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アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第一章「脚本書きのプロローグ」
10/91

真実ーーThe Reallyーー

 遅くなってすいません


「ーーというわけだ」


 10月29日、午後6時30分ほど。俺は全てを語り終えた槍使い(茜 雄徒)を眼前にして、言葉を失っていた。


 彼は長い時間、俺を襲った理由について語っていた。


 いわく。友人である相山が、何者かに鋭利な刃物で裂かれたのだとか。


 いわく。相山の能力的に、暴漢やただの不良にやられることはない。つまり、彼は能力者能力(Advance)使いにやられたことになるとか。


 いわく。それについて、匿名で、俺の仕業だと告発した人物が居るとか。


「分かってくれたか?」


「あ...ああ」


 どうにかそれだけ言葉を引き出すと、俺は暗くなった空を見上げた。


(お前をはめようとした人物が居る...ねぇ。こりゃ、人間操作の能力者説は濃厚だ)


 そうかもな、と肯定してから、俺はそろそろ帰らなきゃまずいな、なんて心の中で考えていた。


「じゃ、俺はそろそろ帰らなきゃなんで。そいつに出会ったらぶちのめしておきますので」


「ありがとう。頼んだ」


 短く言葉を交わすと、俺は帰路についた。早く帰るつもりだったのに、すっかり遅くなってしまったな、なんて思考しつつ、角を曲がる。


(ーーううむ。なあ。オレさ、ずっと考えてたことがあるんだが)


「何だ?」


 どうせ人は居ないだろうと思い、俺は思考発音を止めて通常の声で「翼」に反応した。


(お前、もしかして近森とかいう女の件で、人間操作の能力者に恨まれてるんじゃないか?)


「ーーあるかもな。というか、その件、もしかして、茜さんの言ってた襲撃者と関係してるんじゃ?」


(あるかもな)


「あるかもながゲシュタルト崩壊しそうだな。ーーでも、却逆の翼狙いかもしれないぞ。お前はひけらかしてないって言ってくれたけど、今日に至るまで俺は乱用してるし」


 そう言いつつ、俺は不意に前を向いた。そして、気付く。


「あ、あんた、今、却逆の翼...って?」


 近く。それこそ、1メートルほどの間合いまで、京子が近づいていたことに。


(やべぇな)


「き、聞き間違いだろ? 何だよ却逆の翼って? ゲームのアイテムか?」


 俺は超高速でいやに饒舌に弁明した。


「とぼけないで。聞き間違いの筈ないでしょ? まさか、あんた。歴史書を読んだの?」


 しかし、誤魔化しきれない。


(ーー歴史書ってのは、過去の能力事件や主要な能力について記したと言われる本だ。確実に能力が発言するようになったのは3年前からだが、それ以前にも能力者は居た、ってことだ)


 「翼」の情報補足が入るが、その情報だけではこの状況は覆せない。


 やはり、明かすしかないのだろうか。


 京子は能力者(あっち)側の人間だ。彼女の性格からして、嫉妬で俺を殺すことはないだろうが、「翼」がレア性以外に何か特別な力を内包しているのは確かだ。人間を狂わせる、「何か」が。


 「翼」は俺に能力を語るとき、声色を変えて言った。「この翼の情報を自分から語るのは絶対に避けた方がいい」 と。


 明かしてはいけない。悟られても、いけない。


「あ、ああ。読んだよ。それがどうしたんだ?」


 それを言った瞬間だった。


 轟! という効果音が似合いそうな迫力と速度で、彼女の手が閃き、俺の顔から3センチ先に刀の鋒が向けられた。


「どこで手に入れたの?」


 声色が、変わっている。


 その代わりようは異常だった。純粋な子どもがスパイ映画の黒幕に成り代わったような光景に、俺は思わず身震いすらしたのだ。


「ーー手に入れた...? 俺は手に入れてはない。俺が読んだのは写本だ。絡んできた不良のポケットから落ちたんで少し拝見させてもらったんだよ」


 しかし、俺は平常を装うことができた。嘘で事実を書き換えることができた。


 一瞬でこれだけの嘘を吐いたのは初めてだった。「翼」も感嘆の叫びをあげている。


「写本...。それで、その写本と不良は」


「気味悪いな、と思ってそれを不良のポケットに返して帰ってそれっきりだ。不良の顔はいちいち覚えやしないし名前は名乗らなかったから分からない。名乗ったとしても覚えないだろうけど」


 そこまで饒舌に言い切ると、俺は思考を飛ばし始めた。ここから先の展開次第で、「翼」の力をあおがなければならなくなるかもしれない。そのための準備だ。


「そう...。一瞬アンタが「翼」の本体かと思ったけど、ただの杞憂だったわ」


 杞憂。彼女は確かにそう言った。俺の耳がおかしくなければ。彼女が言い間違えてなければ。


 ()()()()()()()()()()()()()ーー。


 そのショックと恐怖が顔に出なかったのは奇跡と言ってもいい。俺の心は、それほどまで深いショックを受けていた。


 それは変わり果てていた幼馴染みへ向けられたものであり、無知である自分へ向けられたものでもあった。


「本体って何だよ。俺はしがない能力(Advance)使いだぞ? そんな大それた力、持つだけで気が狂いそうになるだろうよ」


 俺は何とか空気を浄化しようと、その発言を投下した。


 しかし、その発言はピンの抜けた手榴弾に等しかった。手榴弾(ばくだんはつげん)は爆発する。


「しがない能力って何よ? 見せてみなさいよ?」


「え...!?」


(あっちゃー、失言! ってコミカルな感じにはならねぇかもなぁ。お前、マジに死ぬぞ)


 それは彼女が何か目的を持っていたら、の話だろ、と言い返しつつ、俺は考えた。何か彼女を騙せる能力...能力...


 しかし、思い付かなかった。もう話すしか(オイ! バカ、やめろ!)な(それは)い(いい判断とは言えない!)


 俺は(無理矢理でも)その言(言い訳)葉を(しろォ!)紡いだ。


「ーーはな、すよ。お前に、話す。でもな。俺は好き好んでこの力を手に入れたわけじゃないんだ。そこは分かってくれ」


「何よ。急に神妙な顔して?」


 俺は(クソ!)覚悟を決め、口を開いた。


「俺の能力は「却逆の翼」全Advanceの中でも最上級の能力で、その力は顕現させた羽一つ一つが自由に大空を羽ばたけるということだ」


「ーーーーー!」


 それを聞いた瞬間、京子の目は見開かれた。その顔はやはりというべきか、驚愕で彩られている。


「冗談、じゃあないぞ。俺は本気だ。そして、今の言葉は真実だ」


 それを聞くと、京子は何も言わず、刀を振り上げた。上段に構え、俺の体に据えられたそれは、両手で構えられている。


 その刀は、月明かりを受けて輝いていてーーー


 一瞬。その刹那。世界の時間が、止まった気がした。


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