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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第一章「脚本書きのプロローグ」
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脚本書き七道睦月ーーWriting For Himーー


 俺は声高らかにそう宣言すると、前方に向かって駆け出した。


 さっきの糾弾で、俺の力が強くなったわけでもない。傷が再生し切っているわけでもない。


 だが、そんなものは関係ない。無謀だろうが何だろうが、俺は七道先輩の歪んだ運命(プロローグ)を却逆する。


 残りの距離は20メートルほど。七道先輩がさっきから瞑目しているので、少しの時間新しい弾の追加は来ないようだが、これで終わりではないだろう。


 俺の予想通り、残りの距離が15メートルを切ったところで、上から硝子が降ってきた。倒壊していない、少しヒビの入った校舎からである。どうやら「物質操作」でガラスを割り、重力でこちらへと落としているようだ。


 割れた硝子は俺の進行方向、退路全てを捉えていた。


(一旦サイドに逃げろ!)


 「翼」が叫ぶ。


 しかし、それはできなかった。


 なんということか。硝子が来ている上空を避けるように、右手のプールから、腐りかけの水が大量に流れ込んできた。


 ーーまずい。この状況、完全に「詰み」だ。


 これで、俺が逃げられるのは左方向のみとなったが、左に逃げてもプールの水で殺される。かといって動かなければ硝子が脳に突き刺さって死亡、だ。


 勝てない。


 勝てない。


 勝てない。俺は、七道先輩の脚本をぶち壊すんじゃないのか。バットエンドを、崩壊させるんじゃないのか。


 ーー運命を、却逆するんじゃ、ないのか!


 最後の言葉を言ったのは、「翼」だった。


(却逆の翼保持者よ。たとえ何を失っても、この運命を却逆するという、その覚悟はあるか)


 刹那。全ての時が止まったような気がした。これは恐らく、脳細胞が超活性化され、刹那が何十秒にも感じるという、あれだろう。「却逆の翼」の性能かどうかまでは分からないが。


「ああ、ある。七道先輩は、絶対に助ける!」


 俺は叫んだ。何秒か前の糾弾と全く変わらない思いを携えて。


(ありがとう。お前の元に飛んでこれたこと、最高に誇らしいぜ)


 ーー「翼」は、わずかばかりの郷愁が満ちた、力強くも悲しい声でそう言うと。


(外却色の刹那(アウター・ノヴァ))


 「それ」を、詠唱した。


 刹那、世界が揺れーー


 俺が、かき消えた。俺が居た座標から俺という存在はかき消え、プールの水は見当違いの位置に炸裂し、硝子は地面に刺さって止まり。


 俺は、七道先輩の鼻先3センチまで移動していた。


 俺はその刹那、直感で理解した。これは瞬間移動の類いでも、幻術の類いでもない、単純な力だと。


 速度を引き上げる力なのだ。俺はガラスの落下速度とプールの進行速度的に、七道先輩に突っ込むことが不可能だった。その理由は、これまた単純に、「速度が足りなかったから」だ。


 ならば。


 速度さえあれば、最強の安全圏、七道先輩の所まで行ける。


 俺はその人智を越えた速度を、地面に足を突き刺すことで無理矢理に抑えると、僅かに残った速度と、回復していた右手の力で、七道先輩の整った顔を掴み、押し倒した。


 七道先輩を倒す刹那、俺は耳元で囁く。


「その想い、確かめてみたらどうですか? 大丈夫。上手くいきますよ。近森先輩、あなたのことを話すとき、目が輝いていますもん」


 俺はそれだけ言い切ると、七道先輩の後頭部を地面に叩きつけた。勿論、死なない程度の力で、気絶するほどの威力で。


 俺はそれを見届けると。


 ーーゆっくりと、まるでいまわの際のように、倒れ込んだ。



 目を開けた時、そこはベットの上だった。知らない天井である。


「こ、ここはーー?」


 取り敢えず、俺は声に出して言ってみた。何やら体に倦怠感があったり、体の色々なところがくすぐったかったが、それは尻目に。


「びょ、病院よ」


 ふと、真横に居た誰かが、驚いたような声色でそう言った。


 この声は、確かめるまでもない。


「なんだ...京子、か...」


「何だ、じゃないでしょ! こんな無茶してっ...!」


 ふと、俺は京子の声が濡れているような響きを帯びていることに気付いた。


「なんだよ、泣いてんのか...? らしくねー...な」


「なっ、泣いてなんかないわよ! その位置からじゃ見えないでしょ!」


 確かに、俺は倦怠感で首を動かすのも辛い。眠気には強いタイプなのだが。


「俺は、どうして、病院...に?」


「ーー医者の先生は、極度の疲労だって言ってた。体はどこも傷ついていないけど」


 成る程。ーーそう言えば、前に何かの本で読んだことがあった。傷の治癒には体力を使う、と。俺は七道先輩との戦いで、大きな怪我を何度も治癒させた。それが疲労の元だろう。


 ん? 待てよ。今、京子は、何で「傷ついてない」って言ったんだ?


 まるで、自分が確認したかのように...


 ーーとそこでふと、俺は唐突に思い出した。


 そうだ、「翼」は。


 「翼」はどうしたのだろう。


 戦いの最後で、「翼」は全てが静止した世界で俺に仰々しい問いかけをし、そしてーー


 そこから先は思い出せない。思い出せるのは、最後に七道先輩に言った言葉と、気絶の瞬間のみだ。


 どれだけ思い出そうとしても、俺の頭には胸が締め付けられるような喪失感がわだかまるだけで、何か光景が浮かび上がるなどということはなかった。


「そうだ...学校、は。学校は、大丈夫なのかーー?」


 ふと。「翼」の思考を止めた瞬間に湧いてきた疑問を、俺は京子にぶつけてみた。


「大丈夫...とは言えないわ。校舎の殆どが倒壊してるし、プールの水はひっくり返るわで、もう大混乱よ。復旧の目処が立たないから、臨時休校っていう措置を取っているわ。今のところ」


 京子は事細かに説明してくれた。


 そうか。学校は休校か。そんなリアクションを返そうとした瞬間、俺は糸が切れたように、ベットに倒れ込み、夢の世界へと旅だった。


 少年は、運命を却逆できたのかーー?


 終わりました。

 うん、終わりました。

 終わったぁぁぁぁぁぁあぁぁ!

 今の僕のテンションこんな感じです。取り敢えず、これからエピローグ書いて、「一章は」完結となります。

 アドバンスーAdvanceーは、まだ終わりませんよ!

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