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サニーラビット捕獲へ闘志を燃やすミリアに、俺達の制止の声は届かなかった。
冷静さを欠いた状態で、あのウサギ共を相手どるのは危険だ。
それは理解しているものの、実のところ心のどこかでは「もしかして」と期待していたのかもしれない。
王国でも有名な騎士隊に所属し、尚且つその実力が保証されているミリアならば、あのウサギ共を見事捕まえることができるのではないか。
そんな淡い希望を抱いた俺は、畑仕事をこなしながらもミリアと三羽のサニーラビットとの戦い見守ることにした。
一日目
早朝からサニーラビット捕獲のために、森へ足を踏み入れたミリア。
俺は畑を離れるわけにもいかないので、いつも通り畑仕事をしていたのだが、夕方ごろになってボロボロの状態になったミリアが帰ってきた。
話を聞けば、午前中からサニーラビットを追い掛け回していたらしい。
どれだけ追いかけても速さが落ちることのないサニーラビットを必死に追いかけていたらしいが、実は一羽ずつ入れ替わりながら走っていたらしい。
ミリアがそれに気づいた時にはすでに体力の限界だったので、泣く泣く帰ってきたとのことだった。
二日目
前日で心が折れていなかったのか、ミリアはもう一度サニーラビットの捕獲へと乗り込んだ。
今度は手製の弓矢をもっていったので、今日こそはと思っていたが、そんなことはなかった。
どんよりとした状態で帰ってきた彼女によると、奴らは凄まじい危機察知能力により、軽やかに矢を避けてしまうという。
確かにウサギは耳を立てることで音を大きく拾えるようにするって話は聞いたことはあるが、まさか騎士の放つ矢すらも回避できるとは思わなかった。
三日目
連日の失敗が響いたのか、ミリアはかなり落ち込んでいた。
さすがにその状態で森へ入ろうとは思わなかったようで、午前中は大人しくしていた。
俺の方も、スイカの蔓が大分伸びてきたのでいらない芽を摘み取っていったり、キュウリが病気やカビに侵されていないかしっかりと確認したりと、自分の仕事をこなしていた。
しかしその日の午後、俺達の前に再びサニーラビット共がやってきたことで、空気が変わった。
あろうことか、奴らはミリアから一メートルも離れていない場所で挑発行為を行ったのだ。
それはもう、聞く者全員がイラっとすること受けあいの嘲った鳴き声を連続であげ、その結果ミリアの怒りが大爆発。
俺が止める間もなく、彼女はサニーラビットたちを追って森の中へと消えて行ってしまった。
その数時間後、半泣きで帰ってきた彼女に、俺は少し気まずくなった。
四日目
何度も失敗して学んだのか、その日はサニーラビットを追わずに森の中に罠をしかけたらしい。
王国騎士自慢の狩猟罠だ、と自慢げに語ってくれたのでそれなりにすごい罠らしい。
それほどの罠なら、今度こそいけるかもしれないな。
五日目
罠を確認しに行ったミリアが、泥んこまみれで帰ってきた。
理由を聞けば、自分の仕掛けた罠の位置がずらされており、逆に自分が引っかかってしまったらしい。
真面目に笑えないんですけど。
六日目
五日間ずっと虚仮にされていたせいか、ここにきてミリアが本気になった。
どれくらい本気になったかというと、躊躇なく魔法を使おうとするくらいだ。
ミリアがどんな魔法を使うのかわからないけれど、幾分か冷静になった彼女ならいけるのではないかと思えた。
そう思いミリアを応援しながら森へ送り出した――のだが、森へ入る手前でサニーラビットが仕掛けていた落とし穴に引っかかり、そのまま彼女は転んでしまった。
さらに最悪なことに、顔のあたりに位置する地面には泥が積まれており、ミリアはそこに思い切り顔を埋めてしまったのだ。
その様子を隠れていたサニーラビットが嘲笑った瞬間、最早人間の言葉を忘れたミリアが凄まじい挙動でサニーラビットを追って森の中へと消えていった。
その日、彼女はテントに帰ってこなかった。
七日目
翌日、心配になって早朝にテントを訪ねると、ミリアは帰ってきていた。
しかし、そのままテントに引きこもって出てこなくなってしまった。
……どうしよう。




