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「よし、これで最後の支柱ね!」

「そうだな」

 少し時間はかかったが、俺達はアメキュウリの支柱を全て組み立てることができた。

 額に滲んだ汗を拭いつつ畑を見渡してみれば、アメキャベツの時とは違った様相となっていた。

「ちょっと広い家庭菜園っぽいな……。ん? リオン、大丈夫か?」

「うん……」

 少し顔色の悪いリオンに声をかけるが、とても大丈夫そうには見えない。

 畑仕事に慣れている俺達と違って、リオンはまだ慣れていないからな……。

 今日は日差しも強いので、それで体力を削られたってこともあるのだろう。

「リオン、あまり無理はしないほうがいいわよ。慣れない作業なんだし、疲れるのは当然なんだから」

「……分かった」

 ノアの言葉に渋々頷いたリオンは、日陰のある小屋の方へと移動する。

 手伝ってくれるのは嬉しいけれど、それで倒れでもしたら大変だからな。

「それじゃあ、次の……というか、最後の作業に移るか」

「何をするの?」

「敷き藁だな。これはちょっと大変な作業になるかもしれないから、覚悟しておいてくれ」

「私は大丈夫よ。体力には自信があるし」

 えっへんと胸を張ったノア。

 多分この子、俺以上に体力あるからあながちハッタリでもないんだろうなぁ。

「でも、敷き藁ねぇ。スイカ用のやつとかは結構たくさん敷き詰めなくちゃいけないらしいから、二人だけじゃ時間がかかっちゃうわ」

「まあ、まだ時間があるから大丈夫だろ」

「……いいえ、この際手伝ってもらっちゃいましょうか」

「え、誰に? リオンは疲れているから無理だぞ?」

「違うわよ。私が言っているのは??」

 そう言って、ノアは背後を振り向いた。

 同じ方向を見れば、所在なさげに座りこんでフウロを撫でまわしているミリアがいた。

「ミリアー!」

「うぇ!? す、すいません! こう見えてもきちんと周囲を警戒しているので、心配はいりません!」

 ノアに呼ばれたミリアは、即座に立ち上がり姿勢を正した。

 そんな彼女に微笑んだノアは、やや大きな声を上げた。

「ちょっと手伝ってほしいんだけど、いいかしらー?」

「は、はい!」

 慌ててこちらへやってくるミリアを見て、少し微妙な気持ちになる。

 いや、別にミリアの行動に対してそう思っているわけではない。

 ミリアの姿と、ミリアを呼ぶノアの姿が、上司に呼び出された時の会社時代の俺の姿に重なってしまったからだ。

 状況は全然違うが、その時の胃がキリキリとする感覚を思い出して変な笑みを浮かべてしまう。

 あれ? 俺ってもしかして会社時代の意識とか抜けてない?

 衝撃の事実に愕然としながらも、目の前にやってきたミリアに視線を向ける。

「それで、手伝いとは何をするのですか?」

「ハルマ、説明してあげて」

「今から藁を運ぶんだけど、それを手伝ってほしいんだ」

「それくらいなら……」

 ちらりと森の方を見てから、頷いてくれる。

 今のところは、あの畜生ウサギ共を警戒する必要はないだろう。

 奴らが本格的に活動するのはアメヤサイがもっと生長してからだろうし、来ても偵察くらいのはずだ。

 俺とノアは、ミリアと共に小屋の裏手の馬車にのせてある大量の藁を畑の傍らにまでは運ぶ作業へと移った。

 一纏めにされた藁は俺が両手で抱えられるほどの大きさだが、これが意外にも結構重かった。

 表面上は乾燥しているように見えるが、中身は湿気などの水分を吸っているので見た目以上の重さがあるのだ。

 それを両手で抱えるように持った俺は、やや足をふらつかせながら畑へと藁を運び込む。

「よいしょっと。ノア、あまり無理はしないようにな」

「私は大丈夫よ。力仕事は慣れてるし」

「そう言って、またすってんころりんしても知らないからな」

「それは忘れてって言ったでしょ! もう!!」

 顔を真っ赤にするノアに笑いかける。

 実際、ノアが藁の束を抱えて歩く姿に危うさは感じられない。

 さすがだなぁ、と思いつつ自分の体力のなさに情けなくなっていると、目の前に沢山の藁の束が積み重なるように一気に運ばれてきた。

「んな!?」

「ふぅ、これでいいのか?」

「あ、ああ……」

 まさか、この量を一気に持ってきたのか?

