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 ミリアが柵の補強をしてくれたおかげで畑の守りが強化されたが、依然としてサニーラビットへの対策は弱い。

 状況を重く見た俺は、エリックさんに調査団のケヴィンさんと話せないか相談してみることした。

 エリックさんの持つ魔道具を介してなら、遠く離れた王都とでも通信を行うことができると聞いたことがあるからだ。

 ケヴィンさんなら、もしかしてサニーラビットを撃退する方法を知っているのではないかという他力本願な思惑もあるけど、何かヒントのようなものだけでも知れれば御の字だ。


『そのサニーラビットを正攻法で何とかする方法は、ない!』

 魔道具によって映し出された映像の中のケヴィンさんに、あっさり無理だと断言されてしまった。

 さすがにこのまま収穫なしでは困るので、頑張って対話を試みる。

「そ、それはどうしてですか?」

『単純に頭がいいからさ。恐らく、君達が相対しているサニーラビットは極めて特殊な個体だ。下手をすれば人間以上の知能を持っている可能性もある。その知能に、野生の本能と俊敏な動きが加わっているとなれば、手の施しようはないな』

 あのケヴィンさんですら、そこまで評価するのか。

 これはいよいよ絶望的とも思えてきたな。

『しかし、方法がないわけじゃない』

「方法、とは?」

『まず一つ、サニーラビットの住む森を燃やす。これが一番確実な方法だな』

「駄目に決まっているでしょう!」

 涼しい顔で何言ってんだ、この人!?

 森を燃やすとか、そこまでして野菜育てたくないよ!?

 もしかして、ケヴィンさんならではのジョークなのだろうか?

『そっかぁ、これが一番手っ取り早いんだけどなぁ』

 今のは聞かなかったことにしよう。 うん。

 この人のぶっ飛び具合がよく理解できた。

「それで、他には何かないんですか?」

『あとは、王国から討伐隊を派遣するって手もあるけど。こっちは望み薄かな』

「まあ、相手はサニーラビットですもんね」

『しかも、被害は作物を荒らすことだけで人命に関わるようなことはないしね。貴重なアメヤサイが狙われていると報告すれば賛同してくれる人はいると思うけれど、それ以上に反対の声が上がると思う』

 まだアメヤサイの有用性を確立できていないから、王国からの協力も求められないってことか。

 つまり、自分たちでなんとかするしかない。

『君達の方でも何か対策を講じているのかい?』

「ええ。と言っても、ミリアの手を借りて柵を強化したくらいですけど……。あとは、ノアが村の農家の人達に掛け合って、サニーラビットの警戒を強化するよう呼びかけてくれているぐらいですね」

 俺の畑を守るのを手伝ってくれるという申し出をしてくれた農家の人もいたけど、それは断ってしまった。

 あのサニーラビットは確かにアメヤサイに執着しているが、他の畑の野菜を食べないないわけじないので、少なからず被害が出ている。

 アメヤサイを優先させて自分の畑を犠牲にしてもらうなんて、同じ野菜を育てる立場の者として我慢できなかった。

『君達の方は手詰まりというわけだな』

「……」

『いやいや、気を落とす必要はない。そのために私を頼ってくれたのだろう? それなら、微力ながら知恵を貸そうじゃないか』

「ケヴィンさん……! 本当にありが――」

『君がアメヤサイを完成させてくれなきゃ、僕の研究がはかどらないしねっ!』

 素晴らしい笑顔でそんなことを言ってきたケヴィンさんにがくりと肩を落としながら、彼の話に耳を傾ける。

『さて、まず私にできるアドバイスは……そうだね、頭のいい奴が相手なら、同じ目線で戦わないことだ』

「それは……えーと、どういう意味ですか?」

『簡単に言うと、彼らに知恵で対抗するべきじゃないってことさ。作戦を立てるのも重要だけど、時には力技で押し通した方が呆気なく勝利をもぎ取ることができるんだ』

「力技、か」

 確かに、ケヴィンさんの言うことも一理ある。

 下手に考えるから、こちらの動きを読まれているのかもしれない。だったら、難しいことは考えずにサニーラビットを撃退することだけに集中すれば、まだ希望は見えてくる。

『そのためには、君の護衛であるミリアが立ち直ることが必要だね』

「そうですね」

『サニーラビットが真っ先に彼女を排除しようとしたということは、彼女の存在こそがサニーラビットに対しての切り札にもなると考えられる』

 以前、ノアも同じことを言っていた。

 あの時は彼女を立ち直らせることが難しいと感じていたけれど、今は少なくとも希望が見えている。

 サニーラビットとの戦いに光明が見えたところで、俺はケヴィンさんとの通信を終了させた。


 ***


「あれ? ハルマ、もう帰るの?」

 帰ろうと玄関に向かう途中で、食器洗いを済ませたリオンと鉢合わせた。

 リオンの言葉に頷くと、彼女は少しだけ思い悩むような素振りを見せる。

「どうしたんだ?」

「今のうちに、新しいアメヤサイをどんな風に料理しようかハルマに聞いておこうかなって思って」

「そういうことかぁ」

 アメキャベツの時はロールキャベツを作ってくれたし、今回はどんなリクエストをしてみようかな。

 といっても、今回はちょっと食材がシンプルすぎるからなぁ。

「アメスイカは塩をふって食べればいいだけだし……。アメトマトとアメキュウリはサラダってのもシンプルすぎるしなぁ……。あ、そういえばチーズってこの村で手に入るのか?」

「うん、今のうちに頼んでおけば手に入るよ」

 チーズが用意できるのなら、あれが作れるな。

「俺の元いた世界では『ピザ』って食べ物があったんだ」

「どんな食べ物なの?」

 興味津々といった様子で詰め寄ってくるリオンに、簡単なピザの作り方を説明する。

 丸い生地の上にトマトやチーズ、それにお好みの具材を乗せて焼き上げる。

 そんな簡単な説明をすると、リオンは腕を組んで真剣な眼差しで自分なりの調理法を考えていた。

 あ、でもパン生地とかはどうするんだろう? ギリギリになって作れないってなるのも困るし、今のうちに訊いておこう。

「そういえばリオンって、生地からパンを作れ――」

「作れるよ。作ってみせるよ」

「お、おう」

 まあ、生地を作るときは俺も微力ながら手伝えばいいか。

 なんだか俺がいなくたってリオンなら作れそうな気もするけど。

 待てよ、そこまでしてピザを作るなら――。

「いっそのこと、ピザ窯も作っちゃうか」

「ぴざがま?」

「ピザを焼く窯のことなんだけど、作り方自体はなんとなく知っているから、やってみようかなって思ってさ」

 実は、密かにピザ窯とかに憧れていたのだ。

 大学生の頃、真面目に作ろうとしたけれど、雨が降る体質のせいで断念することになったな。

「ハルマ」

「え?」

 昔の記憶を思い出してちょっとだけブルーになっていると、優しく微笑んだリオンが俺の名を呼んできた。

「それがあったら、皆で作って食べられるね」

「……ああ、そうだな!」

 これから先、解決しなきゃいけない問題が山積みだけど、その後に楽しみが待っていると考えると、少しだけ明るい気持ちになれた。

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