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ミリアの活躍で、サニーラビットを撃退することに成功した。
その後も度々サニーラビットがアメヤサイを狙って襲撃することがあったが、ミリアの凍結魔法と俺の天候魔法の合わせ技により、被害を出さずに追い払うことができた。
サニーラビットも今の俺達からはアメヤサイを奪えないと悟ったのか、一週間ほど経つと姿を見せなくなってしまった。
「さあ、収穫だ!」
俺はミリアと共にアメヤサイの実った畑の傍らに立ち、気合いを入れた。
「リオンとノアはどうしたんだ?」
「ノアは村まで窯を作るためのレンガを頼みに行っていて、リオンは料理の材料を買ってきてくれている」
レンガは俺が頼みにいこうとしたのだけど、ノアが「今回はあまり力になれなかったから、これくらいやるわよ」と言って代わりに行ってくれたのだ。
俺としては、力になれていないなんて全然思っていないんだけどね。
さあ、気を取り直して。
「よし、収穫作業を開始するぞぉー!」
「お、おー!」
ようやく収穫とあって、心なしかテンションも上がってしまう。
ミリアも恥ずかしがりつつ、握りこぶしを小さく掲げている。
「わんっ!」
心なしかフウロも嬉しそうだ。
アメキャベツに続いて二度目になる収穫。
色々なことがあったが、それでもようやく収穫に漕ぎつけることができた。
「今日収穫するのは、アメトマトとアメキュウリだ」
「ああ。収穫には何か特別な方法を用いるのか?」
「いや、そこまで難しくないから安心していいよ」
どちらもアメキャベツと違って、包丁で茎を切るような作業は必要ない。
ミリアに籠を手渡しながら、収穫方法を説明する。
「方法は単純。実った部分から伸びる枝を切るだけだ。収穫した野菜はこの籠に中にいれてくれ」
「分かった」
「それじゃあ、アメキュウリをお願いしてもいいかな」
「任せておけ」
快く引き受けてくれるミリアを頼もしく思いながら、俺は改めてキュウリの棘やら、収穫する大きさの基準とかを簡単に説明する。
「さて、と」
俺の担当はアメトマトだ。
大きく実っているアメトマトの前にしゃがみこみんで観察してみると、どれだけよく成長しているか分かる。
雨水を弾く光沢のある赤色の表面に、見て分かるほどに栄養を蓄えた大きなサイズ。
それを見て一度深呼吸をした俺は、アメトマトの下部に左手を添えてナイフで茎を断ち切る。
「うお、重いな」
ずしんと左の掌にかかる重さに、思わず声が漏れる。
確かな成果に内心でテンションを上げながら、大きいアメトマトは収穫し、まだ成長の見込めるような小さいものは収穫せずに放置しておく。
全部で十数個ほどのアメトマトを収穫し終えると、俺と同じくミリアもアメキュウリの収穫を終えてこちらに戻ってきた。
「ハルマ、言われたとおりに採ってきたが、これで大丈夫だろうか?」
「ありがとう。どれどれ……」
ミリアから受け取った籠を覗き込むと、そこには深い緑色の綺麗なアメキュウリが丁寧に並べられていた。
形こそ歪なものもあるけれど、どれも文句のない出来栄えだ。
「うん、大丈夫だ」
「そうか、よかった……。初めてだったから、うまくできたか不安だったんだ」
ミリアは胸を撫で下ろしていた。
俺は、籠にいれられたアメトマトとアメキュウリに視線を向ける。
どちらもうまく育ってくれた。
今回も。皆の力を借りてここまでこれた。
……やばい、少し泣きそうになった。この世界にきてから涙脆くなったな、本当に。
「わんっ!」
「フウロ、どうした?」
ミリアに隠れて袖で目元を拭っていると、俺の足元についてきていたフウロが円を描くようにその場でくるくる回りだした。
こいつがこういう動きをするときは大抵、天候魔法の雨が欲しい時だ。
俺はフウロのために雨雲を作り出そうとするが、あることを思いついた。
「ちょっと待ってて」
俺は掌に作った雨雲を地面から一メートルほど浮かせて、フウロの前に配置する。
そして籠から三つのアメトマトを取り出し、その一つをミリアに差し出す。
「ハルマ?」
「ノアとリオンには内緒だぞ?」
「……ああ、なるほど。フフッ、君も悪い人だな」
そう言って笑ったミリアは俺からアメトマトを受け取ると、自身の手と受け取ったアメトマトを降り注ぐ雨水で洗った。
俺もフウロと自分の分のアメトマトを洗ったあと、畑の近くの原っぱに移動する。
「先に食べてしまったのが二人にバレたら、怒られるんじゃないか?」
「自分の作ったものを仕事終わりに食べられる。それが農家の醍醐味の一つだ。もしバレたら、一緒に怒られてくれ」
おどけたように言うと、ミリアは気分を害した様子もなく楽しそうに笑った。
すると、俺の傍らにいるフウロが一声鳴いた。
「わんっ!」
「ああ、ごめん。お前も一緒だよな。じゃあ、二人と一匹だ」
そんな俺達のやり取りを見て笑ったミリアは、アメトマトに視線を移した。
「フフ、じゃあ、いただくとするか」
ミリアはそう言ってアメトマトに豪快に齧り付いた。
俺も彼女に倣って齧り付くと、予想以上に果汁が果肉から溢れ出て、トマト特有の酸味と程よい甘さが口内をかけ巡る。
味はトマトだと認識できるが、フルーツと錯覚してしまうような、そんな感覚だった。
「……美味いなぁ」
それ以外の言葉で表せないほど、本当に美味かったのだ。
「ハルマ、ありがとう」
「え?」
感動に打ち震えていると、唐突にミリアが感謝の言葉を口にした。
「今だからこそ言える。私はここに来られてよかった。これほど美味しいものを食べられたこともそうだが、私は他ではできないような経験を積むこともできた。それも、全部君達のおかげだ。だから、ありがとう」
そう言って少しだけ思いつめたような表情を浮かべたミリアは、手元のアメトマトを見つめた。