 数えてみると藁の束は四つもあり、俺なんかでは到底持てる量ではなかった。

 俺の驚きを察したのか、ミリアはどこか気まずそうに視線を逸らした。

「獣人族は身体能力が人間よりも高くてな。これくらいのことなら子供でもできる」

「子供でもって……」

 嘘だろ。

 獣人の子供にすら腕力に劣るの、俺?

「……怖いか?」

「え? いいや、それほどは」

「……そ、そうか」

 普通に返答した俺に、ミリアは困惑しているようだ。

 なにか思うところでもあったのだろうか。

 それとも、単純に俺が獣人を怖がるとでも思ったのだろうか。

 さすがに露骨に害を与えてこようとするなら怖がるかもしれないが、獣人だからという理由だけで避けようとは思わなかった。

「これで全部よー。ハルマー」

「ん? おお、ありがとう」

 最後の一束を持ってきたノアに礼を言いつつ、藁の一つを持ち上げる。

「じゃあ、これを畑に敷いていこうか。まずはアメスイカからだ」

「ええ。ミリアも手伝ってくれる?」

「わかりました」

 やっぱり手伝ってくれている人がいると、大分違ってくるなぁ。

 改めてそんなことを思いながら、俺と同様に束を持った二人と共にアメスイカの植えられている付近に運び込んだ藁を下ろした。

「アメトマトとアメキュウリにはそれほど沢山敷かなくてもいいけれど、アメスイカには少し厚みをもたせて藁を広げていこう」

「ええ、分かったわ」

「あ、ああ……」

 ノアは分かっているようだけど、ミリアは藁を敷き詰める意味がよく分かっていないようで、首を傾げながらも一纏めにされた藁をほぐしていく。

 黙々と作業するのもアレだし、ミリアにも説明しておくか。

「今、俺達がやっているのは“敷き藁”っていう作業なんだ」

「しきわら?」

「ああ。文字通り藁を敷くことなんだけど、これをすることによって野菜の成長を促したり、色々な効果が期待できるんだ」

 意外にも藁というのは野菜作りにおいて重要なものだ。

 ほぐした藁を横に広げるようにしながら、スイカを育てる予定の箇所へと大きく、そして厚く敷き詰めていく。

「これで土の乾燥を防いだり、泥が跳ねたりするのをを防ぐことができる。特に泥に関しては、天候魔法の雨によって跳ねる泥も防いでくれるからな。結構、重要なんだ」

「それに、スイカが蔓を伸ばす方向を誘導してくれるって点もあるわよ。スイカの蔦は横に伸びるから、敷き藁をしなかったら全方位に蔦がのびちゃって大変なことになっちゃうの。そうだよね、ハルマ」

「お、おう」

 また言いたいことを全部言われてしまった。

 何度目か分からないけど、マジで知識半端ないな、この子。

「……意外にも奥が深いんだな」

「まあ、そうだな。だけど、今日やったことはまだ序盤。これからもっと大変な作業があるから……頑張んないとな。うん」

「病気にも気をつけなきゃいけないし、これからが大変ねぇ」

 藁を敷き詰めながらうんうんと頷く俺とノアを見て、くすりと微笑んだミリアだが、すぐに俯いて没頭するように作業に戻ってしまった。

 ……まだまだ彼女と距離を縮めるのは難しそうだ。

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