特殊元素との邂逅ーーBegining The Rockーー
そう言えば、この作品のジャンル、「文芸・アクション」になってるけど、Advanceは文芸に入るのだろうか。一応異なる力だけど。
今からでもローファンタジーに変えるべきですかね?
「Advance狩り...?」
11月3日。俺は永戸から送られてきたメールの文面に息を呑んだ。
(ーーまさか、この町でも...)
メールによると、どうやら、うちの学校の2年生が次々と、謎のAdvance遣いにやられているらしい。被害者は一様に、まるで鈍器で殴られたかのような傷を負って病院に運ばれているらしい。
メールの最後の行には、「あなたも気を付けて下さいね。狙われやすそうですから」とお節介な記述があり、俺は苦笑したのだが、実際、狙われているのは間違いないのだ。
茜先輩を使って俺をはめた謎の人物も、狐の面を付けた女も、この町には存在しているのだ。七道先輩の時と同じように、襲われる可能性は十分にある。
「ーーつうか、翼。「まさかこの町でも」って、もしかして、他の町では恒常化してたりするのか?」
(あ、ああ。他の町では自警団と称して中学生が中学生を狩ったり、時には暴力的な衝動を満たすために同じAdvance遣いを襲っていた奴も、オレは知ってる)
怖えぇな...なんて少し他人事のような思考を瞬かせると、机の上に置いてある本に手を伸ばした。
Advance狩りは流石に、中学生の家に押し掛けて衝動を満たす、なんてことはしないだろう。だったら、休校期間中、ずっとここで読書に耽っていれば安心だ。
(しっかし、お前の読書傾向は変わってんな。一貫性がない。SFばっかり読んでるかと思ったら、急にハイファンタジーを読み出すし、本棚を見る限りだと恋愛モノもあるらしいじゃないか)
「俺は偏愛はしない主義だ。ーーというか、俺の家にあるハイファンタジーは一種類だけだよ」
そう言うと、翼は意外そうに(ほう) と唸った。
(今の若者は転生モノ? とやらを偏愛すると聞いたが)
「まさかだろ。俺はそんなに好きじゃないよ」
そう言いつつ今読んでいるものはその「転生モノ」 に該当する。翼もそれに気付いたらしく、(言ってることと行動が矛盾している...) と呆れたような声を出した。
「これは別だ。同級生が書いてるらしいんで、取り敢えず読んでるだけ。今んとこかなり面白いんだけどな」
(おお。中学生で書籍化か。ここで自惚れなきゃ成功するかも)
そんな俯瞰したような言い回しをする翼を「編集かよっ」 といなすと、俺は文字を目で追い始めた。
そんな状態が30分くらい続いただろうか。ふと、俺と翼は、遠くのほうで金属音がするのを耳ざとく聞きつけた。
金属音、と言っても、聞きなれたような鋭い音ではなかった。まるで、固いものと金属がぶつかり合ったような、鈍い音だった。
「な、何だ!?」
(まさか、Advance狩りーー?)
俺は気付いたら家を飛び出していた。本に栞を挟み、ロクに準備運動もせずに駆け出す。
(お、オイ! 分かってんのか! 今、お前は却逆の翼が使えねーんだぞ!)
「大丈夫だ! ーー少し見るだけだし...それに」
俺はそこで言葉を切った。
「いざとなったら、もう一回却逆の翼を発現させればいい。だろ?」
(無茶しやがって。そういう奴嫌いじゃねーけどな!)
その場所ーー今はもう使われていない廃ビルまでは五分とかからなかった。
俺は急いで中へと入り、そこで、見た。
鉄骨に、ビルの骨組みに、人が打ち付けられている。それも血だらけで。
俺はそいつには見覚えがあった。確か、姿を消すAdvanceを持った二年生だ。
「な...ッ!」
俺は思わず、彼の元に駆け寄ろうとした。頭は冷静だった。助け起こし、応急処置をし、救急車を呼ぼうと思ったのだ。
しかし、彼は、そんな俺を制止した。
「来るなッ! お前も死ぬぞ!」
次の瞬間。
凄まじい轟音とともに、頭上から岩の柱が降ってきた。それも、角度、位置ともに垂直に。
俺は咄嗟に飛び退いたのでダメージを食らわなかったが、あれが直撃していれば、確実に死んでいた。
「な、何だあれ!」
(まずい! 一旦退け!)
翼の声は俺よりも切迫していた。訳も分からず、俺は彼に背を向けてそのビルから立ち去った。
ーーと、次の瞬間。
上空から、20を越える礫が降り注いできた。
俺は急いで、その場から飛び退いてそれを回避する。
「つ、翼! 何だよこれは!」
(直ぐに分かるさ...こいつは、こいつは...特殊元素だッッ!)
その翼の声からは、冷静さは欠片も感じられなかった。
特殊元素。それは、最高最大の力を持ったAdvanceの種類だ、と、「歴史書」には書いてあった。
「う...嘘だろ...それじゃ、あれが...」
「ハッ! 今日はツイてるなァ! 二人目だァ!」
刹那。俺は、屋上に居る奴の獰猛に光る双眸と視線が交錯した。
ーーあれは、人間の目じゃ、ない。
獣だ。ヒトを喰らい尽くす、獣の目だ。
次の瞬間、俺はその地点から飛び退いた。一拍置いて、奴が上空から降ってくる。どうやら、俺の予想通り、奴はあそこから飛び降りる気でいたようだ。
バカなのか。3階から飛び降りた人間が無事な筈が...
一瞬そう思考したが、直ぐに、その考えは間違いであると気付く。
歴史書には、「土系統は、最大最強の防御力を得る」 との記述があった。その記述が正しければ、奴はーー
次の瞬間、奴は地面に突き刺さった。しかし、奴の骨は音を立てない。ーー折れて、いない。
「ばッ、化け物!」
「何とでも言いやがれ!」
奴は俺の眼前に立つと、右手を振り、虚空を叩いた。それだけで、12個の礫が俺へと襲いかかる。
俺は姿勢を低くし、眼前に迫ってきた3個の礫を横から右手で払い除けると、奴に背を向け、逃げ出した。
(賢明な判断だ! 今の状態で戦っちゃいけない!)
翼の言葉も聞かず、俺は走り続ける。そう言えば、俺はさっき倒れていた姿を消すAdvance使いとの戦闘でも、このように遁走した筈だ。
「オイ! 逃げるのか! 却逆の翼ァ!」
刹那。俺は身が凍るような気分になった。
それは恐怖や焦燥がないまぜになった感情の副作用なのだと理解するには数秒かかった。刹那の一瞬、俺は呆然自失になっていたのだから。
バレている。俺が却逆の翼を保持していることが。
そして、俺は唐突に直感した。
そうだ。こいつだ。ーー茜先輩を使って、俺を嵌めたのは。
許しちゃ、いけない存在だ。こいつは。自分の欲望のために、他人を傷付けるこいつだけは許してはいけない。
気付けば、俺は叫んでいた。
不遜な力の代償で封印されていた、「それ」の名前を。
「却逆のーー翼ッッ!」
普通に考えれば、却逆の翼が顕現される筈はなかった。翼が言うには、却逆の翼は封印されており、時間が経過しない限り、再び顕現されることはないのだから。
しかし、だ。
刹那の僥倖か。俺の背にはしっかりとーー
却逆の翼が降臨していた。




