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 ピザパーティーから数日後。

 俺とミリアは、王国に送るアメヤサイの収穫を行っていた。

「ハルマ、アメスイカの枝に絡みついている蔦が枯れてきているぞ」

「お、それじゃあアメスイカもそろそろ収穫時だな」

 あれからアメスイカもすっかりと大きくなり、ボウリングの玉くらいに成長していた。


 それから二人で黙々と収穫作業をした後に、休憩がてらミリアと雑談を交わす。

「王国に送る分はこのくらいで十分だな」

「結構送るんだな」

「まあ、こっちとしてもできるだけ印象を良くしておきたいしね。俺はともかく、リオンやノア達に迷惑をかけるわけにはいかないから」

 俺にとって、王国からの援助は必須だ。

 ミリアがいてくれるから今は安心できるが、それが打ち切られでもしたら、色々と面倒なことに巻き込まれる可能性もある。

 それを危惧して、できるだけ協力的にアメヤサイを送ろうとしているのだ。

「ハルマ」

「ん?」

「私は恐らく、護衛の任を外されることになるだろう」

 突然のミリアの言葉に、一瞬何を言われているのか分からなくなる。

「ど、どういうことだ?」

「少し前、ここで起こったことを報告書にまとめて隊長に送ったんだ」

「起こったことって……?」

「勿論、私がサニーラビットにしてやられたことも含めてだ」

 どうしてそこまで伝える必要があったんだろう。

 まさか、彼女はもう王国に戻りたかったのだろうか。

 そう尋ねると、彼女はゆっくりと首を横に振った。

「違うんだ。アメヤサイ作りは本当に、本当に楽しかった」

「それじゃ、なんで……」

「だからこそ、私のような中途半端な騎士ではなく、どんな状況でも冷静さを保つことのできる者を護衛に任せるべきだと考えたんだ」

「それは違う!」

 “中途半端な騎士”という言葉を、俺はとっさに否定する。

「君は十分……いや、俺なんかにはもったいないくらい力になってくれた」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、思い返してみれば最初の頃の私は本当に酷かったぞ。子供のような理由でアメヤサイを避けたり、護衛を務めるはずの君を睨みつけたりしたり……。それはもう、礼儀と規律を重んじるべき騎士として最悪なものだった」

「それは言われるまで俺も気付かなかったから、大丈夫だ」

「それはさすがに鈍感すぎるんじゃないか?」

 うぐ、確かに否定できない。

 しかし、それとこれとは話は別だ。

「もう覆せないのか?」

「報告書はもう隊長が目を通しているだろうからな」

「なんで相談してくれなかったんだ……」

「絶対止められると思ったからだよ」

 そう断言したミリアに、俺も無言になる。

 そんな俺に構わず、彼女は続けて言葉を発する。

「私があの特殊なサニーラビットに辛酸を嘗めさせられたと知れば、奴らの恐ろしさに信憑性が増すだろう。そうすれば、私以上に優秀な護衛を派遣してもらうことも可能だ」

「……君は、どうなる?」

「心配するな。隊の中でしばらくからかわれるだけさ」

 それが嘘なのは俺にでも分かる。

 このままでは、彼女の騎士としての人生に消しようのない汚点を残してしまうかもしれない。

 しかし、それを追求する前に俺には彼女に聞かなくてはならないことがある。

「……本音を」

「え?」

「君の本音を聞かせてほしい」

「……」

 俺の言葉に黙り込むミリア。

 十数秒ほどの沈黙の後、吐き出すように彼女は言葉を発した。

「本当は、もっとここで君の護衛をしていたかった。だけど、アメヤサイを食べた瞬間、すぐに理解できたんだ。君は、絶対に失ってはいけない人だと」

「俺を……?」

「アメヤサイに関連する事態が大きく動くことになれば、それだけ君の身に危険が及ぶ可能性も大きくなる。その時になって王国側が十分な対応をしていなかったら、アメヤサイも……君も、失われてしまう。そうさせないために、私は行動に出たんだ」

 アメヤサイ作りに触れ、そして実際に食したミリアだからこそ、俺とアメヤサイがどれだけの価値があるのかを理解できたってことか。

 こんなもん、なんて言葉をかければいいんだよ……。

 何も言えずにいると、ミリアがポケットから封筒を取り出した。

「実はもう、私宛に隊長からの文が返ってきているんだ」

「っ、中は見たのか!?」

「いや、恥ずかしながら一人で見る勇気がなくてな……。開けることができなかった。でも、ハルマと話して決心がついたよ」

 ミリアは丁寧に封筒を開き、二つ折りの便箋を取り出す。

「二十枚分の報告書にきっちり書き込んだから、護衛の解任は免れないだろうな……」

「どんだけ書いてんの……?」

「事細かに伝えたからな。さて、隊長はなんて仰るか……」

 そう呟きながら便箋を開いた瞬間、ピシリとミリアが固まった。

 ん? どうしたんだ?

 顔を青ざめさせて挙動不審になっている彼女を不思議に思い、不躾ながら便箋を覗き込むと、そこには――、


『知らん、君の好きにしろ』


 と、この世界で文字を覚え始めた俺にも分かるくらいの短い一文だけが書いてあった。

 まさかの一行に俺も驚いてしまう。

 二十枚分もの報告書を送ったのに十文字程度で返されるとは、ミリアも思わなかっただろう。

「ハルマ……」

「あ……はい」

「こんな時、どんな顔をすればいいんだろうな……」

 とりあえず、隊長命令でミリアが解任されることはなさそうだ。

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