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 なんやかんやで、その場にやってきたノアと一緒にミリアの取ってきた巨大魚を食べることになった。

 その魚にはもうしっかり火が通っていたので、焚火の勢いを弱めたまま温めさせておいて、家から持ってきた木皿にほぐした身をのせる。

「魚なんて久しぶりに食べたけど、これは美味しいな」

 川魚だから泥臭いのかなと勝手に思っていたがそんなことはなく、脂もしっかりとのっていて、逆に単純な味付けの方が本来の味が引き立っていると感じた。

「うちの村には鮮魚なんて滅多に出回らないから、食べるのは私も久しぶりよ。ミリア、王国の方では魚料理のバリエーションも豊富なんでしょう?」

「はい。王国には港もあって漁業が盛んなので、城下町には魚料理を出す店が多くありますね」

「この村もいいけれど、王国には王国のいいところがあるのよね」

 王国では漁業が盛んなのか。

 どういう方法で魚を取っているのか気になるな。

 魔法が普及しているこの世界では、それを活用した漁とかあるのだろうか。

「でも、驚きね。この森の中にそんな場所があったなんて」

「ノアでも知らないことがあるんだな」

「私だって向こう見ずに森の中に入ったりしないわ。それなりに深い森だから、迷ったら大変なのよ」

「まるで経験したことのあるような口ぶりだな」

「……」

 あ、これは迷子になったことがあるんだな。

 俺から顔を背けたノアは、話題を変えるようにミリアの方へと視線を向けた。

「そ、そういえば、ここって前と比べて色々なものが増えたわね」

「ええ、時間を見つけては生活に使える小道具などを作っているので……」

 よく見れば、テントの周りには木で削られたコップや皿、それに今座っている切り株型の椅子がある。これらは数日前にはなかったものだ。

「ミリアは手先が器用なんだな」

「それほどでもないが……」

 本人は謙遜しているけど、作られた小道具の精度はかなりのものだ。

 テントには補強とかもしてあるし、いつか本物の家も顔負けな場所を作りそうではあるな。

「そういえば、ハルマに聞きたいことがあったんだが……」

「なんだ?」

 考えに耽っていると、今度はミリアが話しかけてきた。

「畑を襲うサニーラビットについてだが、そいつらはどれほど厄介な存在なんだ?」

「そうだな……。人間を小馬鹿にしているクソ畜生かな」

「そ、そこまで言うか? 王国では、サニーラビットは見た目の愛らしさで子供や女性にも人気があるのだが……」

「あいつらが、人気……?」

「う、嘘でしょ……?」

「私には二人の反応の方がおかしいと思うのだが……」

 あの人を小馬鹿にしたあんちくしょうが女性や子供に人気を博しているなど、にわかには信じられない。確かに見た目こそは愛らしいが、その性格はまっくろくろすけだぞ。

「王国の人達は知らないのよ。ここに住むサニーラビットの恐ろしさを」

「ああ、奴らは人間並みの知恵とそれ以上の狡猾さを持っているんだ。ただのウサギと侮っていたら、次の瞬間には地面に転がされる羽目になる」

 実際、俺は初めてサニーラビットと相対した時、隙を突かれ転ばされてしまった。

 あの時ノアがいなければ、アメキャベツは奴らに食われていただろう。

「いやいや、さすがにそれは嘘だろう。どうやったら人がサニーラビットに転がされるんだ」

「だからこそ、君が来てくれて助かった」

「え?」

 呆気にとられた声を漏らすミリアに、俺は真剣な表情を浮かべる。

「あのサニーラビットは修行を積んで、さらなる力を身に着けて俺の畑を襲撃しようとしている」

「ちょっと待て、魔物が修行を積むっておかしくないか?」

「だが実際に、それが行われてしまったんだ……!」

 俺は力強く握った拳を膝に叩きつけ、苦渋の声を漏らす。

「えぇ……」

 そんな俺に困惑するミリアだが、俺はいたって真面目だ。

 正直、強化された奴らに俺とフウロだけじゃ勝てる気がしない。

「まあ、この時期にミリアが来てくれたのは本当に助かったわ。サニーラビットが強くなったことが判明した後だし」

「まだ信じられません。私の認識では、サニーラビットは、生態が異なっているとはいえそこらのウサギとなんら変わらない魔物でしたから……」

「まあ、それは一度見てみないことには分からないと思うわ。どちらにせよ、ハルマの護衛をしている間は、否が応でも遭遇することになるだろうから」

 ノアの言葉に、ミリアは曖昧に頷いた。

 問題は、奴らはいつ襲撃してくるかだ。

 順当に考えるのなら、アメヤサイが実り始めたあたりに来るだろうと予想されるが、進化した奴らが普通の手段で来るとも考えにくい。

 そこまで考えていると、目の前に座っているミリアが不意に小さく何かを呟いた。

「ここで何をしているんだろうな、私は……」

「ミリア……?」

「いや、なんでもない。ただの独り言だ」

 そう言って顔を上げた彼女の表情は陰鬱なものではなく、凛としたものへと戻っていた。

 焚火の薪の弾ける音で聞き取り辛かったけれど、微かに聞こえたその言葉。

 彼女は、今置かれている状況に納得していないのだろう。

 

***


 その日の夜。

 エリックさんとリオンの家へと訪れていた俺は、昼間にミリアがとってきた巨大魚を食べたことをエリックさんに話していた。

「確かに、ここの森には人が踏み入れていない場所があるから、そのような湖があっても不思議ではないね」

「でも、あんなに大きい魚がいるなんて思いもしなかったですよ」

「ハルマ君の世界でもそんな魚はいなかったのかな?」

「いるにはいるんですけど、身近な場所にはいなかったですね」

 俺の知っている魚で例えるなら、マグロだとかスズキだとかその辺だろうか。

 とにかく、ミリアのとってきた魚は淡水魚としては相当な大きさだったということだ。

「そうなのか。まあ、よかったじゃないか。ここは内陸よりだから、魚は滅多に出回らないんだ。出回ったとしても、色々と怪しいものだから誰も買わないんだ」

「あー、腐ってたりしているかもしれないですからね……」

 燻製とかならまだしも、生魚は少しの温度の変化で品質が変わってしまうデリケートな食材だ。うっかり食べてしまって食中毒、なんてことになるかもしれない。

「ねぇ、ハルマ。今の話、本当?」

「ああ、本当だよ……って、あ」

 台所からでてきたリオンを見て、今更ながらしまったと思う。

 ここらで滅多に魚が食べられないのなら、当然隠れ食いしん坊のリオンも食べたかったはずだ。

 案の定、リオンはショックを受けたように口元を手で押さえた。

「嘘でしょ……。ハルマ、どうして私を呼んでくれなかったの……!?」

「え、いや、その……」

「私も大きいお魚、食べたかった……」

 どんよりと落ち込んだリオンに、俺は大変申し訳ない気持ちに苛まれた。

 最終的には、今度ミリアに魚をとってきてもらう約束をして事なきを得たけれど……。次に魚を食べる機会があれば、絶対にリオンを呼ぼうと強く誓ったのであった。

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