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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第一章「脚本書きのプロローグ」
18/91

脚本書き2ーーThe Rewriterーー

 今回は書いてて楽しかったです(いつもわりと楽しんで書いてるけど)

 お楽しみ下さい!


 10月31日。日本ではハロウィンだなんだと騒ぎ立てる木曜日に、俺はいつものアラームで目を覚ました。


 寝ぼけ眼を擦りつつ体を起こし、ドアを開け放って下の階へと降りる。取り敢えず顔でも洗うか。そんなことを考えつつ、洗面所のドアを開けた瞬間だった。


 目の前から、妹の右ストレートが飛んできた。慌ててそれを回避すると、妹へと向き直る。


(オイオイオイ! 「操作」されているじゃねーか!)


 見ると、妹の目は虚ろだった。間違いなく操作されている。俺は却逆の翼をいつでも展開できるように臨戦態勢を取ると、真由を注視した。


 ーーとその瞬間、妹は急に平和な顔を作り、「おはよー」 と短く声をかけてリビングへと向かった。


「は、はぁ?」


 俺はしばらく呆然としていた。今、「相手」が急に操作を解いたことが信じられないのだ。いつもなら、このまま俺を仕留めるまで止まらない筈なのに。


(こりゃ、どういうことだ...?)


 「翼」が唸る。


 しかし、答えは出なかった。少なくとも、この時点では。


 ーーーー


 登校途中。俺は何ということか。突然豹変した通行人4人に襲われた。


 しかも、その襲撃者は全員、一発こちらに打ち込むと、当たっていようが当たっていまいが、何事もなかったかのように歩き出す。


 ーーこれは、どういうことだろうか。


(今朝から、「操作」の能力者に襲われているな。こりゃ、早いとこ真相を解明しないとマズいかもしれない)


 「翼」が少し神妙な声色でそう呟くと同時に、俺はすれ違った小学生に回し蹴りを食らわされそうになった。慌ててバックステップし、回避したので大事には至らなかったが、これを食らっていたら怪我していただろう。


 危ねーよ! そう糾弾しようとした瞬間、小学生は平和な顔を作り、向こうに見えたのであろう友だちに向かって声をかけつつ走っていく。


 これでは、ストレスを発散できない。精神的に消耗させられるのは予想以上に堪える。


「確かに、そうだな。こりゃもしかすると、今日中に精神崩壊するコースかも...なッ!」


 俺は今日7人目となる襲撃者ーー今度の攻撃はランニングしていた近所のオジサンの左ストレートだったーーを迎撃すると、学校に向かって歩き始めた。


(さて。柊人。実はオレ、操作能力者を見つける方法知ってるんだ)


 歩き始めて20秒くらいした頃。ふと、「翼」がそう言った。


「ほ、ホントか?」


(ああ、マジにマジ。大真面目だぜ)


 そう冗談めかして言うと、「翼」は説明を始めた。


(今日はやけに「操作」量が多い。で、能力使用ってのは思っているより集中力が必要なんだ。特に、人体を操るタイプの能力はな)


 確かに俺も、「却逆の翼」の操作をする時は、例えただ3枚羽を射出する時でも精神を集中させる。その感覚では、「操作」によって起こる負荷など想像もできない。人間を完全に操作するということは、人間が「立つ」行為すらも、「操作」しなければいけないのだろうから、それは大変だろう。俺だったら、戦闘どころか、普通に歩かせることすら不可能かもしれない。


(だから、今日、集中を異常に欠いている奴。それが元凶だ)


 その説明に俺は納得した。筋も通っているし、理にかなっている。元凶探しが大分最適化されるだろう。


「しかし、うちの生徒は大量に居る。その中から探し出すのか...?」


(た、確かにな。そこは考慮してなかった。でも、これだけ大層なこと仕掛けてきてるんだ。接触があってもおかしくはない)


