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【閑話】ミリアの独白

 クロスエルグ騎士隊。

 そこへの入隊が決まったとき、私は柄にもなく諸手をあげて喜んだ。

 それはすなわち、自分の実力が正しく認められたことを意味する。

 それが、嬉しくないはずがない。

 期待に胸を膨らませながら正式な入隊を果たしてみると、先輩方も気の良い人たちで、部隊でただ一人の獣人である私に対しても、普通の人間と変わらずに接してくれた。

 ここが私の居場所なんだ。

 そんな思いを抱きながら、頼もしい仲間たちと多くの戦いを共にして半年が過ぎた頃だった。

 クロスエルグ騎士隊の隊長から、ある命令が私に下された。


『アメヤサイの栽培を成功させた天候魔法の使い手、アマミヤ・ハルマの護衛に任命する』


 天候魔法という存在は知っていたが、アメヤサイというものは知らなかった。

 聞いてみれば、食べると特殊な効果が得られる野菜とのことだが、そんなことはどうでもよかった。

 私が護衛として向かうのは、王国から離れた森に囲まれた集落だったのだ。

 つまり、隊を離れてよく分からない野菜を育てる天候魔法の使い手の護衛をしなければならないということ。

 どうして私なのかと隊長に直談判したが、帰ってきた言葉は『彼は重要な存在だから』の一点張りで、取り付く島もない。

 私は隊長から見放されたのではないかと疑心暗鬼になってしまった私は、心のどこかで自分が護衛に向かわされる理由となった“アメヤサイ”と“アマミヤ・ハルマ”に怒りを抱いてしまっていたのだ。


『初めまして、アマミヤ・ハルマと申します。ミリアさん、昼間は不躾な視線を向けてしまってすいませんでした』


 その言葉を聞いたとき、すぐに彼が善良な人間であることを理解した。

 異世界からやってきた人間。

 獣人という存在を知らなかった彼は、理不尽な理由で睨みつけてしまった私に謝罪をしたのだ。

 その時の私は、行き場のない感情が中でぐるぐると回っていた。

 隊に戻りたい。

 こんなところで燻ぶってなんかいられない。

 しかし、ハルマは悪い人間ではない。

 そこまで思考した私は、我ながら幼稚なことを考えてしまった。


 “アメヤサイなんて育たなければよかったのに”


 浅はかな考えだったと思う。

 今になって思えば、それはハルマの努力を否定するようなものだったからだ。

 しかし、私はそのまま子供のように意地を張って、アメヤサイも、そして畑仕事をしているハルマ達も頑なに見ようとしなかった。

 その最中、私は畑を荒らすというサニーラビットと相対することになった。

 見た目は酷く可愛らしいウサギだが、その内面は恐ろしく狡猾。

 断言しよう。

 私は、奴らほど知能の高い魔物を見たことがない。

 どんな突然変異であんな悪魔のような存在が成長してしまったのかは分からないが、私はプライドも、自尊心も、騎士としての誇りもすべて砕かれた。

 相手を外見だけで判断した結果、私は完膚なきまでに敗北してしまったのだ。

 今一度自分を見つめなおした私は、自分がどれほど浅はかで、未熟だったのかを自覚させられた。

 正直、ハルマ達にも見限られたと思っていた。

 私は再三の忠告も聞かずにサニーラビットに返り討ちにあい、怒りで冷静さを失って独断で行動して、結局は心だけを折られて帰ってきた。

 もしかしたら、護衛の任を解かれるかもしれないとまで考えていた。

 そうすれば私は王国に戻れるが、今の私があのクロスエルグ騎士に戻れるはずがない。

 たとえ隊長や先輩方が許してくれたとしても、他ならぬ私自身が許せなかったからだ。


『畑の仕事を手伝ってくれないか?』

 後日、ハルマが口にしたのは護衛を変えたいという話でもなく、不甲斐ない私を叱責する話でもなく、単純に自分の畑作業を手伝ってもらえないかという申し出だった。

 手伝うのは藁の束を運んだ時以来だったが、散々やらかしてしまった自分でも頼ってくれたのは素直に嬉しく思えた。

 改めて畑仕事に触れてみると、予想していた通りに地味でこれといった楽しさがあるわけじゃなかったが、近くで一緒に作業していたハルマの顔は、どこか楽しそうだった。

 その時に、知りたいと思ったのかもしれない。

 今まで武芸しか学ばなかった自分が、知ることのなかった世界を。

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