をコントロールする術を失った。次の瞬間、土とは言え固い地面へと、したたかに体を打ち付ける。


 刹那。俺は振り返った視界に、飛んでくる5枚の羽を見た。


 俺の今の体勢では、回避もままならずーー体に切り傷を深々と穿たれ、仰向けに倒れ込んだ。


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