表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アドバンスーAdvanceー  作者: Star Seed
第一章「脚本書きのプロローグ」
1/91

「却逆ーーProlog To Destinyーー」

 この物語は、まだ成長しきっていない、中学生が奮闘するお話です。未来のことなどに不安を抱きながらも、あらゆる苦難を乗り越えて少年少女達が進んでいく。そんなお話です。

 最大限の注意をはらって執筆、推敲などしていますが、それでも、誤字、脱字が生じることが御座います。その時には、報せていただけると幸いです。


 その日は、妙なくらい寝苦しい夜だった。背中から業火を思わせる痛みが絶えず迸り、痛みに負けそうで、俺は意識を夢の世界へ飛ばすことすらできずに悶えた。


 そんな状態が2時間は続いた頃だろうか。ふと、激しかった痛みが嘘のように止まった。


 驚いて飛び起きると、丁度時刻が0時で、日付が変わったところであることを確認。今から寝たとしても、寝不足に陥ることに代わりはない。


(そうそう。今日は誕生日だったな)


 ふと、俺はそれを思い出した。今日で俺も13歳になる、ということを。10歳の時は二分の一成人式だとかで大騒ぎしたけど、13歳、というのはいまいちパッとしない歳だ。


 俺はそんなことを考えつつ、仰向けに寝転がろうとしてーー


 「何か」がベットに刺さり、体がそれ以上沈まなくなったのを感じて急いで起き上がった。


 「何か」は俺の背中に張り付いているらしく、それは俺のベットのシーツを、あろうことか破ったようだ。


 俺は背中の「何か」を見ようと、それに触れた。


「痛つっ!」


 そして、俺は「何か」で手を切った。掌に、さっきまで味わっていた業火のごとき痛みを味わい、思わず小さく喘ぐ。


「な、なんだ……?」


 呟き、俺は机の上に起きっぱなしにしてあったスマートフォンを手に取り、内向きカメラを起動。カメラで背中を照らした。


(さて、何が写る?)


 俺は画面へ視線をやり、画面に写っているものを認識し、


「はぁ!?」


 夜中だというのに、すっとんきょうな叫び声をあげてしまった。


(冗談じゃない! なんなんだ……なんなんだよ、これは!)


 ーーもはや俺の眠気は、完全に吹っ飛んでいた。


 俺の背中には、翼があった。信じられないかもしれないがーー実際、俺も信じられないが、そこには黒銀に煌めく、(からす)のような滑らかな翼があった。


 それも、右背の肩甲骨のみに。翼というのは大抵、二対一体ではないのか。


(いやいや。二対一体とか何考えてんだ俺。まず翼があること自体おかしいだろ)


(ああ、そうだな)


 俺はそう思考し、自己肯定をーーー


(あれ?)


 俺、今、自己肯定なんかしたか?


(自己肯定じゃないな、これは俺の思考なんだから)


 今度のそれは思考ではなくーーはっきりした、「声」だった。少年のような、中年の男のような、あるいは、老人のような声だ。その年齢は定かではない。声の方向は分からなかった。まるで脳内に直接声を送り込まれたような感覚が、そこにはあった。


「だ、誰だ」


 何とか心を落ち着けているふうを装ってそう言うと、また、声が聞こえた。


(お、今、混乱してるな。大丈夫かい? 今、深夜だぜ?)


 心を読まれてる。


 俺は完全に混乱していた。疲弊していると言ったほうが正しいくらいに消耗していた。この「声」の主は、それを的確に読み当てたのだ。


「ーーだから、誰だ?」


 俺は訝しむような調子で、声の主に問いかける。


(名前はない。強いて言うなら、神無月(かんなづき) 柊人(しゅうと)だな。多分そうなるな)


 神無月 柊人。何の躊躇いもなく発音されたその名前は、間違いなく、一文字の狂いもなく、俺自身の名前であった。


「そうかい。あんたは言わば俺の偽物ってわけだ」


 俺は挑発するようにそう言った。


(冗談だよ。偽物じゃねー。オレはお前であり、その翼であり、そしてオレという独立意識でもある)


 そこまで声が聞こえたところで、相手は一旦声を切り、続けた。


(名前を、「却逆の翼」という)


「却逆の翼ーー?」


 イマイチこの声の主のことは分からないが、事の中心は見えてきた。どうやら、この翼には名称が設定されているらしい。それが、却逆の翼、という仰々しい名前で、声の主は、その翼に取り付いていた独立意識というわけだ。


(何もかも訳がわからないが……これはどうやら現実なんだな)


 俺のその思考に共鳴するように、「相手」は声を出した。


(理解が早いな。そう。俺は翼だ)


