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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第一章「脚本書きのプロローグ」
23/91

此れが、彼らのプロローグ


(オイ、起きろ...柊人...)


「う...う...ん...?」


 俺は自分を呼ぶ声に目を覚ました。


 俺が寝ているのは慣れ親しんだ自分の家の固いマットレスではなく、近所の病院の柔らかいベットであった。こんなに睡眠が快適に取れるなら、一生ここに居てもいいかもしれない、なんて怪しい思考をまたたかせつつ、体を起こす。


 体を支配する倦怠感は未だ消えない。しかし、それでも、京子と話をしていた時よりも体が動くようになっている。


 ーーそうだ。俺は今、誰かに呼ばれたのではなかったか。


(オレだ。元気か?)


「つっ、「翼」...!」


(大丈夫そうだな。反動は無し、怪我も無し。うん。良かった良かった)


 反動とは何のことか分からなかったが、とにかく、「翼」が俺の身を案じてくれていたように、俺も「翼」のことは気にかけていた。


「そ...そっちこそ。俺はお前が死んじまったんじゃないかと心配で...」


(まさか、だろ。オレがこんなトコでくたばるかよ)


 そう言って笑う「翼」の様子にホッとしたのか、俺はまた夢の世界に引き込まれそうになる。


 それを慌てて抑えつけると、俺は口を開いた。


「な、なぁ。七道先輩が大丈夫か、お前、知らないか?」


(お前が知らないんだからオレが知るかよ)


 だが、と「翼」は付け加えた。


(別に死んじゃないだろう。死んでたり、Advanceが暴走したままだったら、あそこまでした意味がない)


「あそこまで?」


 少し安堵しつつ、俺は聞いた。


(ーーおっと。それは言っちゃいけないことになってたんだった。まあとにかく、オレたちは頑張ったんだ。その努力は、報われているに違いない)


「そっ...か」


(ま、不遜な裏技の代償で、「却逆の翼」は使えなくなっちまったんだけどな)


「はぁ!?」


 今までのハッピーエンドのようなムードをぶち壊す「翼」に、俺は怒鳴った。ここが病室であることも忘れて。


「どっ、どういうことだよ!」


(そのまんま、だ。オレたちは人生一度きりの裏技を使って、一時的に「却逆の翼」の力を失った。「オレ」という独立意識はあるみたいだが)


 「却逆の翼」が、使えない。


 別にそこまで乱用していたわけでもないし、七道先輩のAdvanceが安定していれば、もう襲われることもないのだ。これから、そうそう使うことはないだろうから、別にさして困ることがあるわけもない。


 困ることがあるわけでもないーー筈なのだ。


 だが、それならば、この胸にわだかまる喪失感と寂寥感は何なのだろう。


(純粋に寂しいんだろ)


「そうなのかな」


 俺は寂しいのか。ある筈のものがこの手にないから。


(少し歩こうぜ。多分、体が鈍ってるだろ)


「そうーーだな」


 俺はベットから這い出ると、散歩でもしようと歩き始めた。


 と言っても、俺の体には倦怠感がわだかまっている。遠くまで行ける筈もない。


 取り敢えず屋上にでも行こうか、と俺は階段に向かって歩き始めた。一歩歩くごとに足が軋んだが、構わず歩き続ける。


「俺ってさ、何日くらい寝てたんだろうな」


(急にどうした?)


「いや、ちょっと気になってさ。俺が起きた時、京子が泣いてたんだ。あの、いつも気丈な京子がさ。もしかしたら、俺、もう何週間も寝ちまってたんじゃないか、って」


 それを最後まで聞き届けた「翼」はくくく、と笑って


(約2日。あれだけの疲労でたったそれだけだ。お前よりも回復が遅い奴はごまんと居る...って、枕元でお前の父親と医師が話してるのを聞いた)


「たった2日、か」


 窓の外はもうすっかり暗くなっていた。今が何時かは分からないが、窓から見る町は眩しいくらいに輝いていて、まるで中学校の崩壊なんて無かったかのようだった。


「ものは言い様、だな。俺がそんなに寝込んだことないぞ」


(ああ。だからだろうな)


 思わせ振りに、「翼」が呟いた。


(あんましあの幼馴染みに心配かけさせんなよな。最初見たときはただ冷たいだけの女かと思ったけどよ、この3日で、どんな奴か、ってのは死ぬほど思い知らされた)


「良い奴だろ?」


(ああ。お前の見舞いに家族以上に熱心だったよ)


 ーーあの京子が、か。


 俺は心に生まれた幸福感にしばらく浸っていたが、屋上が見えてくると、それもやめた。


 屋上には心地の良い夜風が絶え間なく吹いてきており、俺は寒気を抑えるのに苦労したが、やがて慣れてきたので、屋上端のフェンスに手をかけ、学校の方へと視線を向けた。


「ーーボロボロ、だな。大分復旧してるみたいだけど」


(いやいや、あの崩壊率であの復旧度は異常だろ)


 確かに、と俺は返した。学校の修復ペースは異常だ。2日、学校を見ていないと言っても、完全に倒壊していた校舎を除く校舎が全て、完全に修復されているのはどう考えてもおかしい。逆に、どうして始めて見た時に気付けなかったのか疑問である。


(しかし、いい町だな)


「そうか? 以外と住みづらいぞ?」


(そうじゃない。いい風が吹くってことだ)


 急に詩的なことを言い出した「翼」に微笑しつつ、「似合わねー」 なんて返してみる。


(オイオイ)


「ーー俺は、さ。却逆できたのかな」


 今度は俺が詩的なことを言う番だった。


(ーー分からない。今は確かめようがないからな)


 だが、と、「翼」は言う。


(でもな。1つだけ言えることがあるぜ)


 詠うように、澄んだ声で。


(彼の脚本が、プロローグからバットエンドでたまるか、ってことだ。まだまだこれからなんだよ。彼も、お前も、ーーそして、オレも)


「そう、だな...」


 俺はネオンに包まれた町を見据えた。


 あそこには、プロローグを終えた大人達が大量に蔓延っている。


 いや、蔓延っている、という言い方は不遜だろう。


 進んでいる、のだ。自分の道を。それぞれのプロローグから展開された、自分だけの(ストーリー)の上を。


 俺は自分の道を進んだ。自分と、「翼」で相談し合い、悩み、葛藤の末に導き出したルートこそが、今回の結末なのだ。


「なあ、「翼」よ」


(何だ?)


「俺たち、もう「翼」とか呼ぶような、そんな他人行儀な仲じゃないよな」


(オレは最初からそうだと思ってたけどな。Advanceとして生まれ落ちたその瞬間から)


「翼、って呼んでいいか?」


(変わってねーじゃねーか!)


「ーー気分だよ。気分」


 ーーこれが、俺のAdvance。


 却逆(Prologue)(To)(Destiny)だ。

 一章、完結しました。

 ここまで来れたことに、少し大袈裟ですが、感嘆しております。

 僕は昔から飽き性で、ロクにゲームすらクリアしたことがないような、そんな若者なのでした。そんな自分が、良く一章を書ききれたなぁ、と。心の底から思っているのです。

 二章も頑張ります。できれば、更新ペースを上げて!

(最終回っぽいあとがきになってしまった...)

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