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 サニーラビットの急成長を見せられた夜。

 夕食前、俺はノアをリオンとエリックさんの家に招き、サニーラビットのことについて会議を行っていた。

「由々しき事態ね」

「すまない。奴らの成長スピードを侮っていた」

「貴方のせいじゃないわ。私も甘く見ていたことは事実よ」

 組んだ指の上に顎を乗せたノアは、深刻な表情を浮かべている。

 彼女は俺よりもあの畜生ウサギ共の厄介さを知っているからこそ、今日起こったことの深刻さを痛いほど理解できているのだろう。

「今回の件でよく分かった。あいつらは普通の魔物じゃないわ。得体のしれない……野菜を食べるためならどんな困難も乗り越えようとする。そんな農家にとっての最強最悪の敵よ……!」

「ああ、俺もそう思う」

「わんっ」

 俺、ノア、フウロが同意する中、その様子を台所から見ていたリオンは少し困ったような表情を浮かべている。

「ねぇ、おじいちゃん。たまにさ、ハルマとノアのテンションについていけなくなるときがあるんだけど」

「安心しなさい。私もだ」

 俺の隣に座っているエリックさんも、どこか所在なさげだ。

 確かに、サニーラビットはほぼウサギだ。姿を見ただけじゃ、その厄介さを理解するのは難しいだろう。

 しかし、野菜を育てる者からすれば違う。どんな強力な獣よりも、奴らの方が恐ろしいのだ。

 思わず身震いしていると、エリックさんが話に入ってくる。

「しかしだな。私が聞く限り、そのサニーラビットはかなり知能の高い個体のようだ。もしかすると、かなりの時間を生きているのかもしれないね」

「やっぱり、魔物って寿命も普通の動物とは違うんですね」

 薄々、普通の動物とは違うんじゃないかとは思ってはいたけども。

「そうだね。種族によっては百年以上生きるものもいれば、驚くほど短いものもいる。でも時折、特殊な個体が生まれてくることがあって、それらは総じて高い知能とそれなりの寿命を持っているんだ」

「それが、あのサニーラビットの親玉だと?」

「その可能性は高いね。なにせ、人間の仕掛けた罠すらも看破するほどだ。よほどの経験と知能がなければできないことだろう」

 やっぱり、あいつは普通のサニーラビットとは違っていたのか。

 取り巻きの二羽は普通のサニーラビットなのかもしれないが、それでもあのボスウサギの統率により、半端なく厄介な存在になっている。

「そんな相手から、アメヤサイを守り切れるだろうか……」

「ハルマ。私は弱音なんて聞きたくないわ」

「……ああ、分かってる」

 今すべきことは、弱音を吐くことなんかじゃなくて、考えることだ。

 どうやって、これから襲撃してくるであろうサニーラビットを撃退するか。

 生半可な罠では躱されてしまうし、フウロを鍛えるにしてもまだ子供だから、無理をさせるわけにもいかない。

「とりあえず、柵をもうちょっと頑丈なやつにしておくか」

 それはあくまで予防策でしかないのは分かっているし、薄々あいつらなら簡単に突破してしまうじゃないかとも思ってしまっている。

 ノアも同じことを考えているのか、物憂げな表情を浮かべテーブルに突っ伏した。

「正直、アメヤサイを守るためにあと一人、動ける人がいたらいいなって思うのよ」

「いやいや、動ける人って今はどこも忙しい時期だし、そもそも雇える人の心当たりすらないぞ」

「そうなのよねぇ」

「「はぁ……」」

 二人してため息をつく。

 すると、エリックさんが手を挙げて話しかけてきた。

「ハルマ君。夕食の後にでも伝えようと思っていたんだけど、実はついさっき王国からの返事がきたんだ」

「へえ……え、そうなんですか!? そ、それでどのような内容だったんですか!?」

 エリックさんがあまりにも軽い感じで話してきたから、思わずスルーしかけたわ。

「……そうだね。簡潔に言うなら、予想通り王国の方はちょっとした混乱状態に陥っているみたいなんだ」

「混乱状態、ですか……」

「今は失われたアメヤサイの栽培に成功しただなんて、あちらからすれば嘘か本当か分からないことを成し遂げたんだ。混乱するのも当然だよ」

「エリックさん、王国はなにか対応をされるんですか?」

 ノアの言葉に、エリックさんは一度頷いてから言葉を発する。

「近いうち、ここにアメヤサイとフウロを調べるための調査団が訪れることになった」

「調査団……? それって、フウロを連れていかれたりとかは……」

「もちろん、そんなことはない。加えて、フウロのことは極秘扱いだから王国内でも他の人間に漏れることはまずないと考えていいよ」

 よ、良かった。

 もしフウロが連れていかれて、酷い目に合わされたらどうしようって思った。

「それでさっき君達が話していた“動ける人”に関係することなんだけど、調査団と一緒にハルマ君の護衛を担当する凄腕の騎士が一人来てくれるそうなんだ」

「凄腕の騎士!? 俺なんかにそんな大それた……」

「いやいや、むしろ逆よ。ハルマ」

 狼狽する俺に、ノアが手を横に振って否定する。

「え、なにが逆なんだ?」

「雨の天候魔法という、唯一アメヤサイの栽培を行える魔法を持ったハルマに、凄腕とはいえ護衛が一人だけって少なすぎるわよ。エリックさん、これには何か理由があるのですか?」

「うむ。護衛が少ない理由は、おそらく王国の方でも未だにハルマのことを測りかねているからだと思う。中には、頑なにアメヤサイの存在を否定するものや、たかが野菜程度に護衛をつけるなといった意見もあるらしい」

「なるほど……」

 価値観の違いによって、意見は分かれるってことか。

 アメヤサイは、分かる人が見ればかなり凄いものだけど、逆に微塵も興味のない人からすれば、そこらにある野菜とそう変わらないことになる。

 しかし、それでも護衛が一人だけとはいえついてきたのは……。

「その調査団が、俺の評価を見定める……ということですか?」

「そういうことになる。既にアメキャベツの調査は進めているので、現地で調査するのは君の天候魔法とフウロ、そして他のアメヤサイの生態くらいだろうね」

 俺自身の天候魔法も調査されるのか。ちょっと緊張するな。

「あ、先日君に言った僕の友人も調査団に参加するんだけど、そのついでに君が希望していたものをもってきてくれるように頼んでおいたよ」

「え、本当ですか? ありがとうございます。エリックさん」

「いやいや、これも私も君の助けになれて嬉しいよ」

 これで次のアメヤサイの準備を整えられるな。

 護衛にどんな人が来るのか不安もあるが、まあそれはなんとかなるだろう。

 そんなことを考えていると、台所から料理をのせた皿を持ったリオンが出てくる。

「できたよ」

「おお、夕飯か」

 サニーラビットや調査団、それに護衛の人という不安に思ってしまうことが沢山あるけど、それよりもまずは目の前のご馳走に集中しよう。


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