 翼。確かに、彼はそう言った。つまり、これは俺の体に生えた器官の1つというわけだ。


 だったら、自分の意思で動かせるのではないか。そう思考した瞬間、見えない何かに圧されるように、背中の翼の感覚が発生した。


 俺は翼が生えている肩甲骨の辺りを動かそうとし、そしてーー。


 翼を三枚ほど地面に落としてしまった。


「あ、あれ?」


 もしかしてイメージ力が足りなかったのか、そう思ってもう一度チャレンジすると、今度は一気に10枚ほど落ちた。


(お、初めてにしちゃ、なかなかどうして上手いじゃねーか)


「う、上手いってどういうことだよ? 俺は翼を動かせなかったんだぞ?」


 そう返した瞬間、地面に刺さっていた筈の翼が舞い上がり、俺の肩辺りまで浮上してホバリングしたのに驚愕しつつ、返答を待った。


(この翼は、飛ぶためのものじゃないんだ。今やったように、分解した翼をナイフのように飛ばす力。それこそが、却逆の翼っていう、1つのAdvance(アドバンス)、つまり、特殊能力ってやつなんだ)


Advance(アドバンス)ーー?」


 確か英語で、「進む」という意味を持っていた筈だ。それが、この翼もどきのような異能力の総称だろうか。


(そういうことだ。ああ、そうそう。お前、狙われてるぞ)


「えーーー?」


 俺が無意識のうちに声を漏らすのとほぼ同時に、ドアから妹が入ってきた。まだ起きてたのか。うるさくしてゴメン。色々かける言葉はあった筈だ。しかし、声が出ない。


 ーー妹の様子がおかしい。目が虚ろなうえに、バランスが取れていないのかフラフラしている。


(あれは敵だ、警戒しろよッ!)


 刹那、脳の中で声が閃くと同時に、妹は俺に飛びかかってきた。だが、俺は不思議と親近感を覚える「声」のお陰で、反応できた。


 サイドステップで妹をかわすと、背後に回り込み、手刀を構えて首筋への攻撃を試みた。


 勿論、そんなことで相手の神経が麻痺するとは思っていない。錯乱状態にある妹を落ち着かせるための、気付け薬のようなものだ。


 だが、そんな行動に対しても、声のアシストが入った。


(ーー神経麻痺の角度はオレが補正する。叩き込めッ!)


 それに導かれるようにして、俺は手刀を振り上げ、声がアシストしてくれている通りに叩き込んだ。


 それで、まるで魔法のように妹は地面に倒れ込んだ。今の手刀で神経伝達が一時的に阻害され、気絶したらしい。それを慌てて抱き抱えると、ホッ、と安堵の息を漏らす。


 しかし、「声」の緊張は解けていなかった。


(恐らく、敵は近くに居るぞ)


 その一言で、俺は妹を取り敢えず俺のベットに寝かせ、窓の外に目をやることにした。


 窓の外には、やはり、というべきか。挙動不審な中学生くらいの男が立っていた。見るに、今から逃げようとしている。


(逃がすなよ。翼は装着者を羽ばたかせるんじゃなく、羽根の一枚一枚を羽ばたかせるシステムだ)


 「声」はそう簡潔に言い切った。その言葉の中には、俺への期待が内包されている。


 その期待に、答えるようにーー


 俺は背中の翼を一気に10枚解体し、窓を開け放って、それを窓の外に飛ばした。照準は、あの男の進行方向。


 次の瞬間、翼はまるで獲物を狩るチーターのごとき速度で彼の前方に突き刺さった。続いて、2弾を奴の腕を掠める起動で打ち込む。わずかに腕が切れたのを二階から確認すると、俺は一階に駆け下りてそいつを捕まえようとした。


 しかし、それが実現するよりも早く、信じがたい現象が起きた。路上の奴が、突然、糸が切れたように倒れ込んだのだ。


 どういうことだろうか。まさか、腕を切られたショックで失神ーー?


(奴も操り人形だ。つまり、今ので、オレとお前の能力を探ろうとしたわけだ)


 またも俺の思考に、「声」が割り込む。


「探ろうとした……? どういうことだ」


(能力者は一人じゃない。お前以外にもAdvanceが使える人間は存在しているんだ。そして、今のは、そういう中の一人からの襲撃だったってことだよ)


 襲撃。Advance使いからの、襲撃ーー。


 もう頭がついていけなかった。目の前で起きていること、起ころうとしていることが、紛れもない現実なのだと、理解はできても納得できなかった。


(さて。じゃ、これからよろしくな、柊人)


 混乱している俺をよそに、声の主はそう言った。


 ーーこの日。確かに、俺の運命は始まった。


 それはとても短いようで長く、鮮烈で、熾烈なーー戦いと別れの記録。


 やっぱり、一話からヒロインが出ないのは致命的でしょうかね...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