 結局運任せと変わらねーじゃねーか! なんて胸中で言っていると、校門が見えてきた。学校では襲撃されないといいなぁ、なんて考えつつ、俺は校門をくぐる。


 教室に着いた時、時計の針は8時15分を指していた。遅刻ラインよりも遥かに早い時間だ。教室には俺含め3人しか同級生は居なかった。


 さて、本でも読むかな、なんて思いつつ俺はリュックから本を取り出した。ーーとその瞬間、筆箱から無数のシャーペンの芯が飛び出してきた。


 これは念動力(テレキネシス)のような力か。なんて俯瞰した思考が一瞬浮かんだが、直ぐに打ち消される。シャーペンの芯は最近補充したのだ。大量にある。それに、あれに刺されるとかなり痛い。実際、かなり痛い状況である。


 しかもここは教室。多くはないが人も居る。能力は使えない。


 俺は一先ず教室を出た。シャーペンは尚も追随してくるので、もう全力で廊下を駆け抜けるしかない。廊下に奇妙な光景を作っているのも知らず、俺は走り続けた。


 走って、走って。俺はトイレに駆け込んだ。トイレは完全な密閉空間で、言わば袋小路。逃げ道はもうどこにもない。


 せめて身は守ろうと、俺は個室へと駆け込んだ。駆け込み、素早く扉を閉めてカギをかける。


 扉を凝視し、来るであろう衝撃に備えーー


 しかし、衝撃はいつまで経っても来なかった。個室のドアにできてしまっている隙間から外を覗いてみると、そこでは、今まで俺を襲っていたシャーペンの芯が飛散していた。地面に落ち、数本が折れてしまってるので、シャーペンの芯はもう使い物にならない。


 それを苦虫を噛み潰したような気分で見据えると、俺はこめかみを押さえて瞑目した。これが一日中続けば、本当に、精神に異常を来してしまいそうだ。


(さて。ここで問題です。物質を動かす能力者が能力発動の際に必要とするものは何でしょうか?)


 ふと。「翼」がおどけた調子で言った。「対象に触れること、とか?」 と無難に答えると、「翼」は(不正解!) と返した。


(正解は、「操作している物質の現状」だ! つまり何が言いたいか、分かるな?)


 俺はその言葉に少し悩んでいたが、やがて閃いた。


「「目」があるんだな!」


(正解!)


 そう。相手には、こちらを見るための「目」があるのだ。


 トイレの中には「目」がないから、俺を照準することができなかったわけだ。いや、もしかしたら、個室の中だけに「目」をしかけていないのかもしれない。


 俺はトイレをくまなく探した。「翼」の推察が当たっていれば、このトイレのどこかに「目」がある。


 3分後。俺は、換気扇の手前に、奇妙なものを発見した。カエルのような造形をした、妙に生物らしい光沢を放つ人形である。


 それは、京子が破壊した盗聴機にとてもよく似ていてーー


 俺はそれを、「却逆の翼」で破壊した。


(能力による敵の察知。決まりだな。敵は「目」を持っている)


 「目」が無ければ、この物質操作能力は発動できない。その事実は俺の心を僅かばかり軽くした。


「ーーでも、相手が本腰入れてこっちを攻撃してる、ってことは、つまり、学校中に、いや、下手したら、町中に「目」があるってことにならないか? ーーそうだとしたら、破壊には骨が折れそうだな...」


 俺が忌々しげに呟くと同時に、トイレに誰かが入ってきた。


 見ると、それは永戸だった。怪訝な表情を浮かべて、こちらを見据えている。


「独り言、気持ち悪いですよ?」


「なっ...」


 唐突に言われた言葉に少々ヘコみつつ、俺は永戸を見た。


 永戸のAdvanceが、敵の能力を察知できるものだったらどれだけ楽か...そう呟きかけた時、俺はふと、考え付いた。


 永戸の能力は「湾曲」である。ーーということは、つまり。


「永戸」


 俺は真面目な顔を作って言った。


「はい?」


「力を貸してほしい。俺にはその能力が必要だ」


 次回から動き出します。この物語。

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