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【閑話】見たかった彼ら

 今日、私はハルマ君とリオンに内緒で、ラングロン君のいる屋敷へと訪れていた。

 いつもなら出合い頭にあいさつ代わりの悪態をつくはずが、今日ばかりは違う。

 執事のジェス君が注ぐ紅茶の音が嫌に響く客間の中で、私は深刻な表情を浮かべる。

「ラングロン君、これは由々しき事態だ」

「癪だが、同意見だ」

「「私(俺)もフォレストホーンを見たかった……!!」」

「はぁ……」

 小さくジェス君のため息が聞こえてきたような気がするが、気のせいだろう。

 昨日、家に帰ってきたハルマ君たちから聞いた話に、私は度肝を抜かれた。

「滅多に人の前に姿を現さないフォレストホーンがすぐ背後にいたとか……前代未聞だよ。どうして私はその場にいなかったのだろうか」

「しかも、鳴き声まで聞いたらしい。ここ数十年、フォレストホーンの声を間近で聞いたものはいなかったはずだ」

 元より、フォレストホーンはあまり人間の前に姿を現さない存在だ。

 偶然その姿を見かけたという話はよくあるのだが、自ら人前に出てくることなど滅多にない。

「おいジジィ、実際どうなんだ? フォレストホーンがハルマの前に現れたのには、何か理由があるのか?」

「ジジィは余計だよ。考えられる理由としては、フォレストホーンはかつてアメヤサイを食していたか、もしくは単純に偶然そこを通りかかっただけと考えられるね」

「偶然通りかかる? あるのか、そんなこと」

「リオンも森の中で一度遭遇しているからね。あそこがフォレストホーンの通り道だと考えれば、可能性としては、ありえると思うよ」

 しかし、それもあくまで可能性の話だ。

 フォレストホーンには決まった移動ルートがあるという説がある。

 それを信じて捕獲を試みようとしたものも多くいたが、その全てが失敗に終わっているらしいので、眉唾ものだ。

「結局は分からないままだよ。私としては、ハルマ君の作ったアメヤサイに引き寄せられたという考えが有力だと思っているよ」

「……かもしれんな。しかし、そもそもフォレストホーンとはなんだ? 魔物なのか?」

「それは未だ分かっていない。今のところ分かっているのは、あれは一族一種、唯一無二の存在で、我々が想像もできないほどに長く生きているということだ」

 生物にも始まりがあって終わりがあるが、フォレストホーンにはそれがない。

 何百年、何千年もの間、全く姿を変えることなく大地を駆ける規格外の存在。

 それは“魔物”と呼ぶよりも“現象”と表現した方が的確だろう。

「大賢者のお前でも理解が及ばない存在ということか」

「私としては、魔物ではなく別の呼び方を考えるべきだと思っているがね。実際、フォレストホーンの他に魔物と定義していいか分からない存在は何体かいるわけだし」

「確かにな」

 大地を駆ける新緑の大鹿、フォレストホーン。

 大海を泳ぐ心優しき大亀。

 雲を引き連れ空を漂う竜。

 この世には、人が触れることの叶わない未知が転がっている。

 アメヤサイもその一つであったが、それはハルマ君の存在により解明された。

「そういえば、ケヴィンには話したのか?」

「ああ。重大なことだからね。一応他言無用と口止めしてから伝えたけれど、予想通り暴走してしまった」

「だろうな。むしろこの話を聞いて、奴が取り乱さないわけがない」

 露骨に嫌な表情を浮かべるラングロン君。

 私も、通信用の魔具に顔を押し付けながら問い詰めてきたケヴィンのことを思い出し苦い顔になる。

 根は悪いやつじゃないんだが、いかんせん研究に対する執念とかその他諸々が厄介すぎるんだよね……。

「間違いなく言えるのは、フォレストホーンがハルマ君の畑にきたことは、とても良いことだということだ。事実、フォレストホーンの立ち寄った土地は例年よりも多くの穀物や野菜を収穫することができたらしいからね」

「フッ、だとしたら農家にとってこれほど嬉しいことはないだろうな」

 柄にもなく意見が合い、笑い合う。

 ジェス君が淹れてくれた紅茶を口に含み、小さくため息をつく。

「私も見たかったなぁ、フォレストホーン……」

「それを言うなよ……」

 そう呟き再び落ち込んだ俺とラングロン君は、ジェス君が止めてくれるまでしばらくの間愚痴を吐き続けるのであった。

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