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 ピザ窯の作り方は、比較的簡素なものであった。

 というより、俺のうろ覚えの知識に窯として成り立つ最低限の要素を足した結果、一辺一メートルほどの正方形型のピザ窯が、俺の家の隣に完成した。

 勿論、作るのは大変だった。

 ミリアと共にレンガと一メートルほどの大きさの石板を運び込み、組み立ての作業に移る。

 レンガを規則正しく積み上げ、そのうえで石板を挟んでいくという簡易的なものだったのだが、ピザ窯という未知の調理器具作りで異様にテンションを上げたミリアのおかげで、作業は猛烈なスピードで進んだ。

 それでも寸法にズレがないように調整しながらだったので、その日はほぼ一日中ピザ窯づくりに没頭していたといってもいい。

 

「なんだか、外で調理するのってワクワクするわね」

「分かる」

 火の入ったピザ窯を見てそう呟いたノアの言葉に、反射的に同意してしまう。

 現在、この場にいるのは俺、リオン、ノア、ミリア、そしてフウロ。

 俺とノアは野菜などのカット、リオンはパン生地作り、そしてミリアが窯の調節とそれぞれ持ち場を決め、ピザ作りに取りかかる。

「しかし、よく石板なんて見つけられたな」

「あれはうちから持ってきたものよ」

「え、そうだったのか?」

「ええ。今ある家を作るときに用意した石畳の余りらしいわ。重いし大きいから処分に困っていたんだけど、ハルマが引き取ってくれてよかったわ」

「なるほど、あの石板は石畳だったか」

 まあ、熱は通すだろうからちゃんとピザ窯としての役割はこなしてくれそうだな。

 基本的にピザ窯は二段構造で、一段目が火をつける場所で、石板を挟んで二段目にピザを入れて焼き上げる。

 空気の逃げ口も作っているから構造的には大丈夫なはずなんだが、不安といえば不安だ。

「ミリアが作るのを手伝ってくれたし、大丈夫か」

「彼女、ものづくりが好きなのかしら」

 ノアの視線が、ピザ窯の前で火を見ているミリアへと向けられる。

 彼女は時折薪を継ぎ足しながら、注意深く窯を見守っている。

「ああ、ノアは知らなかったか。ミリアはものづくりがかなり得意だぞ。ほら、彼女が住んでいる場所、大分改築されているだろ?」

「……あ、本当だ」

 俺が指さした先には、木製のテーブル、椅子、アメキュウリ栽培に用いた網の余りを使って作られたハンモック、そしてさらに大型化したテントなど、最初の頃よりも明らかにグレードアップしている住居があった。

「因みに、今使っているテーブルもミリアが作ってくれた」

「騎士の仕事ってなんだろうって思わされるわね」

 ミリアもノアにだけは言われたくないだろうな。

 俺からしてみれば、どちらも同じくらい立場と特技が合っていないと思うぞ。

 そんなやり取りをしていると、近くのテーブルにいるリオンが声をかけてきた。

「ハルマ、パンの生地の準備ができたよ」

「はいよ。ノア、悪いけどあとはよろしく」

「ええ、任せなさい」

 俺はアメトマトをみじん切りにしたものと薄切りにしたものを別々のボウルにいれて、リオンの下へ持っていく。

 リオンが作業をしていたテーブルの上には、丸いパン生地がいくつも置いてあった。

「リオン、最初に言っておくけど、俺のいた世界のピザを完全再現させることはできないんだ」

「そうなの?」

「ああ。そもそもピザ生地とパン生地は違うものらしいんだよな。強力粉だとか薄力粉だとか、いや、まったく分からないけれど……」

 あまり料理を嗜まないから、そこらへんは本当にいい加減だ。

「じゃあ、できないの?」

「いや、完全再現は無理でもそれっぽいものはできるから安心してくれ」

 しいて言えば“パン生地風ピザ”だろうか。

 とにかく、できないことはないので早速パン生地を形にしていこう。

 俺はこの日のために作っておいた麺棒を取り出し、生地を少し厚みを帯びた円形へと伸ばしていく。

「じゃあ、盛り付けをしよう」

「うん。チーズも削っておいたし、ハムもあるよ」

「よし。まずはみじん切りにしたアメトマトを最初に乗せてくれ。できるだけ多めにね」

「分かった」

 どこかウキウキとした様子のリオンが、みじん切りにしたアメトマトを木製のスプーンで生地の上に乗せていく。

 こういうのは、少し乗せすぎなくらいがちょうどいいんだよね。

 焼いている間に水分が飛んでいくし。

「じゃあ次は、ハムを均等に並べて、その後に薄く切ったアメトマトをハムと同じように並べるんだ」

「もう美味しそう」

「いや、まだ焼いてないから駄目だからね?」

 軽くツッコミつつ、リオンの調理を見守っていく。

 俺が極力手を出さないのは、リオンが自分で考えながら作ったほうがいいから……というのは冗談で、俺はこういう丁寧な作業になると途中で雑になっちゃうだろうから、彼女に任せたという情けない理由からきている。

「できたよ」

「じゃあ、最後にチーズを乗せれば、下準備は終わりだな」

「もう食べられる?」

「俺達はいったい何のためにピザ窯を用意したのかな?」

「…………ん、冗談」

 なんだろう、今の沈黙。

 ボケか天然か分からないリオンの言葉に首を傾げつつ、ミリアに窯の様子を確認する。

「ミリアー。火の方は大丈夫かー?」

「多分、大丈夫だ。上段の方に熱気が籠っているからな」

 それじゃ、そろそろ焼いてみるか。

 大きめの木べらにピザ生地を乗せて、ピザ窯へと移動する。

 疑似的なオーブンみたいなものだから、近くにいるとかなりの熱気だ。

 額に汗がにじむのを感じながら、上段に差し込むようにピザを入れる。

「あとは、焼き上がるのを待つだけか……」

 問題はこの中がどれほどの温度なのか分からないので、このまま目視で焼き上がりを確認していくしかないことだ。

 しかし、ピザ窯の周りは熱くて大変だ。

 それなのに――、

「君達、興味があるのは分かるけど窯から離れなさい。危ないから」

 どうして、この三人は食い入るように焼き上がっていくピザを見ているのだろうか。

「だって気になるし……」

「美味しそうだし……」

「火の番が……」

「ノア、リオン。ここは俺に任せて次のピザ生地を作ってくれないか? ミリアはずっと熱にさらされてきついだろうから、二人の手伝いをしてくれ」

 なんだろう、久しぶりに年長者として注意ができたような気がする。

